第34話 咲愛さんからの誘い
「私は、また家族みんなで過ごしたいです」
咲愛さんは、目の前に座る大輝さんに向かって今の自分の気持ちをハッキリと伝えた。
「無茶を言ってるのはわかってます。仕事も大事ですが、お父様は、もっと家族を見てほしいです」
咲愛さんの言葉は、父親にはどう届いただろうか。ちゃんと伝わっているといいけど。
少し思い空気になり、シーンと静まり返ったが、大輝さんは、少し考えてから口を開いた。
「仕事を優先したのはすまないと思ってる。けど、今さら私が家に戻ってまた一緒に暮らしたいなんて言っても───」
「いいに決まってます! 咲愛さんの望みは、また家族でいることなんですから」
本当は親子の会話には自分は聞くだけのつもりでいた。けれど、気付いたら言っていた。
急に俺が口を開いたので咲愛さんも大輝さんも驚いていた。
すみませんと小さく呟き、背もたれにもたれ掛かると咲愛さんが、俺だけに聞こえる声でありがとうございますと言った。
「子供をほったらかしにするのは許されるべきことではありません。ですが、お父様にまた一緒に住みたいという気持ちが少しでもあれば戻ってきてほしいです」
本当に中学生なのかと疑うほどにハッキリとした真っすぐな言葉に俺は驚きながらも聞く。
大輝さんは、仕事を優先したことに後悔している。優先してしまった以上、元には戻れないと思っているかもしれないが、咲愛さんは、父親とまた一緒にいたいと願っている。
「……本当にすまない。私は、父親失格だ」
「お父様……。謝罪はお婆様とお姉ちゃんにだけでいいので、私に謝るのは禁止です。私は今、聞いて嬉しい言葉が欲しいです」
「咲愛の方が大人だ……。許してくれとは言わない。けど、また一緒に暮らそう」
「……はい!」
咲愛さんは、笑って返事をした。その時、嬉しかったのか涙が浮かんでいた。
大輝さんが仕事優先は間違っていると気付き、また一緒に住むことになったことは、彼女にとって望む未来に一歩近づいたといったところだろう。
後日。咲愛さんから聞いた話だが、どうやら大輝さんは、加代子さんから長時間の説教されていたらしい。
まぁ、子供を置いて仕事を優先して家を出ていたのだから怒られて当然だ。
一緒に暮らすようになってから、大輝さんは、仕事をやりつつ家事をやっているらしい。
結衣と大輝さんに関しては今も仲が悪く、口を聞いていないそうだ。
まだ家族問題は解決していないが、俺にも出きることがあれば言ってほしいと咲愛さんには言った。
***
クリスマス1週間前。公園で話そうと最初、予定していたが、外はあまりにも寒すぎるので咲愛さんの家にお邪魔した。
仕事の休みを取った大輝さんと下で挨拶してから2階にある彼女の部屋で話すことに。
話すことは主に大輝さんと暮らし始めたことの話だ。
「それでですね、この前は一緒に夕食を食べに行きました」
彼女は、楽しそうに話していたので聞いていた俺まで幸せな気持ちになった。
「結衣お姉ちゃんとお父様は、話し合いで仲直りとはいかなくて……」
「そうなんだ。何かできることがあればいいんだけど結衣にも考えがあるだろうし勝手なことできないなぁ」
家族でもない俺が何か手伝って親子関係にヒビを入れたくはない。迷惑にならない程度のことは何かないだろうか。
「仲直りできる方法少し考えてみるよ」
「ありがとうございます、隼人さん。ところで、話が変わるのですが、クリスマスは予定ありますか?」
クリスマスの予定か……。予定があったか覚えていないのでスマホのカレンダーアプリで確認した。
うん、ないな。去年は、穂香と拓海の3人でクリスマスパーティーをしていたが、今年は2人で過ごすだろう。
「ないよ。咲愛さんは?」
「私もないです。隼人さん、一緒にクリスマス、過ごしません?」
家族で過ごそうかなと思っていたが、誘ってくれたのはとても嬉しいことなので頷いた。
「うん、一緒に過ごそうか」
「はいっ、決まりですね」
ふふっと嬉しそうに笑う咲愛さん。彼女を見ているとふと、俺とクリスマスを過ごしてくれるみたいだけど家族とはいいのだろうかと後になって思った。
「家族とは過ごさなくていいの?」
大輝さんとも上手くやっているようだし、咲愛さんにとっては家族で過ごす方が良いのではないかと考える。
「家族とはクリスマスイブにパーティーを開く予定なので大丈夫です」
「じゃあ、俺と一緒だ。俺もイブは、美雨とお婆ちゃんとでケーキ食べたりする予定だからね」
「へぇ~、そうなんですか。となりますとクリスマスにもケーキを食べるのはさすがに食べすぎですね。クリスマス当日、私と何をしますか?」
クリスマスと言えば、チキンやケーキを食べたりするイメージがある。
後は、イルミネーションを見に行くとか外に出るのもいいが、外は人が多く、行ってもあまり楽しめないだろう。
「普通に家でゆっくりでいいんじゃないかな?」
「そうですね、それがいいかもしれません」
取り敢えず、クリスマス当日は、咲愛さんと家でゆっくりと過ごすことに決まった。どちらの家でかはまた後日決めることに。
「そう言えば、結衣お姉ちゃんから聞きました。お姉ちゃんとお泊まりしたそうですね?」
「う、うん……したよ」
気のせいかもしれないが、咲愛さんが、少し怒っているように見える。
「私も隼人さんとお泊まり会したいです。ダメですか?」
咲愛さんは、俺の近くに来て優しく手をぎゅっと握ってきた。
「ダメだと思う……親も許可しないだろうし、結衣もダメって言うと思う」
男子高校生と寝かせるなんて中学生を持つ親が許すはずがない。
俺は彼女になにもしないと誓えるが、男子高校生なんて危ないやつとしか思われていないだろう。
「むふぅ~、歳が離れていると中々難しいです。隼人さん、そこに座ってください」
そう言って、咲愛さんは、ベッドを指差した。
「う、うん……」
言われた通りベッドに座るが、女子のベッドなので、何だか落ち着かない。
「ダメなら今からここで一緒にお昼寝しません? 内緒で」
彼女は悪そうな顔をしてそんな提案をしてきた。
(そんなに俺と寝たいのかな……)
色々と考えていると咲愛さんは、ベッドに寝転がり、両手を広げた。
「寝ましょ? 隼人さん」
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