第12話 夏休みの約束

 週明けの放課後。夏休み目前で教室に残って穂香と拓海、理沙で夏休み、どこに行こうかと話していた。


「やっぱり夏と言えば海じゃないかな。男子にとって、女子と行くことは大イベントでしょ?」


 穂香は俺と拓海にそう言うが、なぜ大イベントなのかさっぱり意味がわからなかった。


「1人わかってない人がいる。女子が水着着てるところが見られるから大イベントなんだよ」


 拓海に説明を受けてやっと大イベントの意味がわかった。


「へぇ~」


「へぇ~って興味なしですか。そういや、結衣ちゃんは?」


 穂香が後ろを振り返るとちょうど教室に緋村さんが入ってきた。


「あっ、結衣ちゃん! どこ行ってたの?」


 彼女が授業終わりすぐに教室を出ていったのは知っているが、どこに行っていたのかは知らない。


「みやちゃんに呼ばれて職員室行ってた。最近、午後の授業に出てて偉いって」


 みやちゃんというのはこのクラスの担任であり、国語科の教師である宮崎先生だ。優しくて、生徒から人気のある先生である。


「確かに結衣ちゃん、前までは午後からの授業出てなかったけど最近は出てるよね。やっぱり隼人がいるから?」


 そんなわけないだろと穂香の言葉に心の中で突っ込むが、緋村さんは、頷いた。


「うん、そうだよ。間宮くんがいるから」

 

「えっ、俺?」


 緋村さんの言葉は俺だけではなく穂香達も驚いていた。


「なに驚いてるのよ。前に言ったでしょ? つまらなかったけど、間宮くんとこうして仲良くなってからは毎日が楽しいって」


(確かに言ってたけど……)


「私の話は終わり。みんな何話してたの?」


 手をパンっと叩き、自分の話はもうしたくないのか話を切り替える緋村さん。


「あっ、そうそう。夏休みだからどこか行こうって話してたの。結衣ちゃん、行きたいところある?」


「ん~夏休み、私、バイトたくさん入れるつもりだし、皆と予定が合うかどうか……。間宮くんもそうでしょ?」


「えっ、なんで知ってるの!?」


 緋村さんに夏休み中、バイトを入れまくろうとしていたことを言った覚えはないのになぜか知られていた。


 彼女はニヤニヤしながらこちらを見てきた。


「だんだん間宮くんがどういう人かわかってきたからかなぁ~。凄いでしょ?」


「う、うん……」


(正直に言うと凄いを通り越して怖いかも……)


「じゃあ、はやっちと結衣の予定がない時に遊ぼうよ」


 スマホを片手に持ってそう言ったのは理沙だ。その提案に穂香と拓海は、賛成する。


「みんな、ありがとう。緋村さん、この日はバイトないって───」

「私はいいよ。みんなで楽しんで」


 彼女は、そう言ってリュックを背負い、教室を出ていってしまった。


「結衣ちゃん……。ど、どうしよう、無理に誘うのはよくないけど……」


 緋村さんが元々誰かとつるんだり、遊んだりすることを好まないことはここにいる全員が知っている。


 けれど、みんなで遊んできてと言われてすぐにうんとは頷けない。


「俺、緋村さんを追いかけるよ。多分だけど、行きたくないってわけじゃないと思うから」


 勝手にみんなと遊びたいと解釈しないでほしいと言われるかもしれない。けど、さっきの緋村さんを見て思ったけど、あれは行きたいけど、遠慮している。


「う、うん。夜に報告よろしくね」


 穂香の言葉を聞いて俺は、緋村さんを追いかけた。教室から出てまだそんなに経っていなかったのですぐに追い付いた。


「緋村さん!」


「ん? 慌ててどうしたの?」


 階段を降りて立ち止まると彼女は、後ろを振り返った。


「夏休み、どこか行こう! 遊園地でもプールでも海でも」

 

 階段を降り終えて彼女にそう言うと緋村さんは、驚いていた。


「私、行かないって言ったけど……」


「遠慮してるように見えたからもう1回誘ってみた。みんな、緋村さんと遊びたいって思ってる。だから、遠慮なんていらないよ」


 理沙とのことがあり、もしかしたら緋村さんは、途中でグループに入ってきて、邪魔者だと思われているのではないかと思っているかもしれない。


「別に遠慮なんてしてないよ。私がいたら多分空気悪くしちゃうし」


「それはなってから言うものだよ。みんな、緋村さんがいて嫌と思ったことないよ」


 拓海も穂香も理沙も緋村さんといたいと思うから遊びに行こうと誘った。誰も彼女といたくないとは思っていない。


「……それもそうだね。ごめん、人間関係上手くいったことないから最初から決めつけてた。一緒にいい?」


「うん、もちろん。みんなには俺の方から言っておくよ」 


 緋村さんと夏休みも会える。そう思うだけで夏休みになるのが楽しみになった。


 今さらだけど、俺、1番緋村さんと遊びに行きたいって主張してんじゃん。


「私もう帰るけど、間宮くん、一緒に帰る?」


「うん、バイトないし一緒に帰ろう」


「バイトないんだ。なら、私のバイト先寄っていかない?」




***





 妹にメールで『友達の家寄って帰るから遅くなる』と送ってから緋村さんのバイト先に向かった。


 カフェにつくと、前に入った奥の部屋に案内された。


 すると、彼女にちょっと待ってと言われて、椅子に座って待つことにする。


(それにしてもやっぱり、女子の部屋は落ち着かないな……)


 あまりキョロキョロと見ていたら緋村さんが戻ってきたときに怪しまれるし、あの大きいクマのぬいぐるみでも見つめておこう。


 じっーと見ていると部屋にはクマ以外にもあったので緋村さんは、ぬいぐるみとか好きなのかなとふと思った。


 ぬいぐるみを抱きしめる緋村さん。ちょっと見てみたいかも……。そう思って想像していると緋村さんが戻ってきた。


 彼女は、制服から半袖パーカーと短めのジーンズのズボンに着替えていた。


(この前と違う色のパーカー……)


「パーカー好きなの?」


「んー好きというか何か着ちゃう感じ? 妹からパーカーお姉ちゃんって前言われたし、パーカー以外の服、今度買おうかな……」


(パーカーお姉ちゃんと呼ばれるほど着てるんだ)


「そだ、間宮くん、女子の友達、多そうだし、参考程度に聞きたいから夏休み、一緒にショッピングモールに行こう」


「えっ、俺?」


 この時、俺は、今年の夏休みは去年と違った休みを過ごす予感がした。







     

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る