第5話 緋村さんとある女子グループ

「今日、挨拶無視してごめん」


 スーパーへ向かう途中、彼女は、今日、学校で挨拶を無視したことを俺に謝った。


 彼女の話に寄ればどうやら教室では話しかけてほしくなかったらしい。


 目でそれを訴えていたらしいが、言葉にして言われたわけじゃないのでわかるわけがなかった。


「言ってくれないとわからない」


「うん、それはそう。言葉にしないでごめん」


「謝らなくても。怒ってないし」


「本心は?」


「怒ってる。というか、無視は傷ついた」


「嘘つき。やっぱりそうじゃん」


 頬を膨らませた彼女は、顔を見られたくないのかフードを被った。


「教室で私と話してたら間宮くんまで皆に嫌われる。だから教室では私と話さない方がいいよ」


 挨拶を無視したのは私と関わりを持つなという意味があったらしい。


 クラスで浮いている自分と仲良くなったら俺も他の人に変な噂をされるんじゃないかと彼女は心配していたようだ。


「話すだけだし、周りの目なんて気にしなくていいんじゃないかな。緋村さんが本当に俺に話しかけてほしくないなら話しかけないよ」


「そんなに私と話したいの?」


 彼女の問いに俺はすぐに頷く。クラスで不思議な子と言われているからこそ彼女のことを知りたいと思った。


 皆から怖がられてるけど、話してみると優しくて、話していて楽しいと思えた。


「わかった。間宮くんが、これからは教室で話しかけられても無視しない」


「うん」


 スーパーに着くとお互い買いたいものを買い、その場で別れることになった。


「緋村さん」


「ん? どうした?」


 クルッと振り返り、彼女は、真っ直ぐと俺のことを見る。


「明日のお昼、一緒に食べない?」


 いつも午後から帰ってしまうけど、誘ってみたら「うん」と答えてくれそうな気がして、誘ってみたが、返ってきた返事は、こうだった。


「普通に嫌」


「えっ?」


「群れるの嫌だから嫌。じゃね」


「あっ……」


 追いかけて『なら2人で食べようと』誘おうとしたが、彼女から付いてくるなオーラが漂っていた。


(嫌って言われてこんなにショックなの初めてかも……)




***




 翌朝、学校に着くと今日もまた緋村さんの方が先に来ていた。


(よしっ、今日こそは)


 自分の席にカバンを置いてから一度深呼吸し、緋村さんに挨拶をする。


「緋村さん、おはよ」


 大丈夫。昨日は理由があって無視されたけど今日はちゃんと返してくれるはすだ。


「おはよ、間宮くん。今日もイケメンオーラ出てるね」


「イケメンオーラ?」


 どういうことかわからず首をかしげると緋村さんは、近くにいた女子のグループを見た。


 彼女が見た方を俺も見るとその女子グループから「きゃ~」と悲鳴が上がり、何だか盛り上がっていた。


「無自覚モテ男め。ところで、間宮くん、今日、宿題あった?」


「数学があったよ」


 そう言うと緋村さんは、数学の白紙のプリントをファイルから出して見せてきた。


「白紙。いや、早くやらないと数学1時間目だよ!?」


「あーんー、数学、わからんし、もう諦める」


「諦めないで解こうよ。ほら、教えるからさ」


 隣の席なので自分の椅子を持ってきて緋村さんの隣に座る。


 すると、近くから女子の話し声が聞こえた。



「何あの女。間宮くんに勉強教えてもらうとか」

「まさか狙ってるのかな」

「狙ってても緋村さん、怖いから間宮くんが好きになるわけないよ」



 色々言われていて心配になった俺は緋村さんのことを見た。けれど、彼女は、話し声は全く気にしている様子はなかった。


 彼女に声をかけようとすると、緋村さんに対して色々言っていた女子の1人がこちらへ来た。


「間宮くん、緋村さんに勉強なんて教えなくていいと思うよ。それよりさ、こっちで話そうよ」


「ごめん、緋村さんと今、数学やってるから」


 キッパリと断ったが、その女子は引き下がることなく、この場から動かず、緋村さんのことを見た。


「緋村さん、男子に可愛いってチヤホヤされてるからって間宮くんに媚び得る気?」


 黙って聞き流していたようだったが、緋村さんは、カチンときたのか、席から立ち上がった。


 そして緋村さんは、その女子と後ろにいたグループに向かって言う。


「君達には、勘違い女ってあだ名が似合うよ。私と間宮くんの間には何もないからね」


「なっ! 勘違い女はそっちでしょ? 間宮くんに好かれてるって思ってるからそうやって勉強教えてもらって」


 このままだと女子同士の喧嘩が加速してしまう。気の強い緋村さんだけど、聞いているだけではダメだ。


「渡辺さん、教えるって言ったのは俺だよ」


「えっ、あっ、そうなんだ……」


「後、言っておくけど、緋村さんは、怖い人なんかじゃないよ。だから変にコソコソと話すのやめてくれないかな」


 みんなの緋村さんの印象を変えてあげたい。本当は優しくて、怖くなんてないことを知ってもらいたい。


「……ご、ごめん」


 目を見て言っていないが、彼女は、緋村さんに謝り、立ち去っていった。


「ふぅ~」


(怖かったぁ~!!!)


 女子の友達と喧嘩ならまだいいけどあまり話したことがない人とあんな雰囲気の中、話すとか空気に負けそうだし、相手の目付きが怖かった。


 安堵しているとツンツンと腕を緋村さんにつつかれた。


「ありがと、間宮くん。カッコ良かった」


「……そ、そうかな」


 カッコいいなんて直接、同級生から言われたことがなかったので少し照れる。


「照れてる、可愛い」


 ふにふにと頬をつつかれて、顔が赤くなっていくのを感じた。


「ひ、緋村さん、手が止まってるから動かして。ここは、基礎だからこの式使えば解けるから」


「おっ、天才!!」


 それから予鈴が鳴るまで俺は緋村さんが宿題を終えるまで付き合った。


 その時間は楽しくて彼女といる時間はあっという間に過ぎていた。


「教えてくれたお礼に今日のお昼、一緒に食べよ」


「えっ、いいの? 昨日はあんなに嫌って言ってたのに」


「気分が変わった。私、お弁当持ってきてないから学食でもいい?」


「うん、もちろん」


 最初は断られたけど、緋村さんと食べれることになり嬉しかった。



 

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