第2話 女子の変化に気付くのは意外と難しい

 翌日。結局、部活に入るかどうかは決まらなかったけれど、昨日会った子が言うように焦って決める必要はない。


(ゆっくり考えよ……)


 教室に着き、自分の席について一息つくと、先に登校してきていた教室でよくいる友人が話しかけてきた。


「おっはよー、隼人! 何だか眠そうだねぇ~」


「徹夜ゲームでもしてたか?」


 明るく挨拶してくれた茶色のセミロングの髪を持ち、いつも明るくてムードメーカー的存在な彼女は、白河穂香しらかわほのか


 そして彼女の隣にいるのは室伏拓海むろふしたくみ


 穂香と拓海は中学からの付き合いで高校に入ってからも仲良くしている2人だ。ちなみに2人は中学の時から付き合っている。


 仲のいいカップルなんだが、人前で堂々とイチャイチャするのはやめていただきたいと毎度思う。


「勉強してただけだよ」


「勉強!! やっぱ、優等生は違うね~。私なんか、昨日はテレビ見てて徹夜しちゃったんだよ」


 穂香は自慢するように言うので横から拓海に胸張って言うことじゃないよと突っ込まれていた。


「勉強もいいけどさ、隼人も恋愛とかさ青春っぽいことしたらどうだ?」


 余計なお世話だと言いたいところだが、付き合っている拓海と穂香を見ていると少し羨ましいと思うときがある。


 誰かを好きになったことがないため、恋愛がそもそもわからないが、興味がないわけではない。


「バイト、バスケ、家事、今はこれで精一杯だし、恋愛はまだいいかな」


「まだって……。モテモテだし好きな人すぐにできそうなのになぁ」


 穂香の呟きに俺は誰の話をしているのだろうかと考える。


「誰がモテモテ?」


「えっ、まさか無自覚!? 怖っ!」


 穂香はこいつマジかよみたいな表情をして拓海に助けを求めていた。


「まあまあ、隼人が超がつくほど鈍感なのは中学の時からじゃん。鈍感すぎて困ってる人が何人いたことか」


 中学から友達に言われてきたけど俺は鈍感らしい。周りのことは気にしていて気付ける方だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。


(もっと周りに興味を持てばいいのだろうか……)


 横を向いて外の景色を眺めていると教室に入るなり、カバンを持ったままやってきた少女に話しかけられる。


「おっはよ、はやっち。見てみて」


「おはよ、理沙。見てみてって何を見たらいいの?」


 高校から仲良くなった花園理沙はなぞのりさは、目の前でクルッと回転する。


(ほんとに何を見たらいいんだ……?)


「気付いてほしいんだよね、理沙は。ほらほら、隼人、よーく見てよ」


 肩に手を置いてきた穂香は、後ろからそう言ってやっと気付いた。


 気付いてほしいってことはこれは何か昨日と違うところが理沙にはあるということ。外したら理沙を悲しませてしまうかもしれないので何とかして当てなければ。


 じっーと、理沙を見つめ昨日と変わったところがないか見ていると彼女は髪をくるくると触りながら口を開いた。


「やらしいぞ、はやっち」

「いや、見てって言ったのそっちだよね!?」


「見てって言ったけどガン見してとは言ってない。で、何か気付いた?」


 手を後ろに回して、顔を覗き込んでくる理沙。なぜかわからないが、カッターシャツの上のボタンが外れていて何か見てはいけないものを見たような気がした。


「り、リボン……?」


「わっ、当たり! はやっちがこの前、この色が似合うって言って──────」

「邪魔なんだけど」


 自分の席へ行けなくて困っているクラスメイトの緋村結衣ひむらゆいさんは、理沙に言う。


「あっ、ごめん、緋村さん」


 すぐに理沙は緋村さんが通れるようにしたが、彼女は機嫌が悪いのかカバンをドサッと机の上に

置き教室を出ていってしまった。


「怖っ。確かに私、悪かったけど、そこまで怒ることある?」


 緋村さんがいなくなり、理沙はボソッと呟いた。


「ん~なんか他のことに怒ってたり? というか、緋村さんっていつもあんな感じだよ? ねっ、拓海」


「そうだな。何というか話しかけにくいオーラがある」


 隣の席の緋村さん。彼女は、1人でいること好んでいるようで誰とも関わりを持たない。


 理由はわからないが彼女はいつも午前中は普通に授業を受けているが、午後はいつも帰ってしまう。


 不思議な孤独のクール系美少女と同級生からはよく噂されている。


 皆、怖くて話しかけにくいというけれど、案外話してみたら普通に話せそうな気がするのは俺だけかな。






***





「卵買ってくる」


 明日のお弁当に卵焼きを入れようとしていたのに冷蔵庫にないことに気付き、夜7時を過ぎた頃、お婆ちゃんと妹に伝えて家を出て、スーパーに向かった。


 また昨日会った子がいたりしてと思い、公園を除いてみるがいるはずがなかった。


(会えるわけないよな……)


 公園の前を通り、スーパーへ向かおうとすると、フードを被った人が何人かの男子に絡まれているのを見かけた。


「ねぇねぇ、ちょっとぐらいいいじゃん」

 

「無理、離して」


「一緒に行ってくれるなら離すよ」


 顔は見えなくてわからないが、フードを被った人はおそらく女子だ。強気でいるが、怖いに決まってる。


 ぎゅっと拳を握りしめ、俺はフードを被ったその人の手を取った。


「こっち!」


「えっ?」


 何も考えず、とにかく俺は手を握ったままナンパしてきた奴らから離れるため走った。


 取った手は小さくて強く握ったら折れそうだ。

 

「ちょっと、痛いんだけど」


 後ろから声がして、俺はすぐに手をパッと離した。


「ご、ごめん!」


 足を止めて、後ろを振り返る。


 先程までフードを被って顔がはっきりと見えなかったが、被っていない今はよく見える。


「緋村……さん?」


「うん、緋村だよ。君は、クラスメイトの山田くんだっけ?」

「いや、間宮です」


 俺は間宮というよりも山田という名前の方が似合っているのだろうか。


 名前を間違えた緋村さんは、「違ったかぁ」と言って苦笑いする。


「あっー、そんな名前だったね。ごめん、関わることがないだろうって人は名前、覚えようとしたことないから」


(あっ、俺は関わることがないだろうって人なんだ)


「助けてくれてありがと、間宮くん。助けてくれたお礼がしたいからちょっと来てくれる?」


(ん? 一体どこに?)




─────数分後




「どうぞ、入って」


「お、お邪魔します……」


 案内された場所は、カフェの奥にあるピンクでいっぱいの部屋だった。







     

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