第9話 君の隣は落ち着く

 放課後。今日はバイトもないので後は家に帰るだけ。緋村さんを誘ってみよう。


「緋村さん、今日はバイト?」


 隣の席でゆっくりと教科書をリュックに入れていく緋村さんに尋ねる。


 すると、彼女は、スマホでカレンダーのアプリを開きバイトがあるか確認していた。


(今、確認するんだ……)


「ないよ。途中まで一緒に帰る?」


 こちらから誘うつもりだったが、彼女の方から誘ってくれた。


 首を縦に振り、緋村さんと一緒に教室を出る。帰り際、下で2人で帰る穂香と拓海に会い、少し立ち話してから学校を出た。


 2人からもこっそり付き合っていたのかと誤解されてしまった。そんなに付き合っているように見えるだろうか。


「あっつー。間宮くん、コンビニ寄ってアイス買わない?」


 手で顔を仰ぐ、緋村さんと同じで俺も暑いので何か冷たいものが食べたい気分だった。


「いいな。そう言えば、学校の帰り道にそういうことしたことないかも」


 そう口にすると緋村さんは「マジで言ってるの?」と言いたげな表情でこちらを見てきた。


「真面目くんだ……。バイトもいいけど、高校生ならこの放課後を楽しまなきゃ。高校生しかできないことがあるんだから」


「高校生にしかできないこと……寄り道してアイス食べることも?」


「そだね。さて、何にしよっかなぁ~」


 コンビニに入り、緋村さんは、迷いなくアイスコーナーへ行く。


 彼女の隣に並び、アイスを選んでいると小さい頃によく妹と分けて食べていたアイスを見つけた。


 これ、チョココーヒーとか白葡萄、ホワイトサワーがあるんだよな……。よく食べてたのは白葡萄だっけ。


 白葡萄を手に取ると緋村さんが近寄ってきた。


「あっ、それ、いいじゃん。分けて食べる?」


「えっ、でも、緋村さん、食べたいのがあるんじゃないの?」

 

「ううん、悩んでたところだし。それ、好きだから分けて食べよ」





***





 アイスをコンビニで買い、公園のベンチに座って2人で分ける。

 

「シェアするの妹以外始めてかも」


 そう言って緋村さんは、アイスを食べ始めた。


「緋村さん、妹といるんだ」


「うん、いるよー。間宮くんは、兄弟とかいるの?」


「妹がいるよ」


「お~、妹仲間」


 仲間と聞いてふと頭に咲愛さんが浮かんできた。咲愛さんが、共通点が見つかったらよく言ってたような……。


 冷たいアイスを少しずつ食べながら緋村さんと話していると彼女は、俺の方へ寄ってきた。


(近いと思うのは、気のせいだろうか……)


「興味本意で聞くけど、間宮くんって、モテるけど好きな人とかいるの?」


「好きな人……ううん、いないよ」


 前から思ってたけれど、自分がモテていると自覚したことがない。だから、色んな人から鈍感と言われるんだけど……。


「緋村さんは好きな人いるの?」


「今はいないよ。中学の頃、付き合ってた子がいたんだけど、1週間で別れた。恋愛とか面倒だし今はそういうのいいかなって思ってる」


 緋村さん、彼氏いそうだと思ったけど、やっぱりいたんだ。面倒って、付き合ってた時に何かあったのだろうか。


「ん~、やっぱりこういう暑い日には冷たいものだね」


「そう───」

 

 そうだねと共感しようとすると、目の前に大学生らしき男の人が2人いた。


(えっ、これ、もしやまたナンパ?)


 危険だと思い、素早く立ち上がり、食べ終えたアイスのゴミをベンチに置いて、彼女の目の前に立った。


「俺の彼女に何か用ですか?」


 両手を広げて守るようにそう言うと男2人は、「えっ?」と驚くような表情をし、後ろからは緋村さんの笑い声が聞こえてきた。


(あれ……?)


「間宮くん、いつから私の彼氏になったの?」


 後ろから緋村さんにそう言われて後ろを振り返る。


「えっ!? こ、これはそのナンパされたときに言ったら相手を諦めさせることができる方法で……」


「あーなるほど。大丈夫だよ、その2人。バイト先の友達だし。ね?」


「よっ、結衣ちゃん。彼氏いたんだ」

「いないって言ってたけどあれは照れ隠しか」


 この人達がナンパしてくる人だと思っていたが、緋村さんのバイト仲間であると知り、俺は恥ずかしくなった。


(追い払うために俺の彼女とか言ってしまった……穴があるなら入りたい……)


「彼氏じゃないって。間宮くんは、私を守ってくれたんだよね」


 立ち上がり、後ろから俺の肩に手を置いて彼女は、尋ねる。


「う、うん……」


「ありがと、間宮くん。カッコ良かった」


 早とちりして恥ずかしい思いをしたけど、彼女からお礼を言われて嬉しかった。


「あの、すみません。緋村さんのバイト仲間とは思ってなくて」


 謝ると彼らは笑っていいよと言ってくれる。


「お前がチャラいからそう思われたんだって」

「いやいや、そっちだろ、髪色ハデだし。結衣ちゃん、もしかしてその間宮くんって子、前にカフェに連れてきてた子?」


「そうだよー」


「そっか。今度は営業してるときにおいで。バイト先のカフェ、美味しいケーキあるからさ」


 見た目は怖いけど緋村さんのバイト仲間の2人は、とても優しかった。


「はい、今度行きます」


「じゃ、お邪魔しちゃ悪いし、またね」


 2人が立ち去っていき、緋村さんと2人になると彼女は、俺の横に並び、肩にもたれかかってきた。


「緋村さん……?」


 いつもしっかりとしていて何事にも強気でいる緋村さんが、今は小さな子どもに見える。


 何となくぎゅっと抱きしめて安心させたいと思った。けど、彼氏でもない俺にはできない。


「君の隣は落ち着くよ。つまらなかった学校が、今は楽しくて、1人でいることが楽でいいと思ってたのに誰かといるのもいいと思えた。ありがと、間宮くん」


 自分は、彼女のことが知りたくて、話しかけていた。けれど、彼女にとっては俺が何かを変えたきっかけとなっていた。


「間宮くんは、真面目で経験したこと無さそうなことたくさんありそうだし、私が教えてあげるよ。放課後の楽しさとかをね」


「それは是非教えてもらいたいかも」


「うん、たくさん教えてあげる」








       

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