第4話 えへへ、実は最近できたんです
「うん、また会えたね」
そう言うと彼女は、嬉しそうに微笑んだ。
「このチーズケーキ味のジュースが欲しいのですが、私の背では届かなくて」
ピョンピョンと飛んでボタンを押そうとするも彼女の背では欲しいものがある1番上のボタンには届かない。
お金はもう入れていて、後は押すだけだったので、俺が押すことにする。
ピッと音が鳴り、チーズケーキ味のジュースはガタンと落ちてくる。
「ありがとうございます、間宮さん」
ジュースを手に取る彼女は、嬉しそうにニコッと笑う。
そのジュース、昨日も見たような気がするけど、人気なのかな?
「間宮さん、少しだけお喋りしませんか?」
彼女は、近くにあった公園を指差してそう言った。
「外も暗いし少しだけなら」
「ありがとうございます!」
妹に『ちょっと帰るの遅くなる』とメッセージを入れてから咲愛さんと一緒に公園へ行き、ベンチに座った。
彼女は、一口ジュースを飲み、幸せそうな表情をした。
「あれから何か考えはまとまりましたか?」
好きな部活をやめるかどうか決まったかと彼女は尋ねる。
とても中学生とは思えないぐらい俺のことを心配してくれている。
「うん、決めたよ。部活は入らないことにした」
あの日、咲愛さんが言ってくれた言葉があったからどうしたいかがハッキリと決まった。
「そう……ですか」
「けど、バスケをやることはやめないよ。咲愛さんが好きなことをやることはいいことだって言ってくれたから」
部活じゃなくても趣味としてバスケを続けていきたい。
好きなことをやめることなんてない。やりたいと思うなら続けるべきだ。
「間宮さんが決めたことならば間違いはありませんね。私は、応援しています、どんな選択をしようと間宮さんを」
小さな子なのに彼女の言葉は、大人っぽい。聞くだけで前へ進めるような不思議な力がある。
「ありがとう」
「いえ、私なんかの言葉で助けになるのなら」
俺は咲愛さんに助けられた。だから俺にも何か出来ることがあれば助けてあげたい。
「咲愛さんは、何か困ってることある?」
「困ってることですか?」
ジュースを両手で持ち、足をぶらぶらと動かす咲愛さんは、話す。
「うん」
「そうですね……恋愛相談をしてもいいですか?」
「恋愛相談?」
友人とかそういう相談事かと勝手に思っていたけれど、恋愛相談が来て驚いた。
「咲愛さんは、好きな人がいるの?」
そう尋ねると彼女は、ジュースをベンチに置いて、両手を合わせて頬を染めていた。
「えへへ、実は最近できたんです。話しているとドキドキして、会う度に嬉しくなるんです」
聞いていると、こちらもくすぐったい気持ちになる。
彼女の嬉しそうな表情を見ていると本当にその人を好きになったんだなと思う。
「そこで、間宮さんに聞きたいことがあります」
「聞きたいこと?」
「はい。その好きな人にお菓子を作りたいと思うのですが、男性はどんなお菓子が好きですか?」
男性が好きなものか……。わからないし、ここは、俺の好みを言った方が参考になるだろうか。
「甘いものとか」
「甘いもの。例えば?」
「例えば、クッキーとか? 甘すぎるのが苦手な人もいるからさ」
「な、なるほど……。わかりましたっ、相談に乗ってくださりありがとうございます」
ペコリとお辞儀した彼女は、嬉しそうにニコニコと笑い、ジュースを手に取り、一口飲む。
「ところで、それ美味しいの?」
緋村さんが、昨日飲んでいるのを見て気になっていたので咲愛さんに感想を聞いてみる。
「美味しいですよ。飲みますか?」
「いや、遠慮しておくよ」
気になったが、飲みかけを飲むことはいけない気がして遠慮した。
「あっ、間接キスになりますね……すみません」
かぁ~と顔が赤くなった咲愛さんは、ジュースで顔を隠そうとしているが、隠れていない。
「さて、そろそろ帰ろう咲愛さん。親が心配するよ」
「むふ~、まだもう少し間宮さんと話していたいです」
「うん、俺もだよ。けど、また会った時に話そう」
彼女に向けてそう言うと咲愛さんは、小さく微笑んだ。
「また……またお話ししてくれるんですか?」
「うん、咲愛さんがそう思ってくれるなら」
「では、約束です。間宮さん、今週の土曜日空いてますか?」
予定を聞かれて、バイトがないか、スマホでカレンダーを見てチェックする。
土曜日は特に何も予定は入っていないので咲愛さんに「空いてるよ」と返答した。
「では、土曜日にここでまた会いましょう。10時頃でもいいですか?」
「うん、いいよ」
「決まりですね。さて、間宮さんが心配そうな顔をしているので私はもう帰ります」
ジュースを持ってベンチから立ち上がり、ペコリとお辞儀してから彼女は公園を出ていった。
1人になり、辺りがシーンと静まり返るとさっき咲愛さんが言ってくれたのを思い出した。
『間宮さんが決めたことならば間違いはありませんね』
「間違いない……か」
決めた今でも本当にこれで良かったのかと悩んでいたけど、咲愛さんの言葉を聞いてこれでいいんだと思えた。
「俺も帰るか……」
***
家へ向かって歩いていると昨日、行ったカフェ『tuki』の前を通りかかった。
(緋村さんいるかな……)
カフェはまだやっているようでそっーと中を覗く。すると、後ろから誰かに肩を掴まれた。
「何してんの?」
「!? 緋村さん!!」
後ろを振り返るとそこには昨日と色が違うがパーカーを着た緋村さんが立っていた。
「驚きすぎ。で、何用?」
「えっと……緋村さん、いるかなっーて」
「へぇー。バイト終わって今からスーパー行くんだけど、一緒に来る?」
「う、うん。俺も今から行こうとしてたから」
彼女と話したくてそう返答すると緋村さんにクスッと笑われた。
「ちょっとそこで待ってて。荷物取ってくるから」
コンビニで何か買ってきたところだろうか。彼女は、コンビニ袋を持ってカフェへ入っていった。
正直に緋村さんがいるか見に来たって言ったけど変に思われてなくて良かった。ストーカーと思われてしまうんじゃないかと心配になったけど。
暫く待っているとカフェから緋村さんが出てきた。
「お待たせ。じゃ、行こっか」
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