第10話 緋村さんと調理実習

 拓海と穂香と一緒に登校したその日。教室に着くと先に来ていたクラスメイトはなぜか皆、前の方に集まっていた。


 何事かと思い、教室の入り口付近にいたクラスの男子に聞いてみた。


「何かあったの?」


「あっ、間宮、おはよ。今日の家庭科の時間、調理実習じゃん。で、その時の班を事前に決めておいてほしいとさっき先生が」


 さらに詳しく聞くと、決めてほしいことは4人から6人の班を作ること。そして班のリーダーも決めておいてほしいとのことだ。


「隼人、もちろん、一緒だよねっ?」


 同じく他の子から話を聞いた穂香と拓海がやって来て一緒に組もうと話になる。


「うん、後は理沙と───」


 緋村さんも一緒にと思い、彼女が先に来ているか確認していると近くで話す女子グループの会話が耳に入ってきた。



「緋村さんどうするんだろう。1人になるんじゃない?」

「確かに。でも、入れたくないなぁ。気まずくなるし、あの子、1人が好きみたいだし」



 その会話を聞いていると後ろのドアから緋村さんが教室に入ってきた。彼女の話をしていた女子達は、「ヤバっ」と言って慌てて別の話をする。


 すると、それを見ていた穂香は、腕を組んで呟いた。


「ああやって決めつけるのはよくないよね」


「うん。俺、緋村さんを誘ってくるよ」


 緋村さんと一緒に調理実習がしたいと思い、彼女の元へ行こうとするとそれよりも先に理沙が彼女に話しかけに行っていた。


「結衣、おはよ」


「お、おう……おはよ」


「今日、調理実習あるんだけど、結衣、私達のグループに入ってやらない? はやっちが、結衣とやりたそうにこっち見てるから」


 理沙がそう言うと、緋村さんは、ニヤニヤしながら俺の方を見た。


 彼女とは距離があって理沙と何を話しているのか聞こえていないのでなぜニヤニヤしているのかがわからない。


 2人のところへ言って話を聞こうとするとあちらから来てくれた。


「おはよ、間宮くん」


「うん、おはよ」


「調理実習の班、私もいいかな?」


 もちろんと言おうとしたが、緋村さんが来たことに気付いた穂香が言葉を遮ってきた。


「もちろんだよっ。じゃあ、この5人で決まり。リーダーは、隼人で」


「立候補制じゃないだ。やりたい人がいないならやるけど」


 こういう班活動でリーダーとかまとめ役は何度もやったことがあるので嫌ではない。


 誰もリーダーをやらなさそうな雰囲気で、おそらく拓海も穂香も理沙もやらないだろうと思い、隣にいる緋村さんに一応聞いてみる。


「緋村さん、やる?」


「面倒だしやらない。けど、間宮くんがリーダー嫌なら私やるよ」


(な、何かカッコいい……緋村さんがキラキラして見える)


「じゃあ、俺がやるよ。嫌じゃないからね」


「そう、ならリーダーよろしく」


 緋村さんにそう言われて俺は、小さく頷いた。





***





 1年にあるかないかの今日の調理実習では、チョコクッキーを作るらしい。家でたまにお菓子作りをしたりするのでクッキーは何度か作ったことがある。


 クッキーを作ったことがないのは班の中で拓海と緋村さん。2人は、料理経験はあるが、お菓子作りはしたことがないそうだ。


 オーブンが2つあるのでグッパで俺と緋村さん、穂香。そして拓海と理沙とで別れた。


「拓海、あっちのチームに負けないようなもの作るよ!」

「だな。隼人より美味しいの作ろう」

「打倒、はやっち!」


(打倒って、怖いんだけど……)


 なぜか敵意を向けてくる人達を無視して、さっそくチョコクッキーを作り始めることにした。


「間宮くん、クッキー作ったことあるの?」


「うん、何回か」


「穂香は?」


「ん~、一度だけかな。けど、任せて! 隼人がいるからには成功間違いなしだから!」


 そんなにハードルをあげられるのは困る。これまでクッキーを作って失敗したことはないけど。


「頼りにしてるよ、間宮くん。さっそく作ってく?」


「そうだね」


 穂香にはバターをレンジにかけてやわらかくし、泡立て器でクリーム状にするのを任せた。


 緋村さんには半分のチョコのカットをお願いし、残りの半分は自分がすることに決まった。


「間宮くん。こんな感じ?」


 隣で見守っていた俺の方を体だけ向けて、チョコのサイズはこれでいいかと聞いてくる。


「うん、それぐらいで大丈夫」


 大丈夫という言葉が聞けてホッとした彼女はチョコを切るのを再開する。


「隼人、やりたいって言ったけどやっぱり手が疲れたから交代でもいい?」


 泡立て器を使って手が疲れた穂香は、レンジにかけたバターと砂糖、卵が入ったボールを持って来た。


「うん、いいよ。じゃあ、穂香は、緋村さんが、チョコカットしたら残りの半分お願いできる?」


「うん、任せて」

 

 穂香とバトンタッチし、ボールの中にあるものを泡立て器でかき混ぜる。


 そして、薄力粉をふるい入れゴムベラに持ち替えて粉なっぽさがなくなるように混ぜた。


 それをチラチラと見ていた穂香と緋村さんは、話していた。


「隼人、ほんと何でもできちゃう人間なんだけど、できないことあるんだよ」

「えっ、何?」

「それはね────」


「言わんでいい」


 丸聞こえだったので注意すると、2人は顔を見合わせて笑った。


「気になるんだけど、教えてくれないの?」


 チョコのカットが終わり、穂香と交代した後、緋村さんは、俺の隣に並んで尋ねてくる。


「教えてもいいけど、思い出し笑いする人がいるからここではしない」


「余計気になる……けど、我慢する。無理に聞くのは好きじゃないし」


 そう言って緋村さんは、穂香の元へと帰っていった。




─────放課後




 チョコクッキーは、無事完成した。作ったのは誰かに渡したりしてもいいし、自分で食べてもいいらしい。


 今日は緋村さんはバイトらしくすぐに帰り、穂香と拓海はデート、理沙は他の友達と帰る約束をしていたので俺は1人で帰ることにする。


 夕飯に必要なものを買おうとスーパーに寄り、中に入ると咲愛さんと遭遇した。


 咲愛さんは、隣にいた人と手を繋いでいたが、俺に気付いて顔を赤くし、手をパッと離した。








   

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