第3話 助けてくれたお礼に

 よくわからず彼女に付いていくと来たことがないカフェ『tuki』に着いた。


 営業は終わっているようで従業員は帰る準備をしているようだった。


「こんばんは~」


「し、失礼します……」


 店内にはこの場所に合ったいい感じの音楽が流れている。


 キョロキョロと辺りを見回していると1人の女性が俺達が来たことに気付いた。


「結衣ちゃん。忘れ物?」


「はい。杏菜さん、冷蔵庫に入ってるやつもらいますね」


「どうぞー。あっ、もしかして彼氏?」


 隣にいる俺を見て彼氏だと勘違いされてしまった。


 違いますと言おうとすると緋村さんが先に答えてくれた。


「クラスメイトです。間宮くん、こっち」


「あっ、うん……」


 いや、うんって頷いちゃってるけど、本当にどこに連れていかれるんだろうか。怪しいカフェってわけでもないし大丈夫だと思うが。


 緋村さんに付いていくと、カフェの裏のような場所へ案内され、彼女はある部屋の前で足を止めた。


「どうぞ、入って」


「お、お邪魔します……」


 ナンパされているところを助けただけなのになぜこんな展開になっているのだろうかと思いつつ案内された部屋の中に入った。


 部屋の中に入ると部屋全体がほとんどピンクなのに驚いた。


「ピンク色が好きなのはこの家の娘さん。気付いたらいつの間にか部屋がピンクに染められてた」


 彼女は少し嫌そうに言ってピンクである理由を教えてくれた。


「へぇ~」


「ここ、親戚の家がやってるバイト先で、2階は店長が住んでるところ。この部屋は、私が自由に使っていいって言われてるの」


「緋村さんは、ここに住んでるの?」


 自由に使っていい部屋と言っていたが、この部屋には机もベッドもあり、生活感があった。


「ううん、住んでないよ。まぁ、たまにここで泊まるけど」


 話しながら緋村さんは、部屋のドアを閉めて、ベッドに腰かける。


「ほれ、飲みなよ」


 自分が飲むかと思いきや俺に缶コーヒーを手渡した。なぜ渡されたかわからないが受けとる。


「あ、ありがと。何で、缶コーヒー?」


「ナンパから助けてくれたお礼。あっ、缶コーヒー無理ならチーズケーキ味のジュースあるよ。そっちがいい?」


「いや、これでいいよ」


 飲みたくないと思い、チーズケーキ味のジュースを取り出そうとする前に即答した。


「んっ、そっか。それより突っ立ってないでそこ座ったら?」


「いや……俺、買い物しに行かないといけないから」


「えっ、それなら早くそう言ってよ」


 そう言って彼女はチーズケーキ味のジュースを飲みきってベッドから立ち上がった。


「なら途中まで行こっ。私も家帰らないといけないし」


 フードを被って、部屋を出ていく緋村さんに着いていくと、さっき彼氏かと聞いてきていた女性にまた話しかけられた。


「もう帰るの?」


「うん、間宮くんがスーパー行くってさ。だから途中まで一緒に行くことにした」


「そっかそっか。また明日のバイトでね」


 緋村さんは手を振り、カフェを出ていくので、俺は店の店員さんにペコリとお辞儀してから出た。


 外を出るとカフェに入る前と違ってもう外は真っ暗だった。


「緋村さん」


「ん? どうしたの?」


 彼女は、前を向いたまま俺の言葉を聞いてくれる。


「今日、学校で怒ってたよね。俺も周り見ていなかったし、ごめん」


 今朝、理沙が通路にいて緋村さんが通れなくて困っていることに気付けなかったことを謝る。


 だが、彼女は、何に対して謝られているのかわからずぽかーんとしていた。


「そんなことあったっけ? 私、学校で誰にも怒ってないけど」


「えっ、今朝、邪魔って言って荷物ドサッて置いてたから怒らせたかと……」


「別に怒ってないよ。ちょっと違うことで機嫌悪かっただけだから」


「そ、そうなんだ……」


 怒っていなかったとわかり、ほっと胸を撫で下ろす。


 カフェから10分ほど歩くとスーパーが見えてきた。


「じゃあね、間宮くん」


 今日、出会ってなければ彼女と話すきっかけがなく話すことなんてなかっただろう。


 これをきっかけにして学校でも話したい。そう思った俺は、口を開いた。


「緋村さん、学校で話しかけてもいいかな」


 誰とも学校で話したくないのなら話しかけない。けど、いいと言ってくれるのなら俺は彼女と仲良くなってみたいと今日、話してみて思った。


 怖くて誰も声をかけない、少し不思議なところがある彼女と。


「たまにならいいよ。けど、群れるのは好きじゃないから2人だけの時にね」


 手をひらひらと振って彼女は家の方へと帰っていく。


 俺も手を小さく振り、スーパーに入らず彼女の背中が見えなくなるまでその場にいた。





***




 翌朝、学校へ行くと今日は先に緋村さんが登校してきていた。


 2人だけの時なら話しかけていいと言っていた。なら、今が話しかけるタイミングだ。


「緋村さん、おはよう」

 

「…………」


(あれ、もしかして声が小さくて聞こえてなかったのかな?)


 完全に無視されたのか、それとも俺の声が小さすぎて聞こえなかったのか。


 ここは、もう一度挨拶をしてみようと口を開くと緋村さんは、無言で俺の方をチラッと見てから椅子から立ち上がり、教室を出ていった。


(き、嫌われてた!?)


 追いかけて俺がなにか怒らせるようなことをしてしまったのかと聞こうとしたが、彼女には話しかけるオーラが漂っていた。





***





 放課後、今日はバイトがないため、夕食に必要なものを買うためスーパーへ寄って帰ろうとしていた。


「結局、話しかけられなかった……」


 緋村さんは、今日も午後から帰ってしまい、中々話しかけられるタイミングが掴めない。

 

 明日こそはと決意すると自販機のボタンを押そうと手を伸ばしている咲愛さんを見かけた。 


「ん〜とどか……ない」


 頑張って背伸びをし、ボタンを押そうとするが届きそうにないので助けに行くことにする。  


「どれが欲しいの?」


 声をかけると彼女は後ろを振り返り、そして俺の顔を見るなり、表情をパッと明るくした。


「あっ、間宮さん! また会えましたね!」







   

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