第13話 緋村さんと服選び
高校生初めての長い夏休みが、始まった。いつもより少し遅めに起きて、急ぐことなくゆっくりと朝食を作り、妹とお婆ちゃんの3人で食べる。
食べ終えたら外へ出かける準備をし、鏡の前で身だしなみをチェック。
今日は、緋村さんとショッピングモールに行く日。服選びなら女子と行った方がいい気がするが、彼女は、俺に来て欲しいそうだ。
女子がどんな服を着るのかわからないが、果たして服選びの役に立てるだろうか。
(さて、そろそろ行こうかな)
集合場所は、駅前。そこから電車に乗ってショッピングモールへ向かうそうだ。
お昼は緋村さんと食べて、夕方からはバイトして、夕食は、妹が作るから大丈夫……。
今日1日のスケジュールを確認しながら家を出て駅へ向かう。
駅へは早く着いたのでまだ緋村さんは、来ていなかった。
今日、緋村さんと2人でショッピングモールに行くことを拓海に話すと「男女でお出掛けって、それ、デートじゃん」と言われた。そう言われたせいで変に緊張してきた。
緋村さんが、どこから来るのかと辺りを見渡していると後ろから肩をトントンと誰かに叩かれた。
後ろを振り返ると片手を少し挙げた緋村さんが立っていた。
「よっ、間宮くん。私服、カッコいいね」
ストレートにカッコいいなんて初めて言われたので、顔が赤くなっていく。
「緋村さん。今日もパーカーなんだね。似合ってるよ」
緋村さんはパーカーを着ているイメージができてしまっていて、何色のパーカーでも似合う。
「私もパーカー以外の服、持ってるよ。といいつつパーカーばっかり着るんだけど」
そう言って緋村さんは、苦笑いする。
電車が後数分で来るということで話ながら改札を通り、電車に乗る。
夏休みに入ったからというのもあり、電車がいつもより混んでいる気がした。
座れないので立って電車に揺られていると緋村さんが、聞いてきた。
「間宮くんは、こうして女子と遊びに出かけるのは何度かあるの?」
「穂乃果と理沙とはあるけど、他の人はないかな」
「へー意外。女子から遊びに誘われたりしてそうなのに」
遊びに誘われたりはするが、全て断ってきた。あまり話したことがない人と2人でいたら緊張して何も話せなくなる。
けど、緋村さんは普通に話せている。それはやっぱりここ最近、学校で話すことが多いからだろうか。
「緋村さんは?」
1週間で別れた彼氏がいると行っていたけど、その人とはあるのだろうか。
「んー、バイトの先輩とはあるよ。この前、会った髪染めてた先輩」
あー、あの人か。ナンパしてきた人と勘違いした人。
「あっ、そういや、間宮くんも行きたいところあったら遠慮なく言ってね。付き合うからさ」
「う、うん……」
緋村さんの服選びに付き合うつもり満々だったので、すぐにはどこに行きたいかは出てこない。まぁ、ショッピングモールに着いたら「ここ、行きたい」となるだろう。
***
ショッピングモールに着くと、緋村さんは、服屋ではなく、ある雑貨屋に足を止めた。
「あっ、これ、可愛い……」
彼女が見つけたのはクマのマグカップだ。部屋にもクマのぬいぐるみがあったし、クマが、好きなんだろう。
「間宮くんは、妹の誕生日プレゼントって何あげるの?」
「妹? 妹には欲しいものを聞いて渡してるよ」
「サプライズじゃないってことか……。よし、本命の服屋行こっか」
クマのマグカップは買わずに緋村さんは、服屋へ向かっていくので俺はその後に付いていった。
緋村さんが、よく来る服屋に入ると彼女は、服を見ては悩むを繰り返していた。
パーカー以外あまり着ないって言ってたし、どれが自分に似合うか困ってるのかな……。
(何か、緋村さんに似合いそうな服は……あっ)
「緋村さん、これとかどう? 似合うと思うんだけど」
黒のダボッとした服を手に取り、それを彼女に見せるとキラキラした目でその服を見ていた。
「すっごくいい! 下は何がいいかな?」
服屋の店員でもないし、女子の服に詳しくないから聞かれても困るが……。
「この黒のスカートとか?」
「えっ、いいね! 間宮くん、ファッションセンスある。ちょっと試着してくる」
「お、おう……」
俺が選んだ服を持って試着室へ行ってしまった緋村さん。
(俺が選んじゃって良かったのかな……)
適当に選んだわけじゃないけど、俺好みの服を彼女に着せるというのはどうなのかと思ってしまう。
試着室へ入ってから数分後、カーテンが開いた。
「どう? 似合ってる?」
「!!」
(パーカーを着る緋村さんもいいけど、これも似合っていて可愛い)
どうと聞かれて何も言わず彼女に見とれていると緋村さんは「お~い」と俺の前で手を振る。それに気付いた俺は、ハッとした。
「か、可愛いよ。緋村さんに似合ってる」
「……ふ~ん、なら、買おっかな」
カーテンがシャッと閉じて、俺は後から照れてしまった。
その頃、緋村さんも同じ状態だった。
カーテンを閉めてから下に座り込み、真っ赤になった頬を両手で触る。
「間宮くん、ストレートすぎ……」
***
緋村さんは、結局、俺がすすめた服を買って店から出てきた。
「これで、パーカーお姉ちゃんから卒業。あっ、間宮くん、行きたいところある?」
妹にパーカーお姉ちゃんと言われたくなかったんだろうなぁと思いつつ、俺は館内マップを見た。
「本屋に寄ってもいい?」
「うん、いいよ」
服屋から本屋へ場所を移し、面白そうな小説はないかと探す。
「私、小説より漫画読むタイプだけど、間宮くんのオススメってある?」
「オススメか……それならこれかな」
そう言って、手に取った本は恋愛小説だ。妹から貸してもらった本で読んでみるとかなり面白かった。
「恋愛小説、面白そうだね」
「うん。もし、興味があればだけど貸そうか?」
「いいの?」
「うん、いいよ」
本を貸す約束をし、店から出た後、緋村さんは、何かを思い出したのかスマホを斜めがけのカバンから取り出した。そして、スマホの画面をこちらに向ける。
「そだ、連絡先交換しよ?」
「うん」
(そういや、したつもりでいたけど、してなかった……)
連絡先を交換し、連絡先に『結衣』と追加される。ここ最近、女子の連絡先が増えている気がするが、気のせいだろうか。
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