第21話 ちょっとだけ触らせてよ
「あれ、3人は?」
スライダーを何種類か楽しんだ後、最後に降りてきた結衣は、俺のところに来て、穂香と拓海、理沙がいないことに気づいた。
「結構並んでるから先にスライダーに並びに行ったよ。結衣は、どうする?」
「私はいいかな。ちょっと疲れたから浮き輪借りて流れるプールに入る」
「なら、俺も流れるプールに行こうかな」
さっきのナンパのことがあったので、結衣を1人にするのは良くないと思い、そう言うと結衣からじっと見られた。
(な、なんか付いてるのかな……)
見られてドキドキしていると結衣は、口を開いた。
「じゃ、浮き輪借りに行こ」
「う、うん……」
(な、何だったんだろう……)
結局わからないまま俺は、結衣と浮き輪を借りに行くことにした。
浮き輪を1つレンタルした後、スライダーに並ぶ3人に流れるプールに行くと言ってから移動した。
浮き輪を持った結衣が、先に入った後、俺もゆっくりと入った。
「冷たっ、間宮くんも浮き輪借りなくて良かったの?」
結衣にそう聞かれて自分が浮き輪を使って流れるプールに流れているのを想像してみたが、似合わなかった。
「うん、俺はいいかな」
「そっ、じゃあ、お話ししながら流れてよっか」
「うん、そうだね。そう言えば、咲愛さんは、今日どうしてるの?」
気になり、姉である結衣に聞くと彼女は、ムスッとした表情でこちらを見てきた。
(ま、まずったかな……)
聞いてはいけないことだったのかもしれないと思い、取り消そうとしたが、答えてくれた。
「友達と遊びに行くってさ。ちなみに友達は女子だから心配しないで」
「心配?」
咲愛さんが、男か女かどちらと遊んでいるかの心配はあまりしていないのだが……。
「そういや、何で年下なのに咲愛のことさん付けしてるの? 咲愛でいいじゃん。本人も嫌とは思わないと思うし」
「んー、さん付けが定着してるからなぁ……」
今さら呼び捨てするのは何だか勇気がいる。たとえ、咲愛さんが、呼び捨てをいいと言ってもすぐには呼べないだろう。
友達も出会ってからすぐに呼び捨てで呼んだことはなかったし。
「そっか。で、咲愛が何してるか気になった間宮くんよ。やっぱり、咲愛のこと好きなの?」
「えっ、す、好き!?」
「驚きすぎ……図星だな?」
ニヤニヤしながら結衣が覗き込んでくるので、視線をそらそうとするが、吸い込まれるような瞳から目がそらせない。
「ず、図星じゃないって。咲愛さんとは、友達だし、好きとかそんなのは……」
「真面目くんが何か言ってるー。好きな人できたら教えてね。友達として、応援するからさ」
(応援……か)
好きな人がいるかいないかは別として結衣に応援されると言われて少しだけモヤッとしてしまった。
黙っていると結衣が頬を人差し指でツンツンとつついてきた。
「なーんて顔してんのよ」
「なぜふにふに……そんなに変な顔してた?」
「うん、してた。こうやってさ、2人でゆっくり話すことないから間宮くんのこと聞いてもいい?」
「うん、いいよ」
最初は、俺が彼女のことを知りたいって思ってたけど、結衣が、俺のことを知りたいと思ってくれて凄く嬉しい。
「誕生日いつなの?」
「6月13日だよ。結衣は?」
「過ぎてんじゃん。私は、10月21日だよ。遅いけど、誕生日おめでと。何か欲しいものある?」
「俺は────」
「欲しいものなくてもよしよしされたいとか、そんなのでもいいよ」
(結衣、よしよししたいのかな?)
頑張ったときによく言うのでそうなのかと思ったが、そう言えば、咲愛さんも……。
「なら……下の名前で呼んでほしいかな。みんなも隼人って呼んでるから」
「わかった。じゃあ、隼人くん、好きな食べ物ある? 私、料理好きだから何か作ってあげるよ」
彼女には悪いが、結衣は料理できず毎日カップ麺を食べてるイメージがあった。勝手な偏見、すみません。
心の中で謝罪していると結衣に軽く頭をチョップされた。
「作れるよ。まぁ、週に何回かカップ麺食べてるんだけどね。料理めんどいし」
(偏見じゃなかった……てか、今、心の中読まれたよね?)
「好きな食べ物は、チョコケーキだよ」
「おー、チョコケーキか……私も好きだなぁー」
作ったことないから作れるかなみたいな顔してるけど、大丈夫かな?
「よしっ、明日空けといて。で、家においで。チョコケーキ作ってあげるから」
彼女は、そう言ってふふっと小さく笑った。
明日はバイトを入れていないし、予定もない。スーパーに行こうとしていたぐらいだ。
「うん、わかった。空けておくよ」
「じゃあ、お昼頃迎えに行くから駅前で待ってて。咲愛、喜ぶだろうなぁー」
「咲愛さんが?」
「うん。最近の咲愛、隼人くんのことばっかり話してるからさ」
咲愛さんが俺のことを結衣に……どんな話をしているのだろうか。変なことでないといいんだけど。
流れるプールを2周した後、そろそろ3人と合流しようとなり、プールから上がった。
借りていた浮き輪を返しに行き、スマホもないので探し回る。
「結衣、今さらって感じなんだけど、その水着似合ってるよ」
そう言うと彼女は、嬉しそうに微笑んだ。
「……ふふっ、ありがと。隼人くんもカッコいいぞ。いい体しとんねぇ~」
じっーと結衣は、俺の体を見てきてそっーと手を伸ばした。
「触らせてほしいな」
「へっ?」
「聞こえなかった? ちょっとだけ触らせてよ」
「……触っても面白くないと思うけど、どうぞ」
面白さは求めてないよと言って、彼女は、俺の体を触った。
(何か不思議な感じなんだけど……くすぐったいというか何というか……)
「スポーツ何かやってた?」
「バスケを小4から中学3年まで」
「へぇ~なるほどぉ~」
そう言って、結衣は、手を動かして触ってくる。
「ちょ、触っていいとは言ったけど、ストップ!」
周りに変な目で見られそうだし、くすぐったいので、結衣の手を取り、ストップさせる。
「えぇ~、あっ、みんないたよ」
「ほんとだ。行こっか」
「だね」
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