第3話
音無の言葉を聞いた瞬間、僕の脳髄に電気のようなものが走るのを感じる。
天王寺さんが、襲われたーー。
その事実を受け止めた結果なのかどうか分からないが、僕は音無に静かに声をかける。
「天王寺さんは、今どこにいるの?」
そうすると僕の顔を見た音無は心なしか顔を青ざめて、
「保健室にーー」
と言いかけたので、僕は最後まで聞かずに屋上から階段まで走り、自分でも転ばないのが不思議なくらいに走り、走り、走りーー。
一階の保健室のドアを開けるころには、一周回って冷静な思考を取り戻していた。
こんな状況なのにわざわざノックをして扉を開けると、保険医に付き添われて左手に包帯を巻かれている天王寺さんが目に入ってきた。
「天王寺さん……」
僕はそう呟く。
彼女に近づいていくと保険医が声をかけてくる。
「あなたは…?」
「私の知り合いです」
遮るように言った天王寺さんの、どこか他人行儀な言い方に胸を押し潰されたような気分になる。
でも、今は僕のことなんてどうでもいい。
「だれに襲われたんですか?」
「それは…言えないわ」
「どうして?」
静かに、冷静にいようとするが、それでも言葉は熱を帯びてくる。
「私も、警察を呼ぼうとしたんだけれど…」
「その必要はありません」
保険医の言葉にも何処か拒絶したような態度を見せる天王寺さん。
普段は凛々しい彼女は、今はどこか弱々しい。
まるで他でもない、自分自身のせいで怪我を負ったかのようなーー。
そんな印象を抱かせられた。
怪我のあとを見る限り、自傷行為に及んだかのようなものではなさそうだが、もしかしたら彼女自身に起因する怪我かもしれない。
そんなことを思った。
「とにかく今日は、もう帰って」
彼女のその言葉に、僕は頷くしかできない。どんな状況で負った怪我なのかも分からず、ただ引き下がれと言われて、僕は頭が真っ白になる感覚がした。
「みーちゃん…」
気づけば僕はいつも昼休みに使っているベンチに、音無と一緒に座っていた。
屋上から走り出した僕を追いかけて、音無も息を切らせながら保健室の前まで走ってきていたのだ。
「音無、おまえなにか状況を知ってるのか?」
「……」
音無は僕の質問に答えなかった。
知らない、とも言わないその態度に苛立ちとともに、何かしらの情報は知っていると確信する。
「何か知ってるんだろ? 答えてくれ」
僕がそう急かすと、音無はゆっくりと話しはじめた。
「私も全部の状況を知ってるわけじゃないから、はっきりとは言えないんだけど、放課後みーちゃんが天王寺さんに声をかけて、そのすぐあとに
木下ーー。
僕の担任である、30代と思われる男教師の名前に、僕は素直に、一方的に、思考をひとつにまとめた。
「あいつが、天王寺さんをーー」
襲った。その事実さえ分かればいい。
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