第23話 遅めの誕生日

 俺は、気付けていなかった。咲愛さんが、俺のことを好きでいることを。


 いつから好きになってくれてたんだろう。咲愛さんと会って話していた時のことを出会った頃から思い出していく。


 出会って一目惚れ……それはないか。となると好きな人ができたと俺に相談した時には好きでいた。


 好きな人って中学生の人かと勝手に思っていたが、まさか俺だったとは思わなかったな……。


「ふふっ、今日はいい天気ですね」


 隣には俺と手を繋いで嬉しそうな表情をして歩く咲愛さんの姿があった。


 ダメだ。あんな告白みたいなことを言われたら頭の中が、咲愛さんのことでいっぱいになって、彼女のことを見ると変に意識してしまう。


 一旦、深呼吸でもして落ち着こうと思っていると咲愛さんが、こちらを見て、口を開いた。


「間宮さん、もしかして、私のこと考えてましたか?」


「っ! かっ、考えてないよ!?」


 慌ててそう答えると咲愛さんは、クスクスと小さく笑っていた。


「間宮さんが私のことを考えていてくれるならそれは嬉しいです。ですが、困らせているのでしたらさっきのことは……」


 取り消します、彼女は、そう言おうとしていた。


「大丈夫だよ、俺は、咲愛さんが好きって言ってくれて嬉しかったから」


 確かに急に好きと気付いて、恋愛皆無な俺が恋愛関連でのことを考えることに困ったけれど、彼女の言葉は嬉しかったし、これはちゃんと向き合うべき事だと思う。


「それならいいのですが……。あっ、ちょっと待っててくださいね」


 緋村と書かれた表札のある家に着くと、咲愛さんは、俺に玄関前で待っていてほしいと言って家の中に入っていった。


 そして数分後、咲愛さんが……では、見慣れたパーカーを着た結衣が家から出てきた。


「よっ、隼人くん」


「よ、よぉ……結衣」


「ラップでもすんの?」


(しないよ! 言い慣れてなかったからそう聞こえたかもしれないけど)


「どうぞ、入って。咲愛は、昼から友達と遊ぶらしくて今から早めのお昼だって。お婆ちゃんは、今、何かの集まりに行ってる」


(何の集まりだろう……)


「そうなんだ……」


 口にはしなかったが、それはつまり家に二人っきりということだよな。


 普通に来たけど、家の前に来た瞬間、ドキドキしてきた。


 緊張しながら緋村家の中に入るとリビングに案内された。

 

「ソファ座っていいよ。ケーキはできてるからちょっと待ってて」


 結衣は、キッチンへ行ってしまい、俺は言われた通りソファに座った。


 すると、おそらく結衣が作っただろう昼食をキッチンからテーブルに運ぼうとしている咲愛さんから話しかけられた。


「すみません、間宮さん。急な予定が入ってお喋りの相手できなくて」


「ううん、大丈夫だよ」


「間宮さんが今日家に来ると知って、たくさんお喋りするつもりだったのに残念です」


 椅子に座り、残念そうにする咲愛さんは、そう言って昼食を食べ始める。


「じゃあ、また別の日に会って話そうよ。明日の午後からなら空いてるけど、どうかな?」


 午前中は、バイトなので無理だが、午後からならフリーだ。


 口に入れたものがなくなった後、咲愛さんは、両手を合わせて嬉しそうに俺のことを見た。


「いいですね、二人っきりで過ごしましょうね」


「っ!」


(何だろうこの振り回されてる感は……さっきからドキドキさせられっぱなしだ)


「はい、持ってきたよ。ほんと、咲愛、隼人くんのこと好きよね」


 結衣は、ケーキを持ってきて、テーブルに置いてくれた。


「凄い美味しそう」


「ふふん、凄いでしょ。今さらって感じだけど、誕生日おめでとう」


「ありがとう」


 結衣は、隣に座り、俺に用意したのと同じケーキを食べ始めた。


 すると、咲愛さんが、手を叩いた。


「わ、私も間宮さんのこと祝いたいです。お誕生日おめでとうございます!」


「ありがとう、咲愛さん」


「咲愛も同じケーキあるからおやつの時間にでも食べて」


「うん。あっ、結衣お姉ちゃん、後で話したいことがあるのですがいいですか?」


「ん? いいよ」


 姉妹が、話している間、俺は、手を合わせて「いただきます」と言ってから結衣が作ったケーキを食べ始めた。


 1口サイズにフォークで取り、口の中に入れると少し苦くてでも甘いような香りが広がった。


(ん……美味しい)


 味わって食べ進めていると結衣が顔を近づけてきてきた。


「どう? 美味しい?」

 

「う、うん! 凄い美味しいです!」


「何で敬語?」


 急に距離が近く、緊張して思わず敬語になってしまった。


「そういや、もう少しで夏休み終わりだね。文化祭あるんだっけ?」


「うん、そうらしいね」


 夏休み前に先生から夏休み明けには文化祭があると聞いた。


 何をやるかは、その先生の説明の後にすぐに決まり、俺たちのクラスは、フォトスポットになった。


 お化け屋敷やメイドカフェと意見があったが、そういうのは2年生からだそう。1年生は、展示系でなければならないというルールがあったからしょうがない。


「みんな不満そうだったけど、フォトスポット楽そうだし良かったよ。お化け屋敷とか用意の時間かかるしね。隼人くん、頑張ってね」


「がんば……えっ? もしかして、準備来ないつもりなの?」


 言い方からして私には関係ないことだけど、まぁ、頑張ってにしか聞こえなかった。


 結衣は食べ終えたケーキをキッチンへ持っていき、帰ってくるとまたソファに座り、俺が聞いたことを答えてくれた。


「行かないよ。行っても楽しくないだろうし、めんどい」


「め、めんどい……」


 準備をみんなで協力してやって、完成した後は、その達成感を味わい、頑張って良かったな的な感じになると思うが、それは人によって違う。


 けど、せっかく1年に1回の文化祭なのだから、結衣にも楽しんで欲しい。

 

 そう言えば、5月の体育祭で、結衣は休んでいなかった。それもおそらくめんどくさいし、楽しくないと思ったから来なかったのだろう。


「た、楽しいと思うからさ、参加しない? 1年に1度しかない文化祭だし」


 無理やり誘うのはよくないが、諦めるのにはまだ早い。


「ん~、そう言われると行きたくなったかも」


「よしっ、なら行こう! 絶対楽しいから」


「うん、そこまで言うなら行くことにするよ」


 そう言ってくれたが、夏休み明けの文化祭準備1日目にして結衣は、帰ろうとしていた。


「結衣、準備あるよ」


「私、やることないし帰る」


(あれ、行くって言ったのは文化祭だけで、準備は参加してくれないやつ?)








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