第9話 腹部MRI

 寒い日だった。

 少し仕事をして車で行って帰るつもりが、相方が車を使うというので、会社で注文関係とメールチェックして、電車を乗り継いで病院へ向かった。


 MRIは何度もやっているので不安はなく、むしろ「寝れるもの」ぐらいに思っていた。少なくとも過去に受けた足や脳のMRIは、ボケ〜っとしながらウトウトできるものだった。


 今回は初めての上腹部MRI。

 お腹の上になんか重いものを乗せられて、検査がスタートした。


 天井には鮮やかな青空と雲の絵が描かれていた。

 子供さんとかの緊張を解くためだろうか。


 この病院のMRIはイヤーマフをしていても、そんなにゴンゴンガンガン言わない、わりと静かな機械だった。

 ひょっとしたら、イヤーマフの性能がいいのかもしれない。


 ただ、ビービービーと3回鳴る音が何度も聞こえた時は、何かのアラームに聞こえて落ち着かない気分になった。


 この病院は久石譲の楽曲の管弦楽アレンジだった。なぜ病院は久石譲の楽曲……それもジブリが多いのだろう。

 ちなみにTクリニックはオルゴールアレンジの久石譲だ。


 音楽を聞きながらネタを考えようとしていたら、突然「大きく息を吸って〜吐いて〜止めてください」と現実に引き戻された。

 少々長い時間息を止め、「楽にしてください」と言われて息をする。


 それを4回繰り返して検査は終わり。

 ゆっくりできると思ったのにそうでもなかった。もちろん、なにも考えられなかった。それにお昼抜きだったので、お腹がすいている。


 食べると痛くなるから食べたくない気持ちが強いけど、食べないと動けなくなるのも辛い。集中力もなくなる。だから頑張って少しでも何かを食べるようにしている。毎日毎食がそんな感じ。


 会計を済ませ、院内のタリーズでサンドイッチでも食べて帰ろうかなどと考えていたら、JRの駅を経由するコミュニティ循環バスの発車時間が迫っていた。

 1時間に1本のバスだ。

 地下鉄の駅まで歩いてもいいけど寒いし、長い坂道を歩く気力がない。よし、このバスでJRの駅まで行こう! そして最寄り駅のマクドナルドでグラコロを食べよう! そうしよう!

 

 ところで、時計回りとか反時計回りとか書いてあるけど、どっちだっけ? どっちが近いっけ?? てか、このバスであってる???


 迷っているとバスのアナウンスがJRの駅名を言ったので、とりあえず乗った。




 それからバスに揺られること1時間20分。

 逆回りのバスなら15分ぐらいだったかもしれない距離だった。それぐらい遠回りだった。

 硬いシートと振動にやられて疲れ切った私は、信号を渡った先のマクドナルドに寄る気力もなくなり、結局会社近くのコンビニでおにぎりを1個買って帰社した。

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