鉱山に住む働き者③
ホップに連れられ四人は洞窟の奥に進んで行くと、食堂よりひと回り大きいフロアに辿り着く。
「え? これ皆トロッコランナー?」
「そう、ここにいる皆儂の家族じゃ」
数十匹はいるであろうトロッコランナー達がひとつのフロアに集約されていた。
ある一匹は鋭利な爪で壁を砕き、ある一匹は掘った鉱石を咥えてトロッコに入れる。まるでピッケルを持った炭鉱夫のように、手際よく迅速に働いているのだ。
周りに転がっているのは松明石や鉄鉱石。他に様々な色をした鉱石がゴロゴロと山積みになっている。
「凄いですね……。こんなに掘れるのに廃鉱にするなんて勿体ない」
「鉱石に関しては副産物なんじゃ。本当の狙いは新しい出口の開拓じゃけ」
魔物が住み着いているなら他の出口を作ってしまえばいいとは……、トロッコランナーを従えるホップならではの知恵だろう。
「ここじゃ」
ホップが案内したのはフロア内にある数本のレールが敷かれた場所で、その内の二本にはトロッコが設置されている。恐らくここで発掘した鉱石を外に運ぶためのものだろう。
「坊主、本当に行くのか? 今ならまだ引き返せるぞ?」
その場の感情で奥に潜む魔物を退治すると言ったのならやめておけ。と、ホップはそう伝えたいのだ。それだけ奥にいる魔物は強い、と無言の圧を掛けてくる。
それでもエルクの顔は鈍る事を知らない。不安や恐怖など一切感じていない、自信に満ちた表情をしている。
「心配すんなって、ホップ爺さん! 絶対道塞いでる魔物倒してくるからさ。のんびり待っててよ!」
「私は足手まといかもしれませんが……、邪魔にならないよう頑張ります!」
無駄な心配だったな、とホップは息を吐く。四人をトロッコに搭乗させ、ドアが開かない様にロックを掛けると、トロッコランナーにトロッコを引くための鎖を取り付けた。
「ここから先はすべてランナちゃんに任せておけば大丈夫じゃ。それとトロッコが走っている間は絶対に立ち上がるんじゃないぞ!」
ここから先は道が狭まっており、トロッコランナーが楽に通れる程度にしか掘っていないらしい。
「ルフラン……といったな。頭が切れそうなお前にはこれを渡しておこう」
ホップはルフランに古そうな紙を渡す。
「これは?」
「この先、ゲートを潜った先の地図じゃ。大丈夫だとは思うが、一応渡しておく」
北口の魔物が巣食って以降、ほとんど北口に行っていないと話すホップ。最悪道が崩壊している可能性があるため、何通りもあるルートの地図を渡したのだった。
「ランナちゃんはいつも通る道以外憶えていないだろう。迷ってしまったらお主が指示を出してくれ」
「わかりました」
「では頼んだぞ。お前たちに聖騎士様のご加護があらんことを」
ホップが十字に切って祈りを捧げると、それが合図になったのかトロッコランナーは四人を乗せて走り出した。
――――――――――
薄暗い最低限の明かりと敷かれたレールを頼りに、トロッコランナーは疾走と走り続ける。手慣れたように無数の穴の中から一本の道を選び、右へ左にと速度を落とさず快足を飛ばす。
「うっは! スッゲー!」
「速い、速い! ギアヘイヴン製の列車顔負けの速度ですよ!」
楽しそうなふたりを尻目にルフランは貰った地図を確認していると、ロジャーが横から話しかけてくる。
「なぁ、ひとつ聞いていいか?」
「ん?」
「アイツ……。前回エルクが戦闘中に纏ってた光って、ありゃーなんだ?」
見た事ない、魔法のようにも感じなかった。と、ロジャーは話す。
戦闘中とはいえ、周りを確認する余裕は流石元エルゴエハールの騎士様と言える。ルフランは光の内容を説明した。
「勇者の光……。かつて黒髪の勇者カインが使っていた希望の光ってヤツか?」
「詳しいな」
「おいおい、この職業やってて知らねー奴ヤブだろ。見るのは初めてだがな」
今では授業の教材にも取り上げられるほど歴史に名を刻んだ有名な話でありながらも、その実態は不明になっている。
黒髪の勇者カインもその力の正体をハッキリ伝えておらず、教材にも「魔法に似て非なるもの」と「魔を滅ぼすもの」しか書かれていないのだ。
「俺の読んだ本とは大分違うぞ。もっとこう……、他者を支配する力的な感じだったな」
「出版元によっては全然内容が違うからな。ロジャーの読んだ本は大分偏ってるけど……」
ただでさえ実態が不明なのに、その力を見た人も少ないのため、偽りの情報が蔓延している。
そのため、「勇者」や「黒髪のカイン」などの文言を入れた本を出版するだけで売れるため、勇者関連の本は世紀末状態と言ってもいい。
「それでも信じるのか?」
「俺も色々な奴を見てきたが、
ドルマとの戦闘で数秒ではあるが解放した力。一瞬ではあったが、ロジャーもエルクの異質な力を感じ取っていた。
「でも、何であの力が勇者のものだってわかる? ルフランも見るのは初めてだったんだろう?」
「……私は――」
ルフランは何かを言いかけるが、周りを確認すると持っていた地図をそっとローブの中に仕舞いこんだ。
「お喋りは終わりだ。舌噛むぞ」
「ん?」
すると、先程まで聞こえていたトロッコの車輪の音が消えてしまった。何が起きたのか、ロジャーはトロッコから身を出して外を確認する。
「うおおお――⁉」
そこで見たのは空を飛んでいるトロッコだった。
いや、正確にはレールとレールの間にある崖を飛び越えるトロッコの姿だった。この崖を飛び越えるためにトロッコランナーはずっと加速を続けていたのである。
「うがぁ!」
着地と同時にもの凄い振動が四人を襲う。喋っていたら間違いなく舌を噛んでいただろう。
「あの爺さん……。途中これがあるなら言ってくれよな……」
「フフッ、確かにな」
トロッコランナーは見事着地を成功させると、そのまま減速せずに奥へ向かって走って行く。
――――――――――
「ピエェ――!」
トロッコの車輪の音がゆっくり、ゆっくりと消えていく。トロッコランナーは何かを伝えるかのように咆哮を天井にあげると、乗っていた四人は立ち上がり、トロッコから降りると周りを見渡す。
そこにあるのは大きな入り口がひとつだけ。
周りにはボロボロになったタオルとピッケル、裏返しになったトロッコや通電していない信号機と、整備が行き届いていないことから人の出入りが全く無いと分かる。
「これは……砂?」
ルフランはピッケルに被さった粉状の何かを触って感触を確かめる。
「大方天井から降ってきた砂埃じゃねーか? オッサンも言ってたけど、最近ここは誰も立ち寄っていないんだろ」
「まぁ……そうだな」
少し引っ掛かりつつも、ルフラン達は入り口の奥に入っていく。
奥にあったのはドーム状の広いフロア。
室内は埃臭く、周りには入り口同様発掘道具がそこかしこに散乱している。
(やはり……。何かが変だな)
そう思ったルフランは再度地面を見ると、足元にあった砂の塊を拾い上げ、砕いて材質を確かめる。すると、キラキラと僅かに輝く、きめ細かい砂が姿を現した。
(これは海岸の砂だ)
隣が海とはいえ、風ひとつ入らないこのフロアで海岸の砂がある事自体おかしい。そう思った時、微かに魔力の動きのようなものを感じた。
「なんだよ、結局誰もいなかったじゃん」
「いや、来るぞ!」
「え?」
エルクの見解を裏切るように、周りに散らばっていた砂がフロアの中心に集まり巨大な砂山が形成されると、上部に眼と口のような穴の開いた大きな魔物が姿を現した。
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