第13話 伏魔十二妖星
次の朝を迎え、いつもの三姉妹の宿から光が差してくる。
仲間も増えた事で、ベッドの確保が難しくなった為、少し値段は上がるが大部屋を借りてツバキとホテプが一緒に寝ている。
筈なのだが、ベッドの中がモゾモゾと動く。
正体はホテプで、いつの間にか潜り込んで寝息を立てている。
「ホテプ……朝だぞ。何で人のベッドで寝てるんだ?」
『う~ん……主がいつ襲われてもいいように、監視する為に……』
前はこんな事は無かったが、メニカが仲間に入って警戒心が強くなったのか、分からない。そして当の本人のメニカは、当然宿に入る事は出来ない為、外で見張りを頼んでいる。
その為、宿に訪れるお客さんは見た事も無いオートマトンを目にする為か、興味本位で触る人もいる。
予め危害を加えるのは注意しているが、度が過ぎる相手には容赦しないよう伝えている。
そして最近、予知夢を見る事が減ってきているのは良い事で、悪夢で魘される事が無くなってきている。
ただ、引っ掛かるのは昨日の夢。
あれが誰と繋がっているのかはハッキリと分からない。声も聞いた事は無いし、最後の方に何か重要な事を言っていた気がする。
ふくま……伏魔……。
『ケイアさ~ん、お食事が出来たのでいつでも下に降りてきてくださいね~』
思い出そうとしていると、ワーさんが声を掛けに来てくれた。少し起きるには早いが、今日やりたい事も考えなければいけない為、朝食に遅すぎる事は無いだろう。
俺は二度寝に入ったホテプとツバキを起こし、朝ご飯にする。
盥の水で顔を洗い、三人で下の階に降りる。メニューはシンプルにパンとスープに野菜と果物。
パンは焼き立てなのか、湯気が立ち込めて美味しそうだ。
俺は外にいるメニカに挨拶してから朝食を取り、あっと言う間に完食。食べながら考えたが、今日は普通に討伐依頼を請ける事にする。
前回も暴走するサイクロプスやハイオークに手が出せないままだった為、少しでも自分に度胸を付ける為にも頑張らねば。
クエストを請けに居保統に歩いて向かう為に、準備を整えてツバキ達と歩き出す。
暫く歩くと普段目にしないものが目に入る。普段誰も使わない裏路地に、円形の魔法陣が書かれている。
それは一か所ではなく、何か所にも描かれている。誰か悪戯で書いたのか、練習で書いたのかは分からない。
何分、自分は魔法に関してはからっきしダメな為、それが何の意味を成しているのか検証する術が無い。
外に出るついでに、ヴィリーさんにでも教えようと思い、居保統をまず目指す。
居保統に辿り着き、早速今日貼られている依頼に目を通す。クエストの中に、アネクメに向かう途中の森にゾンビが出現したらしく、その討伐依頼が掲載されている。
今日はこの依頼を熟し、モンスターの生態も調べつつ連携も上手くならなければ。
ワーキャットのお姉さんに依頼書を渡し、森へと向かう。
そして城外へと出て、ヴィリーさんの家に挨拶をする。
「ヴィリーさん! 居ます?」
「あぁ、ケイア君。また仲間が増えて壮観だね。どうかしたの?」
俺はオリバー城内に描かれていた魔法陣の話をし、どのようなものなのか聞いた。
彼女は実際に見ない事には説明が出来ないと言い、書かれている場所は何処か説明する。書かれている場所は人目が付かない所ばかりで、隠しているようにも見える。
それを説明すると、ヴィリーさんはオリバーを結界で張って守るのであれば、管理しやすい場所。つまり、魔法陣が見えやすく補修しやすい位置に配置する。
その為、その魔法陣が違法なものである可能性が高い事を示唆している。
ヴィリーさんは城に戻ろうと、オリバー皇国を目指す。
その時、オリバーの頭上が黒紫に光り、何かが国ごと覆い始めた。それに気付いたヴィリーさんの使い魔達が、一斉に外に出る。
明らかにオリバー周辺の空気が変わり、バリアのようなものが張られている。今すぐ現場に向かい、門の前に辿り着く。
先ずヴィリーさんが結界に近付き、安全かどうか確認する。触れても何も起こらない為、一先ず入る事に。
だが、入った直前に体が重くなり、全身何かに覆い被さられたような感覚になる。
体の異変に戸惑っていると、奥で聞いた事のない雄叫びが聞こえる。更に俺達は奥に進むと、オリバーの住民が何人も倒れている。
人目に付いたのは、リュックを背負った髭が特徴的な男性。その隣には子連れなのか、女の子が倒れている。
近付いて生存確認すると、息はあるようだが苦しそうに細かく呼吸をしている。
一先ず回復だけ施そうと、二人に手を翳す。
「ケイア君っ! 前っ!」
ヴィリーさんが叫び、前方を見るとツバキと同じくらいの大男が立っている。その男が近付く度に、何か異音が聞こえる。
少し周りが見えにくく、何が鳴っているか分からない。
ただ、固い物を地面にこすりつける音。徐々に近付き、その正体が露わになっていく。
それは鎖が垂れさがり、地面に擦れる音だ。
視界が開け、男の姿は白骨化した髑髏だった。身体は所々に薄い皮を張り付けたような見た目に、ボロボロの服。
近付くにつれ、低い地鳴りのようなお経が相手から聞こえる。
その異様な見た目と、音に全身の毛が逆立つ。
それに反して明るい声が、上空から聞こえてくる。空から降り立ち、ゆっくり御辞儀をする。
『お騒がせして申し訳ない。今宵は御主の再興なる記念の日にお集まり頂き、誠に恐縮の極み。また逢えて光栄です、ケイアさん』
その男は以前、教会の入り口でぶつかったバフォメット。バフォメットは骸骨男を撫でながら、天を仰ぎ始めた。
そしてまた深くお辞儀をし、素性を述べ始める。
『私の名前はアルゲ、伏魔十二妖星の一人。この世の苦痛と快楽に目が無い、ただのしがないバフォメットです。見ての通り、このオリバー皇国を支配させて頂きました』
「この国に、何をしたの……?」
ヴィリーさんが問い返し、アルゲはペラペラと喋り始めた。
自分達が住むには、少々居心地が悪いようでオリバーを支配下に置く為に結界を張ったそうだ。
それだけでなく、ここに住まう人間と亜人、その他の種族を殺す為に魔法陣で怪物を送り込み、掃除をする。
それが先程の魔法陣を描いた理由。
そしてここは拠点として一番適している場所らしく、自分達の力の糧にすると言っている。そしてアルゲは、重要な事がもう一つあると笑みを浮かべる。
『我々が一番この世でいらないもの……。それがホテプさん、アナタです』
『私……?』
『目覚めたばかりで記憶が曖昧なのでしょうが、アナタは非常に厄介でこの計画の足枷になる存在。神である、クレオ・フィロ・ホテプさん?』
ホテプが神。
その事実に俺は困惑していると、何故かホテプ自身も驚愕した表情で固まっている。アルゲが言っていた、目覚めたばかりで記憶が曖昧。
これが本当の話か定かではないが、ホテプの本名まで知っているとなると信憑性が高くなる。
その話も重要だが、今はこのオリバー皇国の奪還が先だ。
今も苦しんでいる住民が沢山いる中、俺はアルゲたちの御主とはどんな奴か聞いた。
『まさしく絢爛と称する御方であり、
「作られた存在ってこと……?」
『その通りッ! 窮地に陥り、虫の息と成り果てた私を見て命を吹き込んでくださいました。当然、他の十二妖星も同様に』
その話をする際、アルゲは終始、興奮状態に入っていた。
そしてアルゲは我に返ると、骸骨を一撫でしてからその場を離れ、大きく宣言する。
『それでは時間も過ぎてまいりましたので、皆様方には死んで頂きます』
その声が国中に響き渡り、骸骨の大男が地鳴りのような叫びを上げ、突進してくる。
腕に巻き付いた鎖を不規則に振り回し、攻撃してきた。それを俺は咄嗟にメニカに指示し、動きを止めるように命令する。
骸骨の攻撃ではメニカの守りは破れず、何度殴打を繰り返しても傷一つ付かない。
そしてメニカはパイルバンカーを繰り出し、骸骨を吹き飛ばす。その衝撃で腕が千切れかかった為、ツバキは弱点を責めて蹴りを繰り出し、腕部を飛ばした。
最後にホテプの炎の魔法で消し炭になり、骸骨男を倒すことが出来た。
その様子を見てアルゲは拍手を送りながら、こちらに近付いてくる。
『素晴らしい! 何という連携!
「分かったわ……。アタシの家の近くにいたのは、アンタね」
『流石は蛇使いの魔女。私がキュクロープを放ち、丘の上で様子を窺っていたのを、まさか気付いていたとは』
ヴィリーさんはアルゲに強く反発し、鋭い目付きで睨み付ける。その睨みも意に返さず、アルゲは不敵な笑みを浮かべる。
すると、アルゲの周りが光り始める。
その下には魔法陣が敷かれ、既視感を覚える。それはこのオリバー皇国に描かれていた魔法陣によく似ている。
嫌な予感と共に、アルゲが呪文を唱え始める。
『
国中が紫色に光り出し、辺り一面に先程のシェーデルが姿を現した。同じように低い声が響き、体が強張る。
そしてその中には、白骨化した状態で頭に蝋燭を乗せている奇妙なモンスターが複数現れる。
体は岩で出来ており、異様な黒い煙を纏っている。あまりにの数に圧倒され、捌き切れるか分からない状態。
ヴィリーさんも、この状況を重く捉えている。
「不味いわね……。これだけ多いと、倒れてる住人も助けられるかどうか……。リス、アナタのブリックで何とか減らせない?」
『無茶言わないでよ、ただでさえ数が多いのに……』
一撃で殺せるとはいえ、回数には制限がある。メイサも石化させる事は出来るが、複数相手であれば魔力消費も激しい。
ムーは、まぁ……殴るから大丈夫か。
だが、先程からこの結界の中に居ると、通常通りの動きが出来ない。数も不利な上に、得体の知れない化物が相手となると非常に危険だ。
様子を窺っていると、蝋燭の骸骨がヴィリー目掛けて走り出してくる。
肉弾戦の得意なムーを向かわせ、接近戦に持ち込む。ムーとモンスターは両手を掴み合い、力比べをする。
力ではこちらが優勢に見えたが、ムーは突然、咳き込み始めた。
『げほっ、げほっ……。何だこの煙……!?』
『そのモンスターは
アルゲはまた不敵な笑みを浮かべ、嘲笑うように口を押える。俺は透かさず、ムーに回復を施す。
近付く際に息を止めて戦えば済む事だが、体を動かせば自然と呼吸してしまう。呼吸が必要ないメニカをメインに接近させ、ホテプは後方で魔法を撃つように指示する。
ツバキは二人の補助に回り、助ける。
なるべく厄介な敵を排除しようと、ヴィリーさんは早急にゲマインデをリスとメイサで対処させる。
リスはブリックを使い、おおよそ半分のゲマインデを処理してメイサが石化能力を使い、もう半分を倒すことが出来た。
だが、相当体に負荷がかかったのか、二人の顔色は見るからに良くない。
『やはり、魔人化したモンスターは厄介ですね。ですが、無尽蔵に現れた場合はどう対処します?』
アルゲは次も同じモンスターを魔法陣から召喚し、また振り出しに戻ってしまった。個々の力はそこまででは無いが、多勢に無勢。おまけに雨まで降り注ぎ、足場が悪くなる。
力で押し切られるのも時間の問題だ。
すると、周りから地鳴りと共に何かを叩き割る音が聞こえる。そして俺達を囲っていたモンスター達が、次々と倒れていく。
「目標沈黙。アンド、暴れていいわよ」
音の頭上から聞こえた為、俺は屋根の上を見上げると銃を所持した褐色の銀髪エルフの女性。
「おぉぉらぁぁああっ!! どけどけっ!! ドーリスッ、そこにも魔法陣があるぞ。叩き割れっ!」
怒声と共に走り出してきたのは、赤い刀身のバスターソードを携えて突っ込む筋骨隆々の金髪男。
「あいよっ! ヤネスッ、後ろに敵!」
そう指示されているのは、全身青に彩られた兜以外フルプレートのドワーフ。赤髪で自分の体格より遥かに大きい黒と金色が混じったハンマーを自在に操り、魔法陣を破壊していく。
「断ち切れない痛みに、そよ風を」
唱えているのは髪の長い男性か女性か分からない容姿の、茶髪の人間。黄色い水晶を杖の先端に付け、唱える魔法は歌のように聞こえる。とても耳心地がいい。
この四人組が現れた事で、モンスターは数を減らし、魔法陣から湧いて出てくる事は無くなった。
『これは予想外ですね。流石に分が悪いので、ここで幕引きと致します。それでは皆様、御機嫌よう』
魔法陣によるモンスター召喚が成し得なくなり、アルゲは早々に退却していく。戦いは終わり、周りで倒れている住民を、一先ず近くのお店に避難させて回復させる。
すると、最初に回復させた親子の父親が目を覚ます。
「うっ……ここは……?」
「しばらくここで休んでいてください。もしかしたら、魔物の生き残りが潜んでいるかもしれないので」
『主。女の子、熱がある……』
ホテプが女の子のオデコに手を翳し、祈りをささげると先程まで苦しそうにしていた表情が消えていく。
父親は御礼を言い、俺達は一旦外へと出る。
そして助けに来た四人組に御礼を言う前に、リアム王がいる城へと向かって行った。
俺達も追いかける形で、ヴィリーさんと城に向かう。城周辺に訪れると、大量のモンスターの死体が確認できる。
シェーデルにキュクロープにゲマインデが転がり、誰がこれを仕留めたのか気になるが、取り敢えず城内に入っていく。
中にも多くのモンスターが侵入したのが確認でき、謁見の間に入るとリアム王と各師団長が揃い、先程の四人組が話している。
話に加わると、この結界の原因についてと今現在の諸外国の内情だった。
今形成されている結界については、このオリバー皇国の何処かに発生装置があるらしく、それさえ破壊できればこのバリアは消えるらしい。
そして他の国々について聞くと、リアム王がデューネ帝国の情報を偵察兵が掴んだとのこと。
今、デューネ帝国がやろうとしている事にリアム王は芳しくないのか、重い口を開く。
「現在デューネ帝国は、伏魔十二妖星の出現によって脅威に感じたのか、転生者を召喚しようとしている」
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