第11話 咲愛さんのちょっとした推理
咲愛さんと遭遇し、その場で話すのは他の人に邪魔になるので一旦、スーパーから出た。
「あ、あの……お婆様と手を繋いでいたところは見なかったことにしてください」
どうやら隣にいる方は、咲愛さんと暮らしているお婆様らしい。
「隠すことないと思うけど……」
「い、いえ、恥ずかしいです。絶対、子どもっぽいと思いましたよね?」
お婆様の腕をぎゅっと優しく持ち、半分後ろに隠れ、彼女は問いかけてきた。
「いや、可愛いと思ったよ」
「かっ、可愛い!?」
隠れていた咲愛さんは完全にお婆様の背中に隠れてしまった。
そんな彼女を見ていると咲愛さんのお婆様と目が合った。
「あっ、えっと、初めまして。間宮隼人です」
「はい、初めまして。
ゆっくりとそして丁寧に加代子さんは、話す。どうやら咲愛さんは、加代子さんに俺のことを話したことがあるらしく、知っていた。
「いえ、こちらこそ」
「そうよ、間宮さん。良かったら、夕食をうちで食べていきませんか? 今日はカレーなんです」
いきなりの加代子さんからのお誘いに驚く。今日は夕食の当番で俺が作ることになってるし、ここはちゃん断らないと。
断ることにして、口を開こうとすると隠れていた咲愛さんが、駆け寄ってきた。
「お婆様の作るカレーは美味しいです。良ければ来てください」
咲愛さんにうるっとした目で可愛く言われ、断りにくくなった。
(おそるべし、天使の笑顔)
家には作り置きがあって、俺が家で作らなくても妹とお婆ちゃんの夕食はどうにかなるだろう。
メッセージで妹に『夕食、友人の食べてくることになりそうなんだけど、大丈夫か?』と送る。
すると、『大丈夫だよ。冷蔵庫にあるものからなんか作るし』と返信が返ってきた。
スマホから目を離すと咲愛さんがどうですかと返事を待っていた。
「お言葉に甘えて行ってもいいですか?」
加代子さんにそう尋ねると、笑顔で頷いてくれた。
「えぇ、どうぞ」
***
スーパーへ行くのは帰りにするとして、咲愛さんの家へお邪魔した。
大きな一軒家で、入ってすぐ驚き、「おぉ」と声を漏してしまった。
咲愛さんのお姉さんに会ってみたがったが、残念ながらバイトへ行って今はいないらしい。
加代子さんは夕飯の時間なのですぐにカレーを作り始め、俺も何か手伝おうとしたが、大丈夫よと言って咲愛さんと一緒に遊んで待っていてほしいと頼まれた。
「間宮さん、待っている間、絵を描きませんか?」
色鉛筆を持って来て、ソファに座る咲愛さんに誘われ、俺は、彼女の隣に座り、絵を描くことにする。
「何を描くの?」
「そうですね。好きな食べ物を描きましょう。描き終えるまでお互いの絵を見るのはなしで」
そう言って咲愛さんは、さっそく描き始めたので遅れて俺も何か描くことにする。
(好きな食べ物か……なら、あれしかない)
お互い、集中していて数分後。描き終えるとキッチンからいい匂いがしてきた。
「出来ましたっ! 間宮さんはどうですか?」
自分が描いた絵が描かれた紙を裏向けて、尋ねてきたので俺は、同じく紙を裏向けて、うんと頷いた。
「描けたよ」
「では、何を描いたか当てるゲームをしましょう。間宮さん、私は、何を描いたと思いますか?」
なるほど、何を描いているか描き終えるまで見せないようにするのはこのゲームをするためだったのか。
描いているものは好きな食べ物。咲愛さんが好きな食べ物って何だろう……。
「苺?」
「いえ、違います。ヒントはケーキです」
「ケーキ……あっ、ショートケーキ?」
「違います。惜しいです」
惜しいと言われて、もしかしてあれかなの思い、正解を当てるつもりで答えた。
「チーズケーキ?」
「はいっ、正解です!」
裏返していた紙を表に向けて彼女は、絵が見えるようこちらに向けた。
「えっ、上手い! 絵、よく描くの?」
そう尋ねると咲愛さんは、小さく笑う。
「好きでよく絵を描くんです。さて、次は私の番です。もしかして、間宮さんもケーキだったりしますか?」
「おっ、凄い。よくわかったね」
ヒントを与えなくてもケーキまで絞りこまれたので驚いた。
「勘だったんですけど、ケーキなんですね。間宮さんが好きなケーキ……もしかしてチョコケーキですか?」
「正解! もしかして、描いてるとき、俺の見てた?」
1回で当てられたので不正をしているのではないかと疑ったが、咲愛さんは、首を横にフルフルと振る。
「してませんよ。むふ~間宮さん、酷いです」
ぷくっ~と頬を含ませる咲愛さん。どうやら怒らせてしまったようだ。
「疑ってごめん、咲愛さん。1回で当てられるとは思ってなかったから」
そう言うと彼女は、微笑み、なぜチョコケーキだとわかったのか教えてくれた。
「チョコケーキだと思ったのは使っていた色を変えようとしたときに茶色がなかったからです。茶色を長い時間使っていたようですし、そこでもしかしたらと思ったんです。ちょっとした推理です」
(なるほど……)
2人しかいないわけだし、相手が何色を使っているかは自分が手にしている色と置いてある色を見たらどの色が足りないのかわかる。
勝負をしたわけじゃないのに咲愛さんのちょっとした推理に負けた気分になった。
「2人とも、出来たから手伝ってくれますか?」
キッチンから加代子さんの声が聞こえ、俺と咲愛さんは、机にあるものを片付けてキッチンへ手伝いに行った。
加代子さんが作ってくれたカレーはとても美味しかった。食べた後、食器を洗ってから家に帰ることにした。
帰ろうとすると咲愛さんが玄関まで見送りに来てくれる。
「間宮さん、良ければ連絡先の交換がしたいのですが……」
咲愛さんがスマホを持っているのを見て俺は驚く。今の中学生はスマホを持っているのかと。自分なんか高校で初めて持ったと言うのに。
「いいよ」
そう言ってスマホを取り出すと咲愛さんの表情がパッと明るくなった。
「ありがとうございます。これでいつでも間宮さんとお話しできます」
連絡先を交換し、連絡先一覧を見ると『さら』と追加されていた。
連絡先を交換したのでこれからはいつでもお話しできるとわかり、嬉しくて口元が緩みそうになった。
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