ひとりぼっちの星

私はひとりぼっちの星に住んでいる。


この星はとても小さくて、一周するのに10分もかからない。この星には私と、私の友達のネコと、私のお父さんの形をした木しかいない。


私のお父さんはこの星を作った凄い人だ。私はお父さんが大好きだった。でも、お父さんはもういない。お父さんは私にこの星を残して、遠いところに行ってしまった。


私は毎日、この星の上を歩き回って、ネコと遊んだり、お父さんの木に話しかけたりしている。


ネコは私の唯一の友達だ。


ネコはとても賢くて、私の言うことをよくわかってくれる。ネコは私に「ニャー」と言って、足にすり寄ったりしてくれる。


私はネコに「ありがとう」と言って、ネコの背中を撫でたり、ネコの耳をかきくりしたりしてあげる。ネコはそれが好きなんだ。


お父さんの木は私の大切な思い出だ。


お父さんの木はお父さんに良く似た木だ。変な事を言っている自覚はあるが、そのまんまの意味である。


お父さんの木に、私は毎朝「おはよう」と言って挨拶をする。私はお父さんの木に「こんにちは」と言って、微笑みかける。それからお父さんの木に花を飾ったりしてあげる。


私はこの星が好きだ。  


この星は私の家だ。でも、私はこの星にずっといるわけにはいかない。お父さんは私にそう言った。


お父さんは私に「いつか、君はこの星を出て、他の星に行かなくてはならない。君は他の人と出会って、友達になって、幸せにならなくてはならない。君は私の大事な娘だから、君にはもっと広い世界を見てほしいんだ」と言った。   


私はお父さんに「でも、私はお父さんと一緒にいたい。私はお父さんとこの星とネコがいればいい。私は他の人には興味がない」と言った。

 

お父さんは私に「そう言わないでくれ。君はまだ若いんだ。君にはまだ知らないことがたくさんある。君はもっと自分を信じて、冒険してみるべきだよ。君はきっと素敵な人に出会える。私はいつも君のことを見守っているから、安心しなさい」と言った。


お父さんは昔、私に、この星を出る方法を教えてくれた。


この星の真ん中にある穴に入って、そこから飛び出すと、他の星に行けると言った。


この星を出るときには、お父さんの木に別れを告げて、ネコをぎゅっと抱きしめて、それからこの星にありがとうと言ってから、勇気を出して飛び出すように言った。


お父さんは私に、この星を出たら、二度と戻ってこられないと言った。


この星を出たら、お父さんの木もネコも消えてしまうのだそうだ。お父さんは私に、この星を出たら、私は新しい人生を始めなくてはならないと言った。


私はお父さんの言うその話を聞いて、この星を出ない決意を固めた。 


この星も、ネコも、お父さんの木も、私にとっては大事な大事な宝物だ。


それを捨ててまで得るべきものなんて、ある筈が無いと思った。私は強くそう思った。


それから暫くして、ネコは年老いて、寝たきりになった。私の唯一の友達はもうすぐ、お父さんと同じ、遠い遠い場所に行ってしまう様だ。


ネコは私の身体に頭を当てて、にゃーと鳴いた。自分の事より、私のこれからを心配してくれている様だった。


小さな小さなこの星で、お父さんの木だけが心の支えになる私の、これからを心配してくれている様だった。


寂しいよ。


ふと、心の声が漏れた。君がいなくなったら、私はどうすれば良い。一体、何をどうやって心を保てば良いと言うのだ。


お父さんはもう居ない。お父さんの木だって、本当はただの木だともう分かっている。


私はこの唯一の友に、随分と救われてきたのだ。


これからの悲しみと孤独に震えている私を、ネコは、にゃーと元気づけてくれる。


そして、そのまん丸の目で語りかけてきた。


"新しい友を探しに行け""新しい人たちに出逢いに行け""君はそうするべきだ"


私は、それに対して、「うん」と頷いた。


それが、ずっと同じ時間を共にした、愛するべき友との最後の会話だった。



私はお父さんの木に「さようなら」と言って、お父さんの木にキスをした。私は、もう動かなくなってしまった最愛の友に「ありがとう」と言って背中を撫で、ぎゅっと抱きしめた。私はこの星に「ありがとう」と言って、この星の上を一周して、この星の真ん中にある穴に向かった。私は穴に入って、深呼吸して、勇気を出して飛び出した。


私が飛び出した瞬間、この星が消えてしまったのを見た。私はこの星が消えてしまったのを見て、涙を流した。


私はこの星が消えてしまったのを見て、叫び、後悔し、酷く悲しくなった。


私はひとりぼっちの星に住んでいた。


本当はそんな事なくて、全然ひとりぼっちじゃなかった。その星には全部があった。私にとっての全部があった。


この星はとても小さくて、一周するのに10分もかからなかった。この星には私と、私の友達のネコと、私のお父さんの形をした木しかいなかった。私のお父さんはこの星を作った。私はお父さんが大好きだった。でも、お父さんはもういない。お父さんは私にこの星を残して、遠いところに行ってしまった。


そして唯一の友も遠いところに行ってしまった。


私はひとりぼっちの星に住んでいた。でも、もう住んでいない。私はひとりぼっちの星を出て、他の星に行った。


本当の、ひとりぼっちの星には耐えられなかったからだ。


私は他の人と新たに出会って、友達になって、幸せになった。お父さんは私の事が大事だから、きっと、もっと広い世界を見てほしかったんだと思う。


私はひとりぼっちの星に住んでいた。でも、もう住んでいない。私はひとりぼっちの星を出て、他の星に行った。私は新しい人生を始めた。私は自分を信じて、冒険した。私は素敵な人に出会った。


私はひとりぼっちの星に住んでいた。でも、もう住んでいない。私はひとりぼっちの星を出て、他の星に行った。私は幸せだ。私は笑っている。星は夜空に無数に輝く。


きっとその中には、私が住んでいた様な、ひとりぼっちの星もあるのかもしれない。


いつか出会う、その誰かと、運命的な出会いをするのかもしれない。それはとてもロマンチックで素敵な事だと私は思う。


今でも私は思う。いつでも、いつだって、お父さんと最愛の友は、遠くから私を見てくれていると。


この夜空に散らばる小さな星を、私がこうして眺める様に。

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