第21話 転生神降



「異変というのは……?」


転生神降てんしょうかみおろしが……起きたようです……」


「そ、それは……本当か?」


「はい……。召喚した際、自分で名を口にしていました。余は、神に成り代わる者。こう口にしていました……」




 転生神降とは、何の事かさっぱり分からない。


 ただ、斥候の人が言っていたのはデューネ帝国が伏魔十二妖星によって陥落したのは分かる。


 神という単語も聞こえたが、詳しく聞く為に俺はスザクさんにどうなっているか状況を聞き出す。




「スザクさん、転生神降って何ですか……?」


「神を降ろす事を、そう呼ぶのです。普通の召喚は、魔法陣を描いて儀式に従い、聖職者は魔力を注ぎ込む。そして過去や未来、はたまた違う次元から呼び起こす事で可能になる。だが、今回行われた転生神降には複数の聖職者の命に係わります」


「何故ですか?」


「最初の手順としては、普通の召喚と変わりありません。ですが、その後に魔法陣へ四六時中、魔力を注ぎ込まなければ……この儀式は完成しません」




 その儀式が、一日で完成する訳では無い。聖職者は、見えない暗闇にひたすら心血を注ぎ入れ、それが成功するまで魔力を送り続けるようなもの。


 こんな無謀な儀式、普通の人間であれば逃亡するのは目に見えている。


 これを敢行し続けた理由は、恐らく伏魔十二妖星が強行したに違いない。陥落させた上で召喚の儀を逆手に取り、自分達に有利なように働きかけたのだろう。


 推測でしかないが、奴らであればやりかねない。


 そして俺は、その行為自体に何を危惧されているのかスザクさんに聞いた。




「その転生神降で、何が起こるんですか……?」


「世界の……均衡が崩れます。まず、この世界を創り出した神の理が絶対的な均衡を生み出します。これに矛盾が生じるとすれば、新たな神のが起因します。こちらの常識は、別世界から来た人間であれ、神であれ……非常識に変わる。あらゆるものが破壊され、違う物が出来上がる。それでは、拙者たちが住んでいた場所ではなくなる。この儀式は……なのです」




 スザクさんのいつもの凛々しい表情が一気に曇り、事の重大さが伝わってくる。


 過ぎてしまった時間は戻す事は出来ない為、悔やんでも仕方ない。その神を止める手段を見つけなければならないが、今は暴挙に走る伏魔十二妖星をどうにかするしかない。



 今やれる事と言えば、情報を取得する。俺達が出来る事は、足りない物を補うことしか出来ない。


 そう自分がスザクさんに告げると、彼女は精一杯の笑顔で応える。




「そうですね……悲観しても仕方ないです。今は城に戻り、状況を共有しましょう」




 言われた通り、俺は城に向かう事にした。宿で待機しているメニカを呼び出し、城で訓練していたツバキとも合流する。


 ツバキと話しながら向かっていると、拙いがを話せるようになっている。訓練の他に、言語学んだ方が兵士と連携する際に円滑に進むと言われた為。


 俺は感動を覚えながら、みんなが待つ謁見の間へと再び歩き出す。


 リアム王が控える謁見の間には、各師団長に加えて華の鉄格子のメンバーとヴィリーさんと使い魔であるリスさん達が先に話をしている。


 その中で新しい情報が入ったらしく、リアム王がまとめて話している。




「斥候による情報によれば、転生神降に召喚されていたと報告が上がった」




 その人物とは、重厚で銀色の鎧兜とマントを纏い紅いマントが特徴の喋り方に特徴のある男。


 その特徴を聞いた時、俺はあるの事を思い出す。特徴としては夢の中で当てはまった見た目。


 まだ実物を目にした訳では無い為、確証は得られないが、その人物が召喚された事が何を意味しているのか俺には分からない。


 続けてリアム王は、陥落したデューネ帝国には近付くのは困難と発言する。


 伏魔十二妖星が召喚している、見た事のないモンスターが跋扈しているらしい。その国の中には、罪のない住民がまだ捕らえられている。


 リアム王はこれに対し、何らかの手立てを考慮しなければならないと危惧している。


 何も知らない一般市民が、無残に殺されるのを見届けるのは心苦しいと考えていた。だが、敵の牙城に攻め入るのはリスクが大きすぎる。


 兵を動かし、本格的な戦争に発展しかねないからだ。


 それこそ国が疲弊し、主要な軍隊まで動かせなくなれば本末転倒。ギルドメンバーである華の鉄格子に頼んでも、敵戦力が明確に分からない場所に飛び込むのは自殺行為だと拒絶される。



 そんな押し問答が続き、議論は泥沼になりつつあった。


 そして俺は、ある決意をする。ここで俺が行くと宣言すれば、事は丸く収まる。俺は、アネクメでの失態を払拭させたい。デューネ帝国に囚われている住民を救いたい。



 そう心に叫び続け、俺は迷わず進言する。




「俺に……もう一度行かせてください」



























 我々は転生神降を成功させ、このアルゲを含め伏魔十二妖星はダーク・プリーステスに跪いている。


 彼女の姿はまさに神々しく、銀髪に黒い修道服を羽織、十字架が描かれたフードで顔は隠れ、肌の露出が一切見えない。


 そして彼女の後ろには、金の輪っかのようなものが浮いている。その佇まいに、異様な空気を感じる。


 そしてこのデューネ帝国を陥落に成功し、王宮でダーク・プリーステスに忠誠を誓う為に順番に真名を述べる。嘗てデューネ帝国が使用していた玉座に座り、ダーク・プリーステスに名乗る。




『牡羊の加護を受けし者、ハマル』




 彼女はハマル。特徴的な大きなな蜷局を巻いた角と、白い短髪の髪。瞳の黒目は、私と同じ横長で楕円形。


 少し変わった短い白いコートを身に纏い、褐色な肌が良く似合う。


 クールな見た目の為、少し近寄りがたい印象を抱く。顔は普通の人間の見た目で下半身はほぼ羊の姿、足下は蹄である。


 因みに言っておくが、私達には生殖器が無い為、男性や女性といった区別はない。


 あくまで御主の趣味である。




『牡牛の加護を受けし者、アルデ』




 彼はアルデ。あの時、ホテプさんに強襲を掛けた一人。鋭く尖った大きな角と、巨漢に恵まれた体形。


 瞳は黄色く、体は全身黒く覆われた毛色で裸の姿。斧を両手に持ち、そこから繰り出される攻撃は斬れずとも力で捻じ伏せる。


 いつも無口で無表情の為、何を考えているか分からない。




『双子の加護を受けし者、カスト』




 彼と彼女はカスト。この子らは文字通り双子で、男の子と女の子の見た目をしている。服は赤いワンピースを着用している。


 外見は二人とも一緒で、見分けるのは髪色のみ。二人は肩までの髪の長さにぱっつんヘアで男の子の方は黄色、女の子の方は緑色をしている為、簡単に見分けることが出来る。



 この双子はお互い美男美女で、長時間忘れる程に愛でることが出来る。だが、中身は化物そのもので自身の持つ武器でどのように殺すか、頭の中で常に考えている。


 男の子の持つ武器は、。腕に嵌め込む、武器と盾が一体となった武具。肘の部分に突出するギザギザの剣が隠し武器として備わっている為、非常に凶悪。


 彼はその隠し武器で、驚愕した様を見て殴り殺すのが好きらしい。



 女の子の持つ武器は、。独特なカーブを描いたナイフで、動物の爪のような形をしている。


 持ち手の部分には指を引っかける穴が作られており、その鎌状の刃は突き刺してから引き裂く為、傷口が大きくなる利点がある。


 彼女が一番喜ぶ殺し方は、引き裂く際にどれだけ傷口が広がるかを楽しんでいる。


 この二人とはよく趣味が合う為、会話に花が咲く。




『蟹の加護を受けし者、アクベ』




 彼女はアクベ。外見は髪の色が水色で、華奢な体形の女性。瞳は黒く大きな目元をしている。


 そんな人間的な体をしているにも拘らず、下半身には八本脚が生えて左右非対称な大小の鋏が備わっている。その鋏に捕まれた者は、どれだけ力に自信があろうと無傷では済まない。



 彼女は水の魔法が得意で、鋏の物理的な攻撃と連携させて戦うことが出来る。それ故に、近距離でも遠距離からでも攻撃範囲が広い為、倒すのは困難。


 それに加え、甲羅も堅い為に致命傷を負わせるのはかなり厳しい。


 だが、彼女は少しこの組織にそぐわない言動を見せる事がある。非協力的で、あまり人を傷付けるのを嫌う。




『獅子の加護を受けし者、レグル』




 彼はレグル。全身オレンジ色の毛で覆われた、裸のライオンでアルデと同じ。毛に覆われても、強靭な肉体は隠す事は出来ない。


 どこにも魔人的要素が無く、劣るように見えるが彼の牙と爪に敵う者はいない。獰猛であるが故に好戦的な面が強く、敵味方関係なく攻撃する事が偶にある。


 正直、躾けるのが面倒。




『乙女の加護を受けし者、スピカ』




 彼女はスピカ。彼女もまた、アルデと同じく強襲を掛けた一人。妖艶という言葉が似合う、ブロンドの髪色がとても魅力的に映る。


 背中には四枚の羽が生えており、天使といった見た目。白い羽衣を纏い、瞳は綺麗いな緑色、創られたような左右対称的な顔立ち。


 彼女が戦術で使用するのは、自身が所有するハープ。それを使い、音色や言葉によってあらゆる種族を惑わし、身動きを封じるのが得意。


 そして彼女は、怪物を生み出すのにも長けており、キュクロープやシェーデル、ゲマインデにパラディ―スを生み出すことが出来る。生み出された数も多く、個体の強さもある為、組織化された兵士であっても倒すのは時間を要す。



 その怪物は、スピカから不要となった体の一部から生まれる。彼女が生きてさえいれば、半永久的にモンスターを生み出すことが出来る。


 そして彼女にも、変わった特殊性癖がある。それは、異形性愛ディスモーフォフィリア。自分が生み出す怪物に、性的に興奮を覚える。それを生み出すたびに、彼女は快楽の絶頂に達する為、予めモンスターを魔法陣に収めるのが大変。




『天秤の加護を受けし者、ズベン』




 この人物はズベン。ズベンは黒い鎧に身を纏い、所々に金の装飾が施された甲冑を着ている。地面に着く程の長い袴を着用し、頭には骸骨の面とフードを被っている為、顔が認識できない。その為、男か女か判別が出来ない。



 そして背中には、スピカと同じような羽が二羽付いているが、白と黒で構成されている。


 次に手に持っているのが、エグゼキューショナーズソード。死刑執行人が斬首刑の為に使用した剣で、刀身の先端は角ばっている為、刺突には向いていない。だが、通常の剣より重心が先端寄りの為、斬撃の威力が大幅に増加する。



 ズベンの持っている刀身は鼠色をして見た目は不格好な石の刃を持っているように錯覚する。装飾もされていない為、質の悪いソードに見えるが切れ味は申し分ない。


 ズベンもアルデと同じように喋る事は無い為、基本的に無口。




『蠍の加護を受けし者、アンタ』




 彼女はアンタ。髪は長く紫色で、自分の脹脛の部分まで伸びている。その髪は意識を持つように動いており、一つに纏めて刺突することが出来る。その髪から毒液を注入し、痺れさせた後に命を奪う。



 見た目はほぼ人間の女性に近いが、腕と足が甲皮で覆われている。その為、普通の斬撃や打撃は効かず、油断した所で毒針で致命傷を負う。それから彼女には腕が四本あり、手数がある為に有利に戦いを進めることが出来る。



 容姿は切れ目で紫色、体つきは豊満で女性らしい。


 そんな彼女もアクベと同じように、我が御主の思想に反する働きをする事が多々ある。噂で聞いたが、が居るとか言っていた。




『射手の加護を受けし者、ルクバ』




 彼はルクバ。見た目は半人半馬のケンタウロスで、茶髪で長髪を結った重騎兵のような恰好をしている。関節部分以外は、くすんだ金色の鎧に身を包んでいる。


 端整な顔立ちに、目元は切れ長。いつもにこやかな笑顔を浮かべ、腹の読めない奴。


 ルクバが扱う武器は、ランスと弓矢を活用して戦う。右手のランスは銀を基調に、至ってシンプル。左手に持つ大盾は、如何にも重そうな見た目をしている。縦長のその盾は、表面がゴツゴツした作りになっており、衝撃を分散する役割を担っている。



 弓矢はどこにでもあるような作り。唯一変わっているのは、弓の先端部分が蒼い布が括り付けてある。あれが何を意味しているのか、私にも分からない。


 これと言って特質が見られる人物ではないが、本心が読めない為、扱い辛い。




『山羊の加護を受けし者、アルゲ』




 私は跪きながら胸に手を当て、頭を垂れる。なるべく、ダーク・プリーステスの機嫌を損なわないよう努める。


 すると、ダーク・プリーステスが突然口を開く。




『アルゲよ。余は何故、この世に召喚された?』


『はっ。このアルゲ、情勢を鑑みてアナタ様に是非とも御力添えを頂きたく。今の世は乱れ、人間の私利私欲による血で血を洗う戦場と化しています』


『それで、今は何年だ?』


『アナタ様がから、は時を刻んでいます』


『そうか……。それで、余はこの星を正せばいいのか?』




 私はあの時、仕留め損なった彼の名前をゆっくりと口にする。




『それもありますが、重要すべきは……という少年を消すことです』


『誰だ、それは?』


『我らに仇なす不届き者、この世を破滅に追い込む者。神の通りに反する反逆者です』


『其奴の居所は?』


『オリバー皇国。ここから南下した、壁の築かれた都市です』


『ならば、余が出向こう。其奴がどれ程の脅威かは分からんが、余であれば造作もないだろう』




 ダーク・プリーステスが立ち上がり、今にも動き出す素振りを見せた為、私は透かさず制止する。




『それは心配ありません。この国には、多くの捕虜が捕らえられています。これに看過できぬ者は、この国を訪れる事でしょう。あの少年も……然り』




 それを聞いたダーク・プリーステスは服を正し、無言で再び玉座に腰を掛ける。真名を名乗り終えた私は、次の者が話し始める。




『水瓶の加護を受けし者、サダル』




 彼はサダル。人間の見た目の糸目で坊主頭、ローブを羽織り片手には水の入った少し大きめの瓶を抱えている。まさに僧侶のような恰好。


 サダルは体術と風の魔法が得意。また風向きを読み、敵がどこにいるかどうかを察知し、索敵能力に長けている。


 前線に出て戦う事はあまり好まず、後方で支援する事が多い。その際に、自身の呪文を唱えて回復や括り罠を設置して妨害も行う。


 メンバーの中では有難い存在ではあるが、修行と表して呪文を常に唱えるのはやめて欲しい。




『魚の加護を受けし者、アルレ』




 彼女はアルレ。上半身は人間で、下半身は水棲生物のようなヒレが存在する。今は地上に居る為、人間の脚のように二本足で立っている。


 髪色は深海のような青色で髪は短く、瞳の色は黄色。


 腕には大きなヒレが付いており、それで攻撃する。顎は強靭で、何でも嚙み砕く。後はその見た目から、水中での戦闘では無類の強さを誇る。水魔法にも長け、水中での戦闘時は目で捉えることが出来ない為、知らぬ間に命を落とす。



 だが、このアルレもアンタとアクベ同様に忠誠を示さない。この三人に関して、少し注意する必要がある。






 各々の真名は終わり、忠誠の儀は終了した。これで全て揃った、転生神降も完了し、奴から奪った時計のペンダントも集まった。


 これで御主のが叶う。


 私が顔を隠しながら笑っていると、けたたましい声で名乗りを上げる。そいつは、何故かこの召喚に偶然混じった異物だ。




「我が名はムラクモ・シグレ! 訳あって、この世界に飛ばされた。君達は俺の味方か? 敵か?」




 顔が見えない重厚な銀色の鎧兜と紅いマント、両刃の剣を持つ謎の人物。自棄に声が大きく、暑苦しい男。適当にあしらいたいが、この転生神降に召喚された男だ。こちら側に付ければ、良い働きを示すに違いない。



 ここで私は、この男を騙してこちらの味方に付ける事に決めた。




『この世界は破滅の一途を辿っています。そこで、私達に協力してもらう事は可能でしょうか?』




 男は顎に手を当て、考える素振りを見せるが迷いなど無かったように返事を返す。




「それであれば、助太刀しよう!!」




 訳の分からない者を引き入れ、準備は万全整えた。後は、あのケイアさんを始末するだけ。あぁ、楽しみですね。



























 ここは何処だ、暗い。息苦しくて死にそうだ。


 砂に埋もれているのか、私は手を精一杯動かして助けを求める。だが、埋もれた手が動く事は無く虚しさが残る。


 それでも体全体を揺すって動かし、外の誰かに気付いてもらうように必死で藻掻いた。すると、外で誰かの声が聞こえる。




「パパッ! 何か動いてるよ」


「この近辺には、まだサンドワームが生息している。パパが掘り返してみよう」




 明らかに、私のすぐ側で会話をしている。そして、ザクザクと音立てながら徐々に体が軽くなるのを感じる。


 瞳を閉じていても、視界が明るくなっていくのを感じる。砂が顔から無くなり、灼熱の太陽が照らす。


 私は思わず顔を顰め、目をゆっくり開けていく。逆光で何も見えないが、髭の男と小柄な女の子。


 私は助かったことで安堵し、気が抜けて気絶してしまった。









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