第4話 ウンコスケール

「かくかくしかじか……食後や水を飲んだ時が痛くて、食事量も体重も減り……」

「うーん。緊急性は低いね。便秘かもね」


 実は便秘でお腹が張っているのかもしれないと、手元の市販薬の酸化マグネシウム錠を時々飲んでいるとつたえると、「それをしばらく続けてみて」と言われた。


「整腸剤はいる?」

「市販のビオフェルミンでいいなら常備してます」

「じゃあ、それ飲んでおいて」


 でも、便秘でこんなに痛みがつづくもの?? という疑問をぶつけてみた。


「横行結腸っていうのがあって、これが90度ぐらいこう曲がってる」


 手で示される角度をみて、瞬時にペースノートが浮かぶラリー脳の私。


 ――90度……ベント角3か……まぁきついな


 先生の手がぎゅんと下がる。


「で、これがこうギュンッって下がって……このカーブで詰まりやすい」


 ――90度じゃない。ヘアピンじゃん。ベント角2じゃん! きつぅ!


 頭の中でくねくね峠道を思い浮かべながら説明を聞く。


「念のため、嚢胞の状態も確認しておきましょう。今日はCTを撮ってから帰ってください。結果は後日」


 その場で再診予約を取り、CT室へ。


 撮り終わった後、すぐに開放されると思ったら、そのまましばらく台の上で待たされた。


 上手く撮れたか確認してるのかな?


 やがて「お疲れ様でした〜」と放射線技師さんがあらわれて、ベルトを外してくれた。


 靴を履いてファイルを渡される時に「痛いですか?」と聞かれた。

 痛いよ。痛いから来たんだけど……と思いながら「痛いですよ」と答えてファイルを受け取る。

 なんだか、気になるなぁ。骨折のときも同じような事言われたなぁ。




 11月。今年最後の模型イベントが終わったので、CTの結果を聞きに行った。

 先生のアドバイス通りに酸化マグネシウムは飲んでいたけど、状態は何もかわらないままだった。


「便秘ですねー」で笑って診察終了を期待していたのだけど……


 モニターに映る私のお腹のCT画像。マウスホイールの動きで断面がスルスル変わっていく。


「大きく変わってないけど、肝嚢胞がちょっと増えてるかも」


 そういって「コレとか……このあたりとか……」とマウスポインターで示されるが、前回の比較がないとわからない。無難に「はぁ……」としか言えない。


「お腹の張りとか痛みとか、食欲不振とかは……」

「嚢胞で胃が押されてるかもしれない。うーん、これ……胃かな? わかんないな」


 ポインターがぼんやりした場所を示すが、こちらは知識がないので見てもよくわからない。


「あと、便はまぁまぁあるね。この辺は便だね」


 黒く抜けたボコボコしたところをポインターがぐるりと示す。

 どれがどれだか……


「僕の専門は消化器なんだけど、便に指標があってね『ブリストルスケール』っていうんだけど」


 そう言って先生が1から7の数字を紙に書いた。


「1が一番硬くて、7が水。4がいわゆる普通便」


 普通便――いわゆる「バナナ」なウンコだ。


「理想の便といわれると、みんなこの4の普通便を目指そうとするんだけど……これはあくまでも僕の持論なんだけど、これよりもやわらかい5と6を目標にするのが、お尻に負担がかからない」


自身の専門分野の事のせいか、目をキラキラさせて話す先生。


「便意が来たら、いきまずに自然とツルンっと出るのが理想! これを目指して酸化マグネシウムを調節してほしい」


 痔にならない、お尻に優しいウンコー!

 思わぬところでウンコネタGETだぜ。


「嚢胞は専門の先生に診てもらったほうがいいと思うから、かかりつけの先生に相談してみて。必要ならCTのデータはすぐコピーするから」


 ここですんなり「紹介状書くね」とならないのは、継続的に診ているか否かなのかもしれない。

 医者の間でもいろんな関係や気遣いみたいなのがあるんだろうなぁ……どこの業界も難しいねぇ。


 それより、領域外の脳外の先生になんて説明すればいいんだ……と思いながら、その日の診察を終えて会社に向かった。

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