2章 姉妹が俺と距離を詰めようとしていることに気付かない
第16話 いいね、腹チラ
「ほらほら、お食べ」
「ありがとうございます、穂香さん」
スーパーへ買い物へ行こうと公園の前を通りかかると穂香が、咲愛さんにクッキーを食べさせているところを見かけた。
「何やってるの?」
声をかけると穂香と咲愛さんは、後ろを振り返った。
「あっ、隼人。咲愛ちゃん、愛しの隼人が来たよ」
何をいっているんだと穂香に突っ込みを入れようとすると、咲愛さんが、嬉しそうにこちらを見ていた。
「間宮さん、会いたかったです」
彼女はベンチから立ち上がり、俺の目の前に来て、ぎゅっと抱きついてきた。
(さ、咲愛さん!?)
俺が驚いているとカシャッカシャッと連写する音がした。
「撮らないでくれ」
「えー、いいじゃん」
全く良くないので「良くない」と突っ込み、むすっーと頬を膨らます穂香に撮ることをやめさせた。
穂香と話していると、クイクイと服を引っ張られ、目線を下にやると、そこには私がいるの忘れていませんかと言いたげな表情をした咲愛さんがいた。
「間宮さんは、私に会いたくなかったですか?」
「……あ、会いたかったよ」
うるっとした目でこちらを見てくる咲愛さんにドキッとしてしまい、少し声が上ずった。
「ふふっ、嬉しいです」
彼女はそう言って俺から離れ、嬉しそうに小さく笑った。
「穂香、いつの間に咲愛さんと仲良くなったんだ?」
この前、会ったばかりであの日から数日しか経っていない。
「この前だよ。今さっき、連絡先交換したの。もしかして、嫉妬かなぁ~?」
少しイラッとする言い方に俺は、してないと即答する。
「あっそうだ。隼人も来る? 今から咲愛ちゃんに色んな服を着せる会を行うんだけど」
色んな服を着せる会って、中学生とどんな話をしていたらやろうとなるんだよ。
女子同士でやった方が楽しいだろうと思い、断ろうとすると、咲愛さんが、ニコニコしながらこちらを見てきた。
「来ません?」
「っ!」
どうやら俺は、小さい子からのお願いに断れないらしい。
***
スーパーへ行くのは後にするとして、公園から穂香の家へ向かった。
彼女の家は、拓海と何度も来ているので初めてではない。
家の中にお邪魔すると穂香のお母さんが、出迎えてくれた。
「あら、隼人くん、久しぶりね。そちらの方は?」
「友達の咲愛ちゃんだよ」
穂香が紹介し、彼女は、ペコリと頭を下げた。
「可愛いわね。お菓子いる?」
親子揃って、咲愛さんに餌付けしようとしてる。白河家は皆こうなのか。
「穂香、早く案内してくれ」
ここは危ないと感じて、俺は、守るように咲愛さんの前に立ち、穂香にそう言った。
(穂香のお母さんはちょっとヤバいところあるからな……)
穂香についていき、2階へ上がって、彼女の部屋へ移動した。
「どっぞー」
「お邪魔します」
部屋に入るとこの前来た時よりも片付いていることに気付いた。前回は、あれだったけど、拓海が家に来ることになり最近、片付けたことがまるわかりだ。
「さて、咲愛ちゃんにはこれを着てもらいたいのよ」
穂香がそう言って咲愛さんに渡したのは、白のティーシャツに長ズボンのジーンズだった。
「可愛いですね。試着してみます」
「うん!」
穂香は頷くと俺の方を見てニコニコと笑っていた。
(ん? なんだ?)
「咲愛ちゃんの着替えてるところみたいの?」
「えっ、あっ、出ます……」
穂香がなぜニヤニヤしているか察して、俺は、部屋を出てドアを閉めた。
危なかった。女子が着替えるところをみたい変な人と思われるところだった。
1人寂しく部屋の前で待っていると数分後、中から穂香の「入っていいよ」という言葉が聞こえた。
「は、入るよ?」
ここで、まだ着替えていないのに入ったら事故になるかもしれないので念のため入ることを言ってからドアのぶに手を置いた。
「どぞー」
そっとーとドアを開けて、中に入るとそこには先ほど穂香から受け取った服を着ている咲愛さんがいた。
「ど、どうですか? 間宮さん」
似合っている自信がないのか彼女は、少し恥ずかしそうに俺に尋ねてきた。
穂香って感じの服で、咲愛さんがあまり着なさそうな服だが、可愛いし、とても似合っている。
そのことを伝えようとすると穂香がアピールポイントを言っていく。
「隼人、見てよ! この腹チラ! よくない?」
チラッと見える肌をアピールされて、そちらに目線をやると、見てもいいのかという気持ちになってしまった。
「う、うん……いいね、腹チラ。可愛いし、とても咲愛さんに似合ってるよ」
思ったことを伝えると彼女は、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。お二人ともいいと言ってくれますが、こんなに肌を見せて大丈夫なんでしょうか?」
見えているところを気にしながら彼女がそう言うと穂香は、笑顔で答えた。
「そういう服だしね。あっ、気に入ったのならもらっていいよ? 私はもう着れないし」
穂香の言葉を聞いて咲愛さんが、そう言うことを答えてほしいわけじゃないと困っていた。
「咲愛さん、大丈夫だと思うよ。まぁ、いろんなところから視線が来るかもしれないけど……」
女子は見なくても男子からの視線は集まるかもしれないと思い、彼女に一応言っておく。
「そうなんですね。では、親しい友人と遊ぶときにだけ着ます」
「うんうん、そうしちゃいな。腹チラしたら好きな人を簡単に落と───痛い!」
穂香が変なことを言う予感がして、頭を軽くチョップした。
「中学生に変なこと吹き込むな」
「ごめんごめんって」
本当に反省しているのかわからない謝り方だな。
「俺、そろそろ帰る。スーパー行かないといけないし」
「わかった。今から咲愛ちゃんには他の服も着せるつもりだから後で写真送るねっ!」
キランとこちらに向かって、ウインクした穂香。大丈夫なのかと咲愛さんの方を見て心配したが、彼女は、ワクワクしたような様子だったので何も言わなかった。
「写真はいらない。咲愛さんが嫌がることするなよ」
「わーかってるって」
本当に大丈夫かと思ったが、信じて、穂香の部屋を出て、ドアを閉める。
咲愛さんの可愛さはいつまでも見てられるけど、心臓が持たない。明日は、海だが、大丈夫だろうか。
***
翌日。今日は、咲愛さんと海に行く日だ。早めに集合場所である駅に行き待っていると咲愛さんが走ってくるのが見えた。
「おはようございます、間宮さん。お待たせしました。昨日振りですね」
「うん、おは────えっ?」
なぜ今日まで気付けなかったんだろう。名字が同じというところで気付いてもおかしくなかったというのに。
「やっぱり、間宮くんじゃん。おはよ」
嬉しそうにそう言ったのは、咲愛さんの隣にいる緋村結衣だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます