第35話 私ともクリスマス過ごしてくれない?

「……ね、寝てしまった」


 彼女の隣に寝転がっていたわけじゃないが、どうやら床に座り、頭をベッドに置いて寝ていたようだ。


 咲愛さんは、ちゃんとベッドの上ですうすうと気持ち良さそうに寝ていた。


(手繋いで寝てたんだ……)

 

 寝る前の記憶があやふやだが、左手を見ると咲愛さんの手が握られている。


 ここに来たのが3時頃、今は5時だ。そろそろ帰らないと。


「咲愛さん、咲愛さん」


 左手は手を握ったまま右手で彼女の肩をとんとんと叩き起こすが、起きてくる様子はない。


 何度か彼女の名前を読んでいると繋いでいた手がピクッと動いた。


「ん~、隼人さん……?」


「あっ、起きた……おはよう、咲愛さん」


「おはよう……ございま……はっ! 寝顔、見ましたか!?」


 ぼんやりと俺の顔が見えてきて目が覚めると彼女は、飛び起きて顔を真っ赤にさせた。


「み、見てないよ?」


「目が泳いでます。見たんですね」


 ガッツリ見てしまったことを隠そうとするが、咲愛さんに見抜かれてしまい、すぐにバレた。


「隼人さんにはしっかりとした私を見て欲しいのに。寝ているところを見られるなんて、恥ずかしいです」


 咲愛さんは、近くにあった毛布にくるまり、隠れようとするが、毛布が小さかったため完全に隠れきっていなかった。


(顔だけ出してるの可愛い……)


「俺は、しっかりしてなくてもどんな咲愛さんでも好きだよ」


「告白ですか?」


「えっ、あっ、いやそうじゃなくて……」


「ふふっ、お姉ちゃんから聞きました。隼人さんは、学校ではかなりモテているそうですね」


「そう……なのかな?」


 自分自身、そんなことは全く思っていないのだが、友人がよく「隼人はモテている」と言ってくるので多分そうなんだろう。


「ふふっ、お姉ちゃんが言うのですからそうです。となるとライバルが多そうです。隼人さん、言いたいことがあるので少し話をしてもいいですか?」


「話? いいけど……」

 

 少し話をすると言っていたが、彼女は、端にいたが、俺の近くに来て、真剣な表情をする。 


 大事な話な気がして足を崩して床に座っていたが、彼女の隣に座った。


 彼女の綺麗で吸い込まれそうな瞳から目が離せない。


「私、隼人さんが好きです。隼人さんは……私のことどう思ってますか?」


 彼女が好きでいてくれたことは知っていたけれど、こんなにストレートに気持ちを聞いたのは初めてだった。


(これって告白……だよな?)

 

 鈍感な俺でも告白されていることはすぐにわかった。


 返事にはあまり困ることなく嘘偽りない言葉が頭に浮かび、そのまま彼女に伝えた。


「俺も咲愛さんのことが好きだよ。けど、これが異性として好きなのか、友達としての好きかわからないんだ。ごめん、ハッキリした言葉じゃなくて」


 彼女は、好きか、好きじゃないとハッキリした言葉が欲しいと思う。けど、今の自分はこう答えることしかできない。


「いえ、好きと言ってもらえただけで嬉しいです。いつか隼人さんに大好き、付き合って欲しいと言ってもらえるよう私、頑張りますね」


 好きと言ってもらえてちゃんとした答えをいつか彼女には伝えたい。


 咲愛さんは友人と違った特別な人であるからこそ。ちゃんとした言葉を。






***






「メリークリスマス」


「おぉ、可愛いサンタさん」


「お客様、ガン見しないでください」


 12月24日。結衣がバイトしているカフェに午前中、ケーキを買いに行くとサンタの衣装を着た彼女がいたので声をかけた。


「似合ってる」


「ありがと。嫌って言ったんだけど、私だけ着ないのもあれかと思って着たの。偉いでしょ?」


「うん、偉い偉い」


 子どもを褒めるように彼女の頭を撫でると結衣は、俺の胸に頭をぐりぐりと押し付けてきた。


(褒められて照れたのかな……)


「で、ケーキ買いに来たんだっけ? 私、もうすぐ上がりだから後でカフェの外で会おっ」


「うん、また」


 結衣はキッチンへ戻り、俺はケーキを買うことにした。


 ケーキを買って先にカフェを出ると後から結衣が出てきた。


「結衣、バイトお疲れ」


「おっつー。何ケーキ買ったの?」


「ショートケーキを3つ」


「お~、いいね。ケーキあるし、今日は私が家まで送るよ。話したいことあるし」


 カフェから俺の家がある方向へと2人並んで歩きだす。


 彼女は、コートに手袋と防寒はバッチリだが、首もとが寒そうだった。


「咲愛の付き添いありがと。まさか隼人くんを連れていくとは思ってなかった」


 彼女は、お父さんに会うときに咲愛さんの隣にいてくれたことにお礼を言った。


「咲愛さんの助けになりたかったからね。結衣は、お父さんとはどう? 咲愛さんが、心配してたけど」


「どう……か。別に普通だよ、お父さんの考えが変わってちょっとビックリして心の整理がついてないだけ。気にしないで」


「……うん、わかった」


 彼女がこういうなら俺がこれ以上お父さんとの関係に深く聞くのは間違っている。


「話変わるけど、クリスマスは、咲愛と過ごすんだって?」


「うん、咲愛さんが誘ってくれて」


 そう答えると結衣は、少し考えてから俺の顔をじっと見てきた。


「へぇーそうなんだ。その後、時間あれば私ともクリスマス過ごしてくれない?」


「結衣と……うん、いいよ」


 結衣からこう何かしようと誘われたのはこれが始めたな気がする。だからこそ最初、聞き間違えかと驚いた。


「やった。待ち合わせだけど『tuki』でもいい? あの部屋でクリパしよ。私、明日はあっちの方にずっといるから」


「うん、わかった。咲愛さんとの予定が終わったらすぐに行くよ」


「ん、待ってるね」


 家まで結衣に送ってもらい、彼女と別れ、家の中に入った。すると、帰ってくるのを待っていた美雨が玄関まで走ってきた。


「ケーキ買ってきた!?」


「うん、買ってきたよ。キッチンに持っていってくれる?」


「うん、持っていくー」


 ケーキが入った箱を美雨に渡して、自室のある2階へ上がっていく。


 クリスマスは、咲愛さんと結衣と過ごす。よくよく考えたら女子と2人で過ごすってしたことないな……。


 特別何かするわけではないが、少し楽しみだと思った。


 クリスマスだし、2人に何かスイーツを作ってあげよう。


 冷蔵庫にあったものを思いだし、彼女達にあげるためのスイーツは何がいいかと考えながらベッドへ仰向けになって寝転んだ。


(あっ、あれにしようかな……)








         

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