第19話 気付くの遅くない?

 夏休みも残すところ半分といったある日。午前中でのバイトを終えて駅前のファーストフード店に行くと2階で1人座っている拓海を見つけた。


「おは、バイトお疲れ」


「おはよ。早いな」


 今日は、夏休み、どこに遊びに行くかという話をするため集まる予定だ。穂香、理沙もまだ来ていないようで拓海が一番乗りだった。


 結衣は、バイトで少し遅れると聞いているので、遅いのはわかっている。


「隼人も何か頼んできたら? バイト終わりだしお腹空いてるだろ」


「あぁ、うん。行ってくる」


 財布とスマホだけを持って1階へ降りてエビのバーガーセットというものを頼む。


「おかえりー」


「ただいま。あっ、同じやつだ」


 家ではないのだが、拓海の言葉に気付いたらそう返していた。そして、拓海も俺と同じでエビのバーガーセットを頼んでいることに気付いた。


「隼人が、頼みそうだから頼んだ」


「へぇー」


「冗談だって。てか、隼人と夏休みあんま会ってなかったな」


 そう言ってポテトを摘まんで口の中に入れる拓海。彼が何を言っているのかさっぱりわからなかった。


 拓海とは2日前に早朝にバスケをした。したというか付き合わされた。なぜ朝なんだよと何度も拓海に聞いたが、バスケは、朝が基本だろとよくわからないことを言われた。


「2日前に会っただろ?」


「うん、会ったね。けど、こうして、バスケ以外では会ってなかっただろ?」


「うん、まぁ、そうだけど……」


 ポテトを食べていたが、少し飽きてハンバーガーを手に取り、一口食べる。


(ん、やっぱりこれが美味しい)


 喉が渇き、アールグレイが入ったコップを手に取り、ストローに口をつける。すると、拓海が何かを思い出したのか口を開く。


「そだ。この前、穂香と咲愛さんと会ったらしいね」


「あぁ、うん。穂香、咲愛さんといつの間にか仲良くなってて驚いたよ」


「で、咲愛さんのことだけど。気付くの遅くない?」


「うっ……それについては何も言えません」

 

 咲愛さんと海に行ったその日の夜。拓海と電話していたその時に結衣と咲愛さんが姉妹であることを拓海に言うと「知らなかったのかよ」と突っ込まれた。


 なら拓海はどうやって気付いたんだよと聞くと名字聞けばそうかなと予想はつくだろと言われた。


 予想すらついていなかった俺は、本当にヤバイやつだな。


「鈍感というレベルを超えてるよ。なっ、穂香さんや」


「おうおうおう、まさか気付いてないとは思わなかったよ」


 またもやグサッと刺さるような言葉が後ろから来て、後ろを振り返るとそこにはいかにも彼女らしい服を着てきた穂香がいた。


(あっ、この服は……)


 彼女のあるところをじっと見てしまっていると前に座る拓海が驚いたような表情をした。


「俺の彼女の腹を見てどうしたんだね、隼人くんや。まさか!」


「それはない」


 まさかの後に何が続くかわかり、すぐに否定する。


「隼人、腹チラの服好きらしいよ」


「穂香!?」


 さらっと嘘を言われて俺は、穂香を睨むが、彼女は、俺から目をそらして何も言ってませんオーラを醸し出していた。


 穂香が来たので拓海の横へ移動すると肩をポンッと叩かれた。


「そうかそうか、腹チラいいもんな。わかるぞ」

 

 もしかして、拓海が腹チラがいいとか言ったから穂香は中学も今も着ているのではないだろうか。


「穂香も頼んできたらどうだ?」


 腹チラの話を打ち切るために俺は、穂香にそう言った。


「そだね。いってきまーす」


 穂香が1階へ行き、注文している間、入れ違いで理沙が来た。


 大人っぽい黒のロングスカートに白いティーシャツで現れた。


「やっほー。はやっち、拓海」


「おはよ」

「おは」


「私も頼んでくるね。さっき下で穂香に会ったから」


 理沙はそう言って1階へ行ってしまった。


 数分後、4人集まり、さっそく夏休みどこに行くかの話を始める。


 すると、穂香はポテトを加えたままバッと手を挙げて口にポテトが無くなった後、口を開いた。


「海かプール!」


 夏休み前にも言ってた気がする。相当行きたいのだろう。


「暑いし、さんせー。私は、プールがいいな。日焼けしたくないし。拓海は?」


「いいじゃん。じゃあ、プールか海かで多数決しようか」


 どうやら皆、どちらかに行きたいようで多数決することになった。


 海はこの前行ったけど、足をつけただけだから俺は、どちらになってもいいと思っている。けれど、どちらに行きたいかと問われたらプールの方に行きたい。


「じゃあ、海行きたい人!」


 穂香は、そう言って手を挙げると拓海も手を挙げる。


「じゃあ、プールの人!」


 海の時点でプールに俺と理沙が手を挙げることはわかっていたが、穂香は、一応聞いてみた。


 俺と理沙が手を挙げるとバイトで遅れてきた結衣が来て手を挙げた。


「私もプールに1票」


「わっ、結衣ちゃん! バイトお疲れ様」


 穂香は、椅子から立ち上がり結衣に抱きついた。

 

 結衣がいつものパーカーの服に珍しくポニーテールをしていたのでつい見とれてしまう。


 髪を下ろしているのもいいけれど、髪をくくっているのも似合う。


「よっ、間宮くん。私、どこかへん?」


 あまりにもじっと見つめていたため、結衣に変に思われた。


「う、ううん。髪くくってるの珍しいなって思って。可愛い」


「……ふ、ふーん、ありがと」


 そう言った結衣は、プイッと横を向いてフード被って、1階へ降りていってしまった。


「むむむ、隼人と結衣ちゃん何かあった?」

「あっやしーぞ、隼人」


 ラブラブカップルから俺と結衣の間に何かあったのではないかと言われるが、何もない。


 少し結衣との距離が近いように感じたが、それは多分気のせいだろう。


「で、で、多数決でプールに決まったけど、お二人さんはプールでよろしい?」


 話を戻してくれた理沙に感謝しつつ海と手を挙げた2人の方を見た。


「いいよ~、拓海に水着見せれるならプールでもオッケ」


「俺もプールで文句はないよ。穂香の可愛い姿が見れるなら」


 隣に俺と理沙がいることを忘れ、穂香と拓海は、互いに見つめ合い、いい雰囲気をだった。


(俺ら邪魔かな……)







    

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