【完結】小さな天使様とクール系美少女が姉妹ということに俺は気付かない~気付いた日からは姉妹が俺との距離を詰めてきた~

柊なのは

1章 姉妹ということに気付かない

第1話 夜に出会った小さな天使

「大丈夫ですか?」


 ベンチに座っている俺は、顔を上げる。すると、目の前には中学生ぐらいの女の子がいた。


 茶色の髪で長さは肩にかかるぐらい。目はパッチリとしていてお人形さんのようだ。


 現時刻、夜の10時。中学生が1人でいるような時間じゃない。辺りを見回してみたが、彼女の親らしき人はいない。


「迷子?」


 大丈夫と聞かれていたが、それに答えるよりも先に彼女の心配を優先した。


「むふ~、迷子じゃないです。それより質問に答えていません」


 そう言って彼女は、頬を膨らます。怒らせてしまったし、迷子かという質問は良くなかったのかもしれない。


「俺は大丈夫……と言いたいところなんだけど、色々、どうしようか困ってるかな」


 子供に心配されているならここは嘘をついて大丈夫と笑って言うところだろう。


 けれど、彼女を前にすると迷わず本音を口にしてしまった。


「困ってるんですね」


 彼女は、ニコッと俺に笑いかけ、そして隣に座ってきた。


 もしかして相談に乗ってくれるのだろうか。だとしたら早くこの子を家に帰らせるためにもここはやっぱり大丈夫だと今からでも言った方がいい。


 けれど、俺は気付いたら彼女に話していた。自分が悩んでいることを。





***





 家族は父、母、妹の4人。けれど、仕事の都合で両親とは離れて暮らしている。


 本当なら俺と妹も両親と一緒に引っ越す予定だったが、頑張って受かった高校をやめたくないという理由で高校から近いお婆ちゃん家へ住むことになった。


 今は妹とお婆ちゃんの3人で住んでいて、基本、家事は俺と妹がやっている。


 家事をやりながらバイトをしているため、バスケ部から勧誘されているが、断ろうと考えている。


 断る理由は、他にもある。ここ最近、お婆ちゃんの調子が悪く、なるべく付き添ってあげないと心配だからだ。


「お婆ちゃん想いなんですね。お兄さんは、バスケ好きなんですか?」


「うん……中学の時からやってるからね」


 話を聞いてくれた彼女はベンチから立ち上がり、クルッと振り返り、俺の目の前に立った。


「何が最善な選択肢であるか私も探すの手伝います。ですから、決めるのはまだ早いですよ」


「……そうだね」


(最善な選択肢か……)


 好きなことを諦める選択肢しか考えてなかったけど、彼女の言葉を聞いてまだ他にも解決策はあると思えた。


「すぐには見つけられないかもしれませんが、焦って決めたら後悔しちゃいます。好きなことをやり続けることはいいことです」


 そう言った彼女に両手でぎゅっと優しく手を握られる。外は寒いのにその手は暖かった。


「ありがと、話を聞いてくれて」


「どういたしまして」


 ニコッと笑うその天使のような笑顔にドキッとしてしまう。


「そういえば、早く帰らないと親が心配するんじゃない?」


 そう聞くと彼女は、苦笑いし、口を開く。


「親とは離れて暮らしているので大丈夫です。お婆様は外に出掛けていることを知ってますが、一緒にスーパーに出掛けたお姉ちゃんには怒られちゃいますね」


 どうやらお姉さんと買い物をするため、外に出ていたらしく、買い物中、姉の目を盗んでこの近くの公園に来たらしい。


 俺が悩んでいるのをスーパーへ着く前に見かけたからという理由で。


 怒られちゃいますねと満面の笑みで言われましてもと心の中で呟き、彼女に優しく笑いかける。


「ありがと。けど、お姉さんに黙ってこんな夜に1人で行動するのはダメだと思う。お姉さん、心配してるよ」


「それはお兄さんも一緒です。例え、高校生でも親が心配するのはお兄さんの親も同じです」


「俺も親とは別に住んでるよ。お婆ちゃんと妹と一緒に住んでる」


 相手が子供だからだろうか。自分の家族のことを話してしまう。


「では、お婆ちゃんっ子仲間ですね!」


「そうだね」


 早く帰らせないと行けないはずなのに彼女と話すのが楽しいと思っている自分がいる。


「今日はもう遅いですし、帰りましょうか」


「スーパーまで一緒に行こうか?」


 こんな時間に中学生を1人にするわけにはいかないと思い、そう尋ねると彼女は、首をゆっくりと横に振った。


「大丈夫です。スーパー近いですしこう見えて私、中学生なんで」


 えっへんと彼女は胸に拳をトンっと当てる。強く当てすぎたのか咳き込んでいた。


(いや、中学生でも心配なんだけど……)


「早く帰ってあげてください。妹もお婆様も心配しています」


「うん、そうだね」


「では、またここでお会いしましょう。お兄さんとはまた会える気がします」


 彼女が言うように会う約束していないのになぜかまた彼女と会える気がした。


 ベンチから立ち上がり背を向け、スーパーへ戻る彼女の背中を見て、「待って」と声をかける。


 声に気付いた彼女は、クルッと振り返り、首をかしげた。


「名前、聞いてもいいかな?」


 初対面の相手だが、知りたいと思った。


緋村咲愛ひむらさらです。お兄さんの名前は?」


間宮隼人まみやはやと


「間宮さん。私のことは咲愛でいいですよ。では、また会いましょう、間宮さん」


 天使のようにニコッと笑いかけてくれた彼女は俺に向かって手を振り、スーパーへと戻っていく。


(緋村……どっかで聞いたことあるんだよなぁ)






***






「結衣お姉ちゃん」


 スーパーへ戻ると妹を探して回っていた姉が、振り返った。


「ちょっと、どこ行ってたのよ。心配したじゃない」


 怒るよりも心配していたことを伝え、お姉ちゃんは妹を抱きしめる。


「ごめんなさい。迷える子羊さんとお喋りしていました」


「子羊?」


「はい、子羊さんです。また会えたらお話ししたいです」


「そう……って、もう勝手にどこか行かないでよね」


 そう言って姉であるパーカーを着た少女は、妹の手を優しく握った。











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