第32話 結衣の誕生日会
結衣の誕生日当日。結衣を俺の家に招き、誕生日会を開くことにした。
いつも全員で一緒に帰ることはないが、今日は、結衣、穂香、拓海、理沙の5人で帰ることになった。
「ん~今日も疲れたぁ~!」
「だね、7時間授業はきついよ」
「けどさ、明日は────」
後ろで結衣と理沙楽しそうに話し、始めの頃と比べると仲が良くなったと思う。
1人でいることが好きってところは変わらないみたいだけど、誰かといる楽しさを教えてあげることができたかな。
後ろにいる結衣を少しの間、見ていると誰かに肩をポンポンと叩かれた。前を向くと穂香が顔を覗き込んできた。
「何見てるの?」
「えっ、あっ、何も見てない」
「むむむ、怪しいなぁ~。そういや、今日は、咲愛ちゃんも来るんだっけ?」
「うん、来るよ」
結衣の誕生日会をやると言ったら咲愛さんは、是非私も参加したいと言ってくれた。
最初はあまり大人数で祝われるのは好きじゃないと言っていたが、途中から親しい人とならいいと言ってくれていつものメンバーと咲愛さんに声をかけた。
「咲愛ちゃんに会ったらまずは、ぎゅ~ってしたいなぁ」
いつの間にか咲愛さんと仲良くなった穂香。夏休みに何度か会っているようで結衣と咲愛さんと3人で遊ぶこともあったそう。
穂香は一人っ子なので妹がいる結衣が羨ましいと言っていた。
「そういや、この前送った写真ちゃんと見た?」
穂香は、夏休みの時、撮ったいろんな服を着る咲愛さんの写真を送ったが見たかと聞いてくる。
腹がチラッと見える服以外の服もあの後、着たようで穂香が俺に写真で送ってくれた。欲しいと言っていないのに。
「み、見たよ……写真が何枚も送られてきたから何事かと思った」
バイト終わりに家に帰ると10件以上の穂香からの写真送られました通知が来ていてかなり怖かった。
後で送るねとは言っていたが、バイト終わり後にはすっかり忘れており、通知をタップすると咲愛さんの写った写真がいくつもあった。
それを見ないという選択肢はなく、普通に見てしまった。
「見たんだぁ~、咲愛ちゃんに言っとこ」
「何でだよ」
「そりゃ喜ぶからだよ。あっ、咲愛ちゃーん!」
待ち合わせ場所の公園に寄ると咲愛さんが1人公園のベンチで座って本を読んでいた。
「あっ、穂香さんと皆さん」
嬉しそうに本から顔を上げた咲愛さんは、みんなの顔を見てから最後に俺を見て微笑みかけてきた。
「隼人さん、こんにちは」
「こんにちは、咲愛さん」
いつもように挨拶し、彼女は、読んでいた本をカバンにいれてベンチから立ち上がった。
彼女も学校帰りのようで制服を着ていた。いつも私服を着ているときに会うことが多いので新鮮だ。
「あっ、えっと、もしかして、理沙さんですか?」
咲愛さんは、初対面の理沙の近くへ行き、尋ねると隣にいた結衣が理沙を紹介した。
「花園理沙。ファッションとか詳しいんだよ」
「そうなんですね。初めまして、理沙さん。緋村咲愛です」
「初めまして。咲愛ちゃんって呼んでもいいかな?」
「はいっ、いいですよ」
自己紹介が終わると俺の家に6人で向かった。家に着くと飾りつけをしていた美雨が玄関まで走ってきた。
玄関で立ち話もあれなので皆を仲に入れた後、最後に入ってきた結衣が美雨と話していた。
「お~、この子が隼人くんの妹ちゃんか。可愛いじゃん」
「初めまして、結衣さん。お兄ちゃんからはよく聞いてます。今日は、素敵な誕生日会にしますね」
「へぇ~、よく聞いてるんだね。ありがと、お兄さんから飾りつけやるってくれたって聞いたから楽しみにしてた」
結衣は、驚いて、隣にいる俺を見てニヤニヤしていた。
(そんなに美雨に結衣のことを話した覚えはないんだけど……)
美雨が先にリビングへ行き、玄関に二人っきりになると結衣が嬉しそうに俺の名前を呼んだ。
「ねぇ、隼人くん」
「ん? どうかした?」
「誕生日会を提案してくれてありがと。今日は、思いっきり楽しむね」
「……うん」
結衣が最高の誕生日会だったと思えるようなものにしよう。
遅れて結衣とリビングへ行くともう席の場所が決まっており、結衣は、誕生日席に。そして俺は、彼女の近くに座ることになった。
ケーキは、予約していたのを帰りに受け取り、ケーキの他にはお菓子を穂香達が持ってきてくれた。
ロウソクに火をつけて誕生日ソングを歌い終えると結衣がろうそくをふっと消した。
「「「お誕生日おめでとう!」」」
「みんな、ありがと。今が1番幸せかも」
そう言った結衣の表情は、今までに見たことがないぐらいの満面の笑みだった。
***
みんなが帰った後、最後に残ったのは緋村の姉妹だった。
「今日はありがとね、隼人くん」
結衣は、みんなから受け取ったプレゼントをたくさん持ちながら幸せそうに俺にお礼を言った。
「私、こうしていろんな人に祝ってもらうの久しぶりだった。咲愛もありがと」
「いえ、提案したのは隼人さんです。私は、何もしてませんよ?」
咲愛さんもお誕生日会の用意していたから何もしてなかったは違うんじゃないかな……。
「帰り送ろうか?」
「ううん、大丈夫。また明日学校でね、隼人くん」
「うん、また明日」
ドアを開けて結衣は、お邪魔しましたと言って出ていく。咲愛さんも彼女についていくと思ったが、残っていた。
「隼人さん、私の誕生日は、2月20日です」
急な誕生日の告白に俺は、もしかして祝ってもらいたいのかなと思った。
「うん、覚えておくよ」
「ふふっ、ありがとうございます! では、お邪魔しました」
「気を付けてね」
咲愛さんを見送り、リビングへ戻るとじっーと見ていた美雨と目があった。
「お兄ちゃんって、ちっちゃい子好き?」
「肯定しても否定しても嫌な返答されそうだからノーコメントで」
***
「お姉ちゃん、隼人さんのこと好きですよね?」
帰り道。咲愛と一緒に帰っているとそんなことを突然、私に聞いてきた。
「な、なにを言って……」
咲愛に嘘は通用しない。隠していてもいつもすぐにバレる。
「好きなら遠慮しないでくださいよ。妹だからって好きな人を譲っても私は嬉しくありませんから」
咲愛はそう言って立ち止まっていた私を置いて家の方へ向かって歩きだした。
(遠慮しないでください……か)
私は咲愛に遠慮している。だって、私は誰よりも妹の咲愛の幸せを願っているから。
私は別に1人でもいい。けど、咲愛には、誰か側にいてほしい。だから、諦めるのが正解なんだよ。私は咲愛の幸せを奪うようなことはしたくない。
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