第17話 小さな天使様とクール系美少女が姉妹ということやっと気付く俺

「緋村さん……」


「何でしょうか?」

「どうしたの? 驚いたような顔して」


 姉である緋村結衣に向けて言ったつもりが、名前を呼ぶと2人が一緒に返事をしてしまった。


「ややこしいから下の名前で呼んでくれる?」


「う、うん。じゃあ、結衣」


 少し慣れない呼び方だったので、小さい声で彼女の名前を呼ぶと結衣は、うんと頷いた。


「で、間宮くんは、私と咲愛が姉妹って気付いてなかったみたいな反応してるけど、今日まで気付かなかったんだ?」


「う、うん……2人の名字はちゃんと聞いててわかってたんだけど……」


 本当になぜ気付かなかったんだと自分にも問いたい。


 結衣のことはずっと緋村さんって呼んでいたけど、咲愛さんは、ずっと咲愛さんだから上の名前では呼んでいなかった。それが気付かなかった原因かな?


「まぁ、気付かなくても別に何もないし、早く行こっ。電車来るよ」


「う、うん……」


 先に歩いていった彼女の背中を見て、結衣がこの前、俺が勧めた服を着ていることに気付いた。


(うん、やっぱり似合う)


 嬉しくなり、少し口元が緩んでいると咲愛さんが、俺の手を優しく取った。


「驚くような出来事がありましたが、間宮さん、私達も行きましょう」


 天使のようなキラキラした笑顔で咲愛さんは、俺の顔を覗き込む。


「うん、そうだね」


 楽しい1日が始まる、そう思っていた。けれど、俺は、まだこの時、あるもう1つのことに気付けていなかった。






***






 海は、1時間半の電車移動で着いた。今日は、海で遊ぶのではなく、見るだけなので、水着は、持ってきていない。


 だが、海が近い位置まで移動すると咲愛さんは、靴、靴下と脱ぎ出した。


「ちょっと、水着も着替えもないのに入る気?」


 俺と同じく咲愛さんの行動に驚いた結衣は、妹を止めようとする。


「せっかく来たんですし入りましょうよ。間宮さん、お姉ちゃん」


 たまに大人っぽい一面を見せる咲愛さんだが、海に向かう姿は、子供っぽかった。


「ん~よしっ! 間宮くん、咲愛の言う通り暑いし入っちゃおうよ。ねっ?」


「うん、そうだね」


 濡れたとき用に念のためタオルは持ってきているので足が濡れるぐらいなら大丈夫だ。


 少し遅れて俺も咲愛さんに続いて海に足をつけた。


「冷たぁ~」


 無邪気に笑う結衣を見て、学校とは違う一面が見れた気がした。


 もしかしたら家族の前ならいつもこんな感じなのかもしれない。


「間宮くん、間宮くん、夏の海、最高だね!」


「……う、うん、最高だね」


 ふとした時に見せる結衣の笑顔にドキッとした。


 暑さのせいかわからないが、顔が赤くなっていくのを感じる。


「そ、そう言えば、その服、この前、買ってたやつだよね。似合ってるよ」


 気付いていたと言え、まだ似合ってあると本人に言えていなかったので少し遅いが、彼女に伝えた。


「あー、なるほどね。そうやって可愛い女子を口説いてるか……例えば咲愛とか」


「口説く? 誰が?」


「君だよ君。咲愛、間宮くんのこと好きみたいだし」


 結衣が楽しそうに海を満喫している咲愛さんの方へ目線をやるので、俺も彼女の方を見る。


「そうなの?」


「私に聞かないでよ。多分そうかなっていう予想だし」


(咲愛さんが……俺のことを……)


『私、間宮さんのお嫁さんになりたいです』


(いや、あれは冗談って言ってたし……)


 それに好きっていろんな意味があるし、おそらくあったとしても友達としての好きだろう。


「話逸れちゃったけど、服、褒めてくれてありがと。間宮くんが来るって聞いてたから着てきたんだよ」

  

 つまりそれは、俺のために着てくれたというこ と、と変なことを考えそうになったので、頭を横にブンブンと振った。


「そ、そうなんだ……。パーカー以外の服着てるといつもと雰囲気違うね」 


「そう? 咲愛もこの服着てたらパーカーじゃないお姉ちゃんは新鮮って言われた。この服も好きだけどやっぱりパーカーの方が落ち着くかな」


 一体、結衣は、パーカーを何枚持っているのだろうか。出会った頃は、まだ寒かったので長袖のパーカー。今は、暑くなったので半袖パーカー。合わせたら何枚になるんだ……。


 そんなことを考えていると咲愛さんがある提案をした。


「間宮さん、お姉ちゃん、写真撮りません?」


「いいね、撮ろうよ」

「うん、撮ろう」


 3人での写真を撮り、海から出ることになった。出て、足をタオルで拭き、靴を履いてからもまだ足が冷たい気がした。


 砂浜から柵がある向こう側の場所へ移動すると、結衣は、足を止めた。


「私、飲み物買ってくるけど、2人とも何がいい? あっ、俺も行くはなしだよ?」


 結衣は、俺が思っていることを先に読み、言うことを阻止された。


「えっと、じゃあ、麦茶で」

「私は、チーズケーキがいいですけど、なければ間宮さんと同じで麦茶がいいです」


「わかった。じゃ、待っててね」


 自販機へ行く、結衣を見送り、俺と咲愛さんは、二人っきりになった。


 咲愛さんは、ここから見える海をじっと見ていたので、隣に並んで自分も見ることにした。


 すると、彼女は、こちらを向いて、口を開いた。


「今日はありがとうございます、間宮さん」


「こちらこそ、海に誘ってくれてありがと」


 彼女の方を向くと目が合い、咲愛さんは、嬉しそうに微笑んだ。


「また機会があれば一緒に行きましょう。私が、もう少し大人になれば今度は2人で」


 プルプルと震えながら背伸びした彼女はそう言ってクスッと笑う。


「そうだね。前から思ったけど、咲愛さんって、俺より大人っぽいよ。俺は、まだ子供っぽいところ多くてさ」


「そうですか? 私の方が間宮さんより子供っぽいですよ。誰かがいないとダメダメですし」


 ダメダメだと彼女は言うが、クッキーを自分で作ろうとしているところから努力家なんだなとわかる。


「咲愛さんは、ダメダメじゃないと思うよ」


「間宮さん……」


 咲愛さんが、少しずつ俺の方へ寄りかかろうとしていたが、後ろから声が聞こえて、何事もなかったように後ろを振り返った。


「ありがとうございます、お姉ちゃん」


「ありがと、結衣。って、何かあった?」


 麦茶を受け取ろうとすると結衣が頬を膨らませて怒っているように見えた。


「ふ~ん、べっつにぃ~」


 そう言いながらも結衣は、モヤモヤした気持ちになるのだった。








     

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