第26話 お泊まり

「ふわぁ~」


 趣味のことやバイトのことを話して盛り上がっていると結衣が隣で小さなあくびした。


 気付けば日付が変わっており、学校があるのでそろそろ寝た方がいいだろう。


「結衣、そろそろ寝よっか」

 

 うとうとし始める結衣に声をかけると彼女は、コクンと小さく頷いた。


(か、可愛い……)


 学校では見られないレアな結衣が見られた気がして、つい小さく笑ってしまった。


「寝よっか隼人くん……」


 結衣は立ち上がり、ふらふらしながら部屋の電気を消しにいき、戻ってくると俺を抱き枕のようにぎゅっと抱きしめ、そのままなぜか彼女に押し倒された。


(えっ……どういう状況?)


「あっ、隼人くんから私と同じ匂いがする……同じやつ使ったからからかなぁ」


(っ!)


 結衣に言われた通りのシャンプーとかを使ったけど、もしかしていけなかったかな……けど、使えるのそれしかなかったし。


 隣を見ると結衣は、すうすうと寝息を立てて寝始めてしまった。


 一緒に寝るつもりは全くなかったが、俺は今、結衣とベッドに寝転んでしまっている。


 抱き枕状態になっているので、逃げようにも逃げられない。


「結衣、起きて……これで寝るのはマズイから」


 小声でそう言うが、結衣は、気持ち良さそうにしており、起きる様子がない。風邪を引くので取り敢えず近くにあった布団を手に取り、彼女にかける。


 最初はこのまま寝るのはダメだと思い、結衣を何度か起こそうとしていた。だが、その数分後、眠気に負けて俺は寝てしまった。





***





「んん……」


 目を開けるとカーテンの隙間から太陽の光が差し込んでいた。


 自分の家だと思い込み、ぼんやりしながら起き、隣に寝ている結衣を見て、俺は昨夜からのことを思い出す。


 俺は、泊まりに来て、寝るまで結衣と楽しく話していた。その後は、抱き枕みたいにされて……えっ、あっ、俺、睡魔に負けて寝ちゃった!?


 今、結衣は、寝ているから俺と寝ていたなんて知らないだろうけど、これ、起きたときに気まずくなるやつじゃん。


 取り敢えず、今は、早くベッドから降りよう。このままいるのは何というかダメな気がする。


 彼女を起こさないようそっーとベッドから降りようとすると後ろから服の裾を引っ張られた。


「おはよ、隼人くん……昨日はよくて寝れた?」


 後ろを振り向くとまだ少し眠そうな結衣がいた。


「う、うん……結衣は?」


「私もよく寝れた……制服乾いただろうし、着替えよ」


 うんと背伸びをして結衣は俺と寝ていたことなんて全く気にせず制服を取りに行ってしまった。


(俺が気にしすぎなのか……)


 遅れて俺も服を取りに行き、交代で部屋で制服に着替えた。


 朝食は、このカフェでやっているモーニングを食べ、俺と結衣は、一緒にカフェを出た。


「そういや、隼人くんと学校に登校するの始めてかも。いつも誰と行ってるの?」

 

「1人だよ。穂香と拓海とはたまに一緒に行くくらいで」


 結衣に言われて確かに彼女と一緒に帰ったことはあるが、登校したことはないなと思った。


「そうなんだ。まぁ、1人の方が気楽でいいよね。待ち合わせ場所とか決めたらいつもより早く家を出ないと行けないし」


 俺や穂香達といることが多くなったけど、どうやら結衣は、1人でいる方が気楽であるということは変わっていないようだ。


「そだ、隼人くんにも妹いるんだよね? どんな子?」


「どんな子……か」


 両親がいないから俺にだけ頑張らせるのではなくよく手伝ってくれるいい妹だ。嫌いなとこほがやくいい子だと思う。


「咲愛さんみたいなしっかりとした妹だと思う」


「へぇ~、しっかりしてるなら兄似だね。知らないかもしれないけど、咲愛、ああ見えて甘えん坊さんだよ」


(さ、咲愛さんが甘えん坊……)


 咲愛さんが結衣に甘えている姿を想像していると結衣がこちらをニヤニヤしながら見ていることに気付いた。


「見たそう……ほらほら、もう一度想像してみたら? 咲愛が膝枕したいって言って近寄ってくる姿を」


「…………可愛くていいな」


「でしょでしょ? 咲愛の可愛さは、ほんと誰にも勝てないんだよなぁ~」


「結衣も咲愛さんに負けないぐらい可愛いけど」


 思ったことをストレートに言うと結衣は、顔を真っ赤にさせて無言で体当たりしてきた。


(もしかして照れたのかな……)


「隼人くんって、無自覚に女子を落としてきたんだろうねぇ~。中学の時、モテてたって穂香から聞いたけど、自覚ある?」


「ない」


 即答するのが悪かったのか結衣が苦笑いし、少し困った表情をしていた。


「あらら、これは大変だなぁ~」


 何が大変なのか聞こうと思ったその時、結衣の後ろからに誰かが抱きついた。


「ゆ~いちゃん! おはよー!」


「おっ、穂香、おはよ。編み込み可愛いし、似合ってる」


「ありがと!」


 結衣に言われて穂香の髪を見ると編み込みをしていることに気付いた。


「隼人はいつも通り気付くの遅いね」


「気付いても彼氏持ちの人にこれ変わったねとか言いづらいわ」


「まっ、確かに」


 穂香は納得し、結衣の隣に行き、女子トークをし始める。


「緋村さんと登校なんて見かけたことないけど、もしかして付き合い始めた?」


 どうやら俺と結衣の間に進展があったような雰囲気がここ最近しているようで拓海は、付き合い始めたんじゃないかと思ったそうだ。


「付き合い始めてない。俺も結衣も付き合うとかあんまりそういうこと考えてないタイプだし、変な想像はしないでくれ」


「なら、咲愛さんとは? 何かない?」


「咲愛さんは……」


 彼女のことを考えているとこの前、言われた言葉を思い出した。


『私は間宮さんが大好きです。これは告白ではありません。今は間宮さんに私が好きでいることを知ってもらいたいんです』


「……って、何でこんな話をするんだよ」


 恋愛話とかそういうのに慣れていないので、この話を止めさせようとすると拓海は、頭の後ろで手を組み、ニヤニヤしていたのだった。


 




           

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