第7話 では、また作ってきますね
咲愛さんと約束していた土曜日。中学生と待ち合わせというのは不思議な感じだ。
妹とお婆ちゃんには友達と遊びに行ってくると伝えたが、咲愛さんが、家の人にどう説明したのかとても気になる。
高校生のお兄さんと何て言ってしまえば、家の人は当然驚き、そして相手は大丈夫なのかと心配するだろう。
「上着はいらないか……」
今日から6月。夏服には早いが、そろそろ上着がなくてもいい時期になってきた。
羽織っていた上着を脱ぎ、待ち合わせ時間までまだ余裕があることをチェックし、スマホと財布だけを持って家を出た。
家を出て、集合時間前より少し早めに約束場所である公園へ向かう。
何だか今からデートに行く気分だ。咲愛さんと会うことが今週は楽しみの1つとなっていた。
目的の場所へと着くとまだ咲愛さんは、来ていないようで、ベンチに座って待つことにした。
公園には小さい子が走り回ったり、砂場で遊んだりしている。
この時間だから子供がたくさんいて、その近くでお母さん同士が話していた。
俺がここにいると何だかヤバい奴に見えてしまう……。ベンチに座って子供を見る高校生と。
暫く、ぼっーとしていると近くから足音がした。
「間宮さん、こんにちは」
「こんにちは、咲愛さん」
彼女の服装は、腰回りにボタンカラーのベルトが付いたカジュアルドレスを来ていた。
純白なドレスは、とても咲愛さんに似合っている。
「今日は、間宮さんにクッキーを作ってきました」
「クッキー? 自分で作ったの?」
だとしたら凄いと感心していると彼女は、俺の隣にちょこんと座り、カバンからラッピングされたクッキーを取り出した。
「はい。この前、好きな人にクッキーとかはどうかと間宮さんからアドバイスをもらいましたので作ってきました」
クッキーをもらい、そこでなぜそのクッキーを俺にと疑問が湧いた。
好きな人に渡したかったのなら俺に渡すのは何か違う気がする。
「えっと、俺が食べてもいいのかな? 俺より先に好きな人にあげるべきなんじゃない?」
咲愛さんが頑張って作ったクッキーならその好きな人に渡せばいい。けど、俺に渡したってことは……と謎に期待してしまう。
「えっと……間宮さんに味見にしてもらってから渡そうかなと……」
「な、なるほど、つまり味見役ってこと?」
「は、はい! そうです! どうぞ、お願いします!」
そう言って彼女は、俺に可愛いハート柄のものにラッピングされたクッキーを手渡す。
「ありがと。今、食べてもいいかな? 咲愛さん、感想気になるだろうし」
「はい、どうぞ、食べてください」
「じゃあ、いただきます」
クッキーは、3枚入っていて1枚を手に取る。見た目はとても美味しそうだ。匂いもいい感じだし、後は味が良ければ完璧だ。
クッキーの半分をまず、食べてみると口の中に甘い香りが広がった。
(お、美味しすぎる! 美味しすぎて涙が……)
どれだけ咲愛さんが頑張ってこのクッキーを作ったのか食べてみることで伝わってきた。
咲愛さんの好きな人が、これを受け取ったら絶対に喜ぶだろう。
「ど、どうですか……?」
頑張って作ったけれど、味には自身がなく、彼女は恐る恐る聞いてきた。
「美味しいよ」
「ほ、ほんとですか!? では、また作ってきますね」
「えっ、いや、俺じゃなくてクッキーは、好きな人にあげないと」
「そ、そうですけど、私は、間宮さんにも食べてもらいたいんです。なので、また作った時は是非食べてください」
ここで嫌と断ったら彼女を悲しませてしまう。それに彼女が俺に食べてほしいと思うならここは受け取るべきだろう。
「わかった、楽しみにしてる。ところで、咲愛さん、今日は、何かしますか?」
またお話しましょうとのことで集まったが、こんなにも天気がいいのにただ話すだけというのも勿体ない気がした。
咲愛さんとこうして話している時間は好きだけど。
「そうですね。実は、こんなものを持ってきました」
そう言ってカバンから取り出したものはある場所の観光パンフレットだった。
「夏と言えば、海です。私、夏休みに海を見に行きたいと思ってるんです」
ニコニコと笑顔で海特集と書かれてあるページを開く咲愛さんは、とても可愛らしくてキュンときてしまう。
(小さい子は元から好きだけど、キュンとしたことなんてないだが……)
「いいね、海。俺も友達と去年行ったよ」
「う、羨ましいです……。私も間宮さんと行きたいです」
パンフレットで顔を隠す咲愛さん。おそらく照れて顔を見られたくないのだろう。
(そんな仕草もまたいい! って、俺は、いつから小さい子大好きになってるんだよ)
「俺と?」
「はい……無理であれば断っていただいていいですけど……」
公園で会うならまだ咲愛さんの親が心配しないだろうけど、海となれば危険もあるし、簡単には連れていけない。せめて、親がいたら一緒に行けそうだけど……。
「咲愛さんを俺1人に任すと、お婆ちゃんとお姉さんが心配だろうし、お姉さんも誘うことができるなら海に行けるかもしれないね」
「それはつまり保護者がいればいいということですか?」
自分が中学生でまだ誰かとどこかに行くと心配される年だ。同級生ならまだしも高校生の俺と行くとなると更に心配させてしまう。
「そうだね」
「では、お姉ちゃんにお願いしてみます。お姉ちゃん、間宮さんと同じぐらいの年だと思うので仲良くなれると思います。優しいお姉ちゃんです」
「そうなんだ」
もしかしたら同い年だったり……。咲愛さん、この近所に住んでるみたいだし、学校が一緒という可能性もある。
それより今、咲愛さんがお姉さんを連れてきて海に行く流れになってるけど、咲愛さんは、お姉さんにどう言うんだろう。
普通に高校生の人と海に行きたいから付いてきてほしいと頼むのだろうか。
「そうです、私の家には猫のモモがいます。今度、会った時に写真見せますね」
「うん、楽しみにしてる。俺、猫好きだし」
「同士ですね! 猫仲間です! 他には何かありますか? 間宮さんが、どんなものが好きなのか知りたいです」
彼女と話しているて時間があっという間に過ぎていく。気付けば、公園で1時間ほど話してしまっていた。
「では、また今度」
彼女はニコニコしながら手を振り、帰っていく。そして咲愛さんの背中が見えなくなってから気付く。
「次、いつ会うかの約束してない……」
海に行く約束はしたが、細かいことは決めていない。
(けど、また会えるか……)
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