第22話 私は、必ずあなたの心を射止めてみせます

 プールを満喫し、帰る頃にはもう日が暮れていた。


 電車に乗って降りると、遊び疲れた穂香は、拓海の肩に寄りかかり、「もう動けない」と呟いていた。


 理沙と結衣はというと2人で楽しそうに話していた。


 結衣が今日1日楽しそうにしているのを見てやっぱり誘って良かったなと思えた。


「じゃあ、俺、今からバイトだから」


 みんなにそう言うと穂香と拓海は、遊んだ後にバイトをすることに驚いていた。


「今日、バイト入れてないって言ってなかったっけ?」


 結衣とはいつバイトがないか予定を確認しあっていたので、今日、バイトがあることを不思議に思っていた。


「店長に急に頼まれてさ。まぁ、この後、予定とかないから行こうかと」


「そうなんだ……無理しないでよ?」


「心配ありがと」


 心配されるとは思っていなかったの少し驚いたが、結衣に心配をかけないようニコッと微笑みお礼を言った。


 みんなと別れた後に、バイト先のカフェへ行くとどこからか名前を呼ばれた。


「間宮さん、間宮さん」


(この声……)


 辺りを見回していると手を小さく振っている咲愛さんの姿を見つけた。


 彼女は、加代子さんと来ていて、テーブルには頼んだここの店のケーキが置かれていた。


 長話は、あまりできないが、少しだけ話しに行こうかな。


「こんばんは、咲愛さん」


「こんばんは、間宮さん。結衣お姉ちゃんに間宮さんが駅前のカフェで働いていると聞いたので来てしまいました」


 偶然ではなく、結衣に教えてもらったのか。バイトをしているのを知って、来てもらえたのはとても嬉しい。


「今からバイトですか?」


「うん、そうだよ。もしかして、バイトするところ見に来た?」


 もしそうなら事前に行くと聞いて、バイトの日を教えてあげられたのになと思った。


「まぁ、そんな感じです。どんなカフェなのか知りたかったという理由もありますが、もしかしたら間宮さんに会えるかもしれないと思いまして」


「そうなんだ」


 両手を合わせて話す咲愛さんは、天使のような笑顔でニコニコと笑っていた。


 プールで疲れていたが、彼女の笑顔を見て、今からのバイト、頑張れそうだな。


「あっ、すみません。バイト、頑張ってください」


「ありがと」


 咲愛さんに手を振り、荷物をロッカーに置きに行くとに入ると休憩しに来た同じ学校に入っている年上の先輩に絡まれた。


「ちょっと、あの子は、何? 間宮くんの妹? とっても可愛いじゃない」


 荷物を置きたいし、服にも着替えたいというのに先輩である小野寺さんに捕まり、動けなくなった。


「妹ではなく友達です」


「友達ねぇ……彼女、中学生?」


「そうですけど……」


 ニヤニヤしながら詰め寄られるので俺は1歩1歩下がっていく。


「まぁ、詳しくは後に聞くとしてバイト頑張れ」


 背中をポンッと叩かれ、先輩は、自分のペットボトルを手に取り、飲んで休憩していた。


(まだ聞くことなんてあるのだろうか……)






***






 翌日。今日は、結衣が誕生日祝いに俺にチョコケーキを作ってくれるそうで緋村家にお邪魔する予定だ。


 迎えに行くから公園で待っていてとお願いがあったので、その場所で結衣が来るのを待っていた。


(遅いなぁ……)


 5分経ったが、中々来ない。人を待つことには慣れているが、遅いと何か来るまでにあったんじゃないかと不安になってくる。


 目の前には公園で遊ぶ子ども達がいて、1人公園のベンチで座っていると何だか悲しい奴になってきた。


 暫くスマホでニュースを見て待っていると後ろから足音が聞こえて、名前を呼ばれた。


「間宮さん、おはようございます」


「あれ、咲愛さん?」


 後ろを振り返るとそこには結衣ではなく妹の咲愛さんがいた。


「お姉ちゃんは、先にチョコケーキを作るそうで、私が代理できました」


「そ、そうなんだ……」


 咲愛さんが来てくれたのは嬉しいけど、緋村ひ家には一度行ったことがあるし、メッセージで行けなくなったから1人で来てと言ってもらって良かったのに。


「では、家に行きましょうか。手を繋いでもいいですか?」


 俺の目の前に手を差し出してニコニコしながら咲愛さんは、待っていた。


「好きな人がいるんじゃなかったっけ? 俺と手を繋いでいるところを見られたら誤解されるかもしれないよ」


 俺は別に構わないが、咲愛さんが後で困るかもしれない。


「むふ~、間宮さんって友達とかに鈍いって言われませんか?」


 頬を膨らませて怒った咲愛さんの質問に俺は首をかしげた。


「鈍い……」


 確かに友達には鈍いと何度か言われたことがある自覚しているほどに。


(鈍い……この話の流れで言われたってことは)


「えっ、もしかして……。ごめん、咲愛さん!」


 悪いことをしたと思い、俺は咲愛さんに向かって頭を下げた。


「ま、間宮さん? 頭を上げてください、私は、間宮さんの鈍感なところも好きですから」


「ほんとごめん、鈍感なのは自覚してる。咲愛さんの好きな人が────」

「ストップです、間宮さん」


 咲愛さんは、俺の唇に人差し指を当てて、俺の言葉を遮った。


 俺がこの先の言葉を言ってしまえば、どういう展開が待っているかわかっていたから。


「私は間宮さんが大好きです。これは告白ではありません。今は間宮さんに私が好きでいることを知ってもらいたいんです」


 咲愛さんは、手を胸に当てて、俺に勇気を出して伝えてくれた。


 だったら俺は彼女の願いに答えるだけだ。好きでいる気持ちにこれから見てみぬ振りはダメだ。


「わかった。咲愛さんの気持ちはちゃんと受け取ったよ」


 そう言うと咲愛さんは、嬉しそうにふふっと笑った。


「告白みたいになっちゃいましたけど、好きと伝えたからには私は、もう控え目なアピールはやめます」


 咲愛さんは、先程したように俺の目の前に手を差し出した。


「間宮さん、覚悟してください。私は、必ずあなたの心を射止めてみせます」







         

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