第31話 プレゼント選び
「そういや、もうすぐ結衣の誕生日だね」
「あっ……」
「ん? その顔はまさか忘れてた?」
「うん……」
10月半ば。俺は、久しぶりに理沙と学校を一緒に出て帰ることになった。
10月21日が結衣の誕生日。友達の誕生日にはいつも相手が好きなものをプレゼントするようにしているのだが、結衣は、何が好きなんだろうか。
「私はメイク系を結衣にプレゼントするつもりだけど、はやっちは、どうするの?」
「俺は……理沙、結衣って何を渡したら喜ぶかな?」
「私に聞かれても困るよ。1つ言えることなら何を渡しても結衣は、喜んでくれるよ。はやっちが一生懸命選んでくれたものなら」
一生懸命選んでくれたものなら……か。確か、結衣ってぬいぐるみが好きそうだよな。
本人に好きか聞いたわけじゃないが、部屋にぬいぐるみが置かれているのを見たのでそうかと思った。
「ぬいぐるみとか喜ぶかな?」
渡すとしたらクマはあったのでそれ以外のぬいぐるみになるが。
「喜ぶと思うよ。今からショッピングモールに行ってみる? 付き合うよ」
「うん、ありがとう」
今日はバイトもないので夕食の時間までに家に帰ればいい。
ということで理沙と結衣の誕生日プレゼントを買いに行くためにショッピングモールへ向かうことになった。
「はやっちと2人で出掛けるの久しぶりだね」
「そうだね」
「最近はずっと結衣と帰ってるもんね?」
ニヤニヤしながら俺の顔を覗いて聞いてくる理沙。
「バイト先が近いからね」
「ほほぉ~、そういうことね。はやっちはさ、結衣のことどう思ってるの?」
最近、友達から聞かれること第1位なくらい結衣とのことを聞かれる。
そんなに気になるものだろうか。結衣とはただの友達で特別な関係でも……ん?
ただの友達が普通、1つのベッドで寝るだろうか。
ふとした疑問だが、答えを教えてくれる人がいるわけではないので答えは出ない。
「友達……かな」
「友達……か。あっ、そういや、結衣、ペンギン好きって言ってたよ」
恋愛トークがあまり好きではない俺にとっては理沙が話題を変えてくれることはとてもありがたかった。
「ペンギンか……」
ぬいぐるみじゃなくてもペンギンの何かがあればいいな。
理沙と話していると学校帰りにあるショッピングモールに寄った。
彼女のオススメショップに連れていってもらい、ペンギン探しをする。
「わっ、可愛い! 見てみて、はやっち」
何かを発見した理沙は、大きなクマのぬいぐるみを指差した。
「おぉ、でかっ。どうやって持ち帰るんだよ」
「さぁ~、車に入るかも微妙な大きさ。あっ、ペンギンのぬいぐるみありそう?」
「ううん、なさそう。マグカップとかあるかな」
「ん〜、あっ、これはどう?」
理沙が見つけたものを見に行くと結衣が喜びそうなものがそこにはあった。
これだ!と思った俺は、迷いなくそれを購入し、その店を出た後は、ショッピングモールで理沙と遊んで帰った。
***
結衣の誕生日前日。俺は、咲愛さんの家に遊びに行っていた。
咲愛さんのお婆様の加代子さんがリビングで裁縫をしていたので邪魔にならないよう彼女の部屋で話すことにした。
「隼人さん、この前、穂香さんにこれをもらいまして」
女子の部屋に入り落ち着かない俺に咲愛さんが見せたのは猫耳カチューシャだった。
(なんて物を渡してるんだよ……)
「それを穂香に返すというお願いかな?」
「いえ、そうではなく、このカチューシャをつけているところを隼人さんに見せようかと思いまして」
手元にある猫耳カチューシャを見ながら話す咲愛さん。
(なぜ俺に?)
疑問に思っていると彼女は物凄く近い距離に移動し、俺の腕にぎゅっとくっついた。
「見てくれませんか?」
「……何で俺に?と聞いてもいい?」
俺に見せたいからという理由ではない気がしてそういう聞き方をした。
すると、彼女は、コクりと小さく頷き、理由を話してくれた。
「穂香さんからこれをもらう時につけたところを隼人さんに見せてあげたら喜ぶと聞きましたので」
「へぇ~、そうなんだ」
(穂香は、俺がどういう趣味をしていると思っているのだろうか)
「あっ、けど、穂香さんに言われて見てくれませんかと言ったわけではありません。私自身、隼人さんに見せてもらいたいんです」
真っ直ぐとした目で見つめられ、俺は、「嫌」とは断れなかった。
やはり俺は、小さな女の子のお願いには断れないらしい。
「わかった。見るよ」
「ありがとうございます!」
猫耳カチューシャを見せたいから見てくれますかとお願いされることなんてあるんだな。漫画とか小説とかではあまり見ないが。
彼女は、嬉しそうに猫耳のカチューシャをつけると恥ずかしそうに小さく笑った。
「ど、どうですかにゃん?」
(…………ありがとうございますっ!!)
一瞬、時が止まった。可愛さのあまり、倒れそうだ。
「か、可愛いし、似合ってる」
「ほ、本当ですか!? じゃなくて、本当ですかにゃん……?」
いつまで語尾に可愛らしいにゃんがつくのだろうか。別にいいんだけど、聞いている俺が本当に倒れてしまう。
「本当だよ」
「ふふっ、なら見せてよかったです。次はどういう私を見たいですか?」
「次……?」
まだ次があるのかと同時にこういうのを着たり、つけたりしているところが見たいと頼んだらしてくれるのか気になった。
「俺は、今の咲愛さんでいいかな」
「今の私……ですか?」
「うん。咲愛さん可愛いから」
「かわっ!」
彼女は、大きい声を出すのと同時に顔と耳が真っ赤になった。
「は、隼人さんのそういうところ心臓に悪いです……」
「そういうところ?」
「きゅ、急に可愛いと─────」
「ただいまー。咲愛、隼人くんが来て……えっ、何してるの?」
ドアが開けて、猫耳カチューシャをつけた咲愛さんを見るなり驚いていたのはバイトから帰ってきた結衣だ。
咲愛さんを見た後、結衣は、隣にいる俺の方を見る。
「へぇ~、隼人くんってそういう趣味あったんだね」
冷たく俺を見てそう言った結衣の目は、じとっーとして半分引いていた。
「いや、違うから!!」
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