第25話 三豪傑
第二師団を率いて、第一師団の殿大将のドラゴーネさんが一番槍で先鋒を務める。それを補佐するのが第二師団を指揮するスザクさんとデモンさん、そのほかの精鋭たち。
フェヒターさんは後方の第三師団の指揮を執り、俺はそれに追随する形で馬を走らせる。
鋒矢の陣を展開した理由は、数で劣るこちら側の軍では不利の為、早急に城門を破壊する目的が一つ。
長期戦になれば、数で押されるのが目に見えるこの状況では選択肢は限られるのが二つ。
デューネ帝国までの道程も遠い為、早くここで決着をつける必要がある。
そして、俺達は敵のど真ん中を突っ切り、戦いが始まる。
『ウラウラァァ! どけぇぇ!!』
接敵したと同時に、ドラゴーネさんの咆哮が聞こえる。
その声も掻き消える程、敵側の怒号も大きくなる。徐々に戦場は変化し、俺達の部隊も、敵の中央に到達する。
狂乱するオークとゴブリンが、絶叫しながら襲い掛かる。
俺はそれを、馬を上手く使いながら躱して前進していく。横に居るツバキとメニカに援護してもらいながら、デファンスの長城に近づく。
いよいよ城門に到達し、俺は馬を下りて敵を迎え撃つ。
オークが下馬する俺を狙って、斧を振りかざしてくる。俺はそれを躱し、火背拳を抑えて放つ。
「はあっ!」
『ウゥガァァッ!?』
なるべく体力を温存させる為に、火背拳は火柱を立てずに放った 。それでも効果絶大で、オークはお腹に受けた一撃で倒れる。
次はゴブリンが雪崩のように群がり、俺は水流双で流れるように受け流す。カウンターを食らわせながら、ゴブリンを積み上げていく。
同じように、横に居るツバキとメニカも難なく敵を伸していく。
『やるね、ケイア』
『流石デス、マスター』
「ツバキとメニカもねっ」
お互い褒め合いながら前へ進み、次々とモンスターを倒していく。
城門に近付くにつれ、敵の数が増え始めて相手が生み出したモンスターが門の周りを固めている。
門を見ながら顰めていると、前にホムラさんが戦った金属で出来たモンスターがこちらに走ってくる。
明確な意思があるように、そのまま直進してきた。それを阻止しようとした兵士たちが前に立ち塞がるが、腕を振りかざしながら吹き飛ばしていく。
相手はスピードもガードも硬い為、普通の攻撃はあまり効果は無い。あの時のホムラさんの戦術を参考にしようとしたが、あの人のはあまり当てにならない。
兎に角、何が効くかは自分で調べるしかない。
俺は二人に指示をし、砂を使って目くらましをする為にメニカはパイルバンカーを地面に叩き付ける。
『バンカー……アクセルッ!』
たちまち周辺に砂埃が舞い、視界を奪われたモンスターはこちらの動きに気付いていない。
そして、横からツバキが一発お見舞いする。ゆっくり右腕を上下に揺らしながら、一定の場所で止めて手を開いて静止する。
ツバキは目を見開き、力を込めたと同時に拳に切り替える。
『
蒼白い炎を纏った一撃を受けて、モンスターは火だるまになりながら砂埃を立てて吹き飛ばされる。
ツバキも何処で技を覚えたのかと気になったが、本人曰く、ハルスさんの訓練中に考えて創ったらしい。
より一層ツバキが頼もしく見え、俺は嬉しくなった。
そんな気持ちを反芻させていたが、メニカが叫ぶ。
『マスターッ! マダ終ワッテマセン!!』
モンスターが吹き飛ばされた方向を見ると、ツバキが当てた部分が凹んで少し溶けているだけで止まっている。
そいつは起き上がり、今度は標的を変えてメニカに飛びついてくる。
動きが速い為、メニカは直ぐに対応しきれず体を掴んでくる。それをどうにかして引き剥がそうと、メニカがもがく。
『ハ、離レナイ……!?』
俺とツバキは、それを引き剥がそうと技を掛けようと駆け寄る。
同時にモンスターも、奇妙な動きを見せる。頭の大部分を占めている口を、カチカチと鳴らしながらメニカの頭部に噛みつこうとしている。
ツバキが飛び蹴りで放そうとすると、その怪物は後ろへと避ける。
また、さっきのように歯をカチカチと鳴らしながら自分達を見据えている。戦いながらだが、コイツの動きが分かってきたような気がする。
この化け物は、相手の急所を狙う癖がある。
その為、メニカに対して拘束した時、頭を狙っていた。
俺はそれを分かった上で動きを止め、相手の動きを誘った。息を大きく吸い、ゆっくり呼吸を整える。
「すぅ……はぁ……」
金属のモンスターは俺の動きを察知し、真っ直ぐ向かってくる。
『ケイアッ?! 何してる、避けろ!!』
『マスター、逃げて下さい!!』
二人は叫びながら懇願するが、俺はそのまま静止する。
そして俺は、ホムラさんとの修行を思い出していた。
滝行をしている最中、隣でホムラさんに問いかけられる。
「ケイア、火背拳を打ち出すコツは以前踏み込みが大事だと教えたな?」
「脚は強く、手は柔らかく。そう、ホムラさんから教わりました」
「もう一つは、技は強く叫べ。解き放て、我が内にある叫びが天に届かんまで」
俺は隣のホムラさんの横顔を見て、俺は「はい」と答えた。
それを思い起こしながら、俺は瞳を閉じながら敵の足音が近づいてくるのを感じていた。
モンスターの威嚇する歯音が徐々に大きくなり、強い風が俺の顔をすり抜けていくのを感じ、瞼を上げる。
俺は上体を下げ、足払いをして相手の体勢を崩す。
化け物は少し宙に浮き、俺はそれを利用してモンスターの腹に火背拳を叩き込む。
「火背拳ッ!!」
俺は全身全霊で叩き込み、砂上に炎の流水が注がれる。周りにいるゴブリンやオークを巻き込む程、炎は全体に流れ込んで行く。
そして、その化け物は黒い消し炭になって消えていく。
消えた事を確認し、化け物が居た場所に砂が高熱に熱せられた事でガラスの結晶が出来上がっていた。
俺が一息ついていると、周りに居た兵士たちが称賛の声を叫ぶ。
「おぉぉっ!! ケイアが倒したぞっ!!」
「このままの勢いで門を突き破れぇぇぇ!!」
兵士に士気が高まり、勢いづいて門を打ち破ろうとする。
だが、それを阻止しようと城門に居る複数のオークやゴブリンが応戦する。オークは上から岩を投げ入れ、ゴブリンは魔法が得意なゴブリンメイジが詠唱をしている。
仕留め損ねた敵も後ろから追ってくる為、門の板挟みに遭い、挟撃される形になっている。
こちらの兵士も魔法や弓などで応戦するが、門に近付くのが困難となっている。
そこに、割って入るようにしてドラゴーネさんが槍を構えて門に向かって疾走する。
『どいたどいたっ! 近付いたら凍っちまうよ!!』
門まで辿り着くと、急停止をしながら槍を突く構えに変える。刀身が蒼い長槍が、みるみる氷に覆われていく。
そして周辺には、冷たい冷気が漂い始めて門を突き刺す。
『氷槍撃ッ!!』
槍がぶつかると同時に、魔法陣が展開されて門に掛けられていた防御魔法が発動する。
槍と防御魔法は拮抗し、どんどんドラゴーネさんが押し戻されていく。
『ぐっ……ダメかい……っ』
今しがた、デファンスの長城でオリバー皇国との戦が始まった報告を受けた。私はデューネ帝国の城門で腕を組みながら開戦した場所を見据える。
すると、後ろから双子のカストが私の下にやってくる。
『ねぇねぇ、アルゲ。まだ敵は来ないの?』
『早くカストも遊びたーい♪』
『先程、斥候から連絡がありました。今始まったみたいですよ』
二人にそう説明し、まるで遊び相手を探しているようにつまらないと言った表情で問いかけてくる。
『えー……早くボクの武器で原形が無くなるくらい殴り殺したいのにー……』
『カストもー……早く赤い液体、いっぱい浴びたーい……』
『もう少しの辛抱です。どのくらい時間が掛かるか分かりませんが、必ず来ますので。それと、我慢できないからと言って、人質をあまり殺さないで下さいね』
そう私が言うと、二人の後ろには先程殺した人間を引き摺りながらここまで来たらしい。
通路には赤い血がべっとりへばり付き、頭と足が完全に潰れている者。もう一人は、内臓を全部剥ぎ取られて肋骨だけが残っている状態。
『殺すなら、あと五人くらいに留めて置いて下さいね?』
『はーい』
『はーい』
二人を宥め、また引き摺りながら城門から去って行く。
私はもう少し、ここから眺めてオリバー皇国を待つ事にした。
『デファンスの長城を越えられなければ、死があなた方を待つだけ。越えられたとしても、もっと高い壁が待っていますよ……ケイアさん♪』
ドラゴーネさんの氷槍が防御魔法に突き返され、師団内に焦りの色が見え始めていた。
『これでダメなのかい……あんまり体力なんて削りたくないってのにね……』
彼女が焦燥を吐露している内に、仲間の命がガリガリと削られていく。それに追い打ちをかけるように、ゴブリンメイジが魔法陣を地面に描き、伏魔十二妖星の召喚獣を生み出し始める。
唯一の手段を断たれた上、異形のモンスターが召喚された事により、オリバー皇国を襲った記憶を思い出す兵士もいる。
それを認識した兵士たちは一気に気力を失い、足が竦んで動けない状況に立たされていた。
そこで俺は、戦闘経験がある自身が前に出て先陣を切った。
「ツバキ! 優先して召喚獣を攻撃。メニカ! 遠距離から無防備な兵士の援護を頼む」
『よっしゃ! いくぞオラァ!!』
『了解。ミッションヲ遂行シマス』
俺とツバキは、今までの訓練と経験を活かして召喚獣の討伐。メニカは自身の防御力を活かして、兵士を援護しながら護衛。
次々と出てくる召喚獣の攻撃を躱しながら、確実に倒していく。
『やるね……アタイも負けてられないね。お前達ッ、ちゃんとアタイの後ろに付いて来な。遅れたら海に沈めてやるからね!』
「押忍ッ! 姐御!」
『押忍ッ! 姐御!』
ドラゴーネさんに感心されながら、横で一緒に戦う。取り巻きの人達も、狂ったような笑みを浮かべながら槍や剣を振りかざす。
そして、後方から雷の音が聞こえてくる。
『霹靂神流……迅雷ッ!!』
居合の構えから放たれた一撃は、多くのモンスターを雷撃の爆風で吹き飛ばされる。
デモンさんは俺の方に向き、歯を大きく見せて笑う。
『ウチが居る事、忘れとるんちゃう? 坊主』
「デモンさん!」
彼女は俺の頭に手を置き、わしゃわしゃと髪を撫でる。そしてデモンさんは、後方に指を指して何かを見せるように促す。
「秘剣……
それは、疾走しながら刀を切り上げるスザクさんの姿だった。
凄まじい気迫と、あまりの速さに敵も何をされたか分かっていない。こちらに近付いてくるスザクさんをデモンさんは指を指しながら笑う。
『副隊長、坊主にカッコつけたくて普段使わん秘剣とか言いながら斬り込んでて……あかん、笑うわ……』
「は、はぁ!? 違います! 拙者はただ、ケイア殿の窮地を救おうとしただけで……」
『お二人さん。どうやら敵さんは、アタイたちの事は待ってもくれないようだよ』
ドラゴーネさんが言うと、召喚獣は壁になるように門の前に固まり始める。
俺達は四人並んで、モンスターの迎撃に備える。
「拙者たちに刃を向けた事、黄泉の世界で悔いなさい。行きますよ、みんな!」
「はい!」
『よっしゃ!』
『押しまくれぇぇ!』
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