第12話 瑰麗の剣豪



 デモンさんも同行してのバッフ村の奪還。彼女は走って移動するらしいが、かく言う俺達は移動するにもかなり大所帯になりつつある。


 ツバキは兎も角、メニカは巨体に合わせて重さもある。その為、ケンタウロスの荷台に乗せる事は出来ない。


 少し考え込んでいると、メニカは提案として自分の体に乗せて移動する事が可能だと話す。




『早急ニ対処スルノデアレバ、私ノアクセルモードデ皆サンヲ乗セル事ハ可能デス。速サニハ自信ガアリマスガ、乗リ心地マデ保証デキマセン』


『私は絶対イヤ! 誰がこんな冷たい機械に……』




 その提案を遮ったのはホテプだ。


 因縁があるのは分かるが、ここで争っている場合ではない。刻一刻とラミアたちが魔物に襲われている。


 血が流れるのを見たくないのであれば、今後は力を合わせなくてはならない。


 ホテプの説明もされてはいないが、嘗ての国のようにまた一つ滅びるのは見たくないだろうと、説得すると彼女は大人しく従ってくれた。


 準備が出来、デモンさんは足早にバッフ村に向かい、俺達も後を追う。




「それじゃ、出発だ」


『了解、アクセルモードニ移行シマス。振リ落トサレヌヨウ、シッカリ捕マッテクダサイ』




 メニカが宙に浮き、俺達は背中に捕まりながらバッフ村を目指す。


 空に飛び立ち、慣れないその光景はとても新鮮。遠くの景色まで見通すことが出来、これであればケンタウロスでの移動もしなくても済む。加えて、ハーピーの空輸よりも早い。



 今後、ケンタウロスのお兄さんの顔が拝めなくなると考えると悲しくなる。バッフ村まではそれほど遠くはなく、この移動であれば数分で到着する。


 目的地が見え始め、小川付近にバッフ村が見えてきた。


 案の定、煙が立ち込めて村が焼けているのが分かる。上から見ると、ラミアたちが逃げ惑っているのが分かる。


 その中に見覚えのあるモンスターが複数追いかけ回している。


 だ。


 オリバーから派遣される軍はまだ見当たらない為、俺達が一番最初になる。早急に対処しようと、村の近くに降り立ち、兎に角安全を確保するのが先決だ。


 今の俺達であれば、サイクロプスに遅れは取らない。


 二手に分かれてサイクロプスを対処し、数を減らして回復を施す事に専念する事にした。連携がまだとれていない俺とメニカ、ある程度連携が取れているツバキとホテプで別れて戦闘を行う。



 不利と判断すれば、即刻逃げれるように指示し、少しでもサイクロプスの数を減らす。俺はメニカと共に、被害の大きい方に走り出す。




「メニカっ! そのサイクロプスは力ではお前に劣る。普通のパンチであれば、容易に倒せるはずだ!」


『了解、マスターノ指示通リ打撃ニヨル攻撃デ対処シマス』




 メニカは指示通りパイルバンカーを用いて打撃を繰り出し、一撃で粉砕していく。俺はその攻撃にヒントを貰い、拳と脚に魔力を込めてサイクロプスの腹部を狙って打ち出す。



 当たる瞬間に拳を止め、踏み込んで打ち抜いた。


 今までやってきたパンチより数段威力が上がり、無駄な動きを減らすことが出来た。ある程度、殲滅することが出来てラミアの救助に当たった。


 今の俺の回復魔法では、修復不可能な者もいた為、布を千切って血止めだけを施す。切り傷や炎症を起こしている者を回復し、安全な場所まで運ぶ。


 そんな時、一人のラミアが朦朧とする中、小さい声で呟く。




『あの剣士さんを……助けて……』


「どこですか!」




 彼が指さす方向に、大量のサイクロプスの死体に囲まれている女性が倒れている。


 俺は直ぐ回復を施そうと向かうが、見るに堪えないものだった。袴のような鎧を付け、黒い髪を結った女性の体は腹部に穴が開き、足首は捻じ曲がり薄皮一枚で繋がっている状況だ。



 瀕死である為、何処まで治療できるか分からないが精一杯回復魔法をかける。


 何とか腹部の穴は塞ぎ、足首も繋がり始めた。四肢を生やす事は出来ないが、繋がっていればいける。


 徐々に正常に戻り、彼女の脂汗が引いていく。だが、彼女は頻りに何かを訴えかけている。




「早く……逃げて……」


「えっ……」




 疑問に思った瞬間、後ろの建物が崩落し、瓦礫の中からハイオークが出て来た。その姿は普通のオークではなく、瞳が充血している。


 あの時のサイクロプスと同じ。デモンさんが助けてくれた時のサイクロプスの奇行に似ている。


 体は痙攣し、涎を垂らしながらこちらに向かってくる。


 彼女はまだ動ける状態ではなく、必死に起き上がろうとする。




「くっ……まだ、動けないっ」




 兎に角、彼女を守る一心で前に立ちはだかる。そんな時、遠くから瓦礫を掻き分けて突っ込んでくる黒い物体。


 メニカがハイオークの体を掴み、頭にパイルバンカーを打ち込む。




『バンカーッ!!』




 そのお陰で俺達は助かり、オークの頭は粉々に吹き飛んだ。メニカに御礼を言いつつ、彼女をここから移動しようとした。


 だが、またしても同じようなオークが飛び出し、メニカの動きを封じる。


 メニカが動けずにいると、違う方向からもう一体、暴走したサイクロプスが俺目掛けて走り出してくる。




『マスターッ! 逃ゲテ下サイ!』




 メニカが叫び、俺は彼女を連れて走り出そうとすると、そこには誰も居ない。辺りを見渡すと、彼女は俺の前に立ち、一呼吸入れて刀を抜く。




「ふぅ……飛燕斬ひえんざんッ!」




 上段から左右に移動しながら、見えない速さでハイオークを切り刻んだ。オークは絶命し、体がバラバラと落ちていく。


 彼女は刀を鞘に収め、こちらに向き直る。ゆっくりとこちらに近付き、手を差し出してくる。




「この村を救ってくれて、有難く存じます。拙者は。オリバー隊の第二師団を任されています」


「あなたがスザクさんですか」


「拙者を知っているのですか?」


「以前、デモンさんに救われた時に教えてもらいました。あぁ、俺の名前はケイアって言います」




 握手を交わしながら、スザクさんはにこやかに笑う。挨拶を交わしつつ、何故スザクさんが単独で動いていたのか気になり、聞いてみる事にした。


 彼女はバッフ村が襲われているのを聞き、単身で乗り込んだのはいいものの、複数の凶暴化したオークに不意を突かれてやられたらしい。


 話していると、ツバキ達が戻ってくる。


 そのタイミングで、デモンさんが軍を引き連れてやってくる。取り敢えず、負傷しているラミアたちを集めて回復させ、補助に回る。


 残念だが、全員を助ける事は叶わなかった。それでも最小限に被害を食い止めることが出来、デモンさんから勲章を貰う可能性があると言われた。




『やったやん坊主! リアム王から勲章でも貰えるんとちゃう?』


「遅れてきて良く言いますね……。あ、あのケイア殿、オリバーに戻ったら一緒にお食事でも……」




 スザクさんは手をこねながら、よそよそしく頬が赤らんでいる。


 何を恥ずかしがっているのか分からないが、丁度お腹は空いている。一緒に食べるぐらいは構わないと伝え、スザクさんは飛び跳ねながら喜んでいる。


 その様を尻目に眺めていると、ホテプが俺の腕を引っ張り、自分に引き入れる。凄い形相でスザクさんを睨み付け、明らかに機嫌が悪い。


 それに応じてスザクさんも目付きが鋭くなり、睨み返す。


 俺はあまり関わらないように、この場を離れようとした時、スザクさんがリアム王にも報告しなければいけない為、同行するよう求められた。


 戦闘に参加している為、当然と言えば当然。


 モンスターの動向を把握するのは、国として当り前である。帰りは馬車に乗せてもらい、ツバキとホテプが同行する。メニカは入らない為、外で護衛しながら進む。




「ケイア殿は以前もあのサイクロプスと対峙した経験があるのですよね?」


「はい。ですが、ハイオークのあのタイプは初めてです。異様な血走りと、奇怪な動きはサイクロプスとよく似ていますけど」


「拙者自身も、他の場所で討伐依頼があるのですが、最近になってこの事例が増えているように感じます。見た事のないモンスター、亜人種による凶暴化。被害はこのオリバー近辺でよく発生しています」




 この被害はここ最近の出来事。


 自然的に発生している事は考えにくい、誰かが意識的に操作しているように感じる。それにツバキさんが言っている、オリバー近辺での発生率が上がっている事。


 それに執拗にサイクロプスが俺をつけ狙う目的も、未だに分からない。


 話し合いをしながら数十分、安全にオリバー皇国に帰ってくることが出来た。そして城へと到着し、リアムの謁見の間に招かれた。


 以前のようにリアム王は玉座に座り、面を上げる。


 ツバキさんが師団の被害報告と、バッフ村の損害を説明する。兵の損傷はなく、村の住居は半壊と全壊が多数、ラミア族も数人が死亡している。


 リアム王は顎を搔きながら思案する。そしてツバキさんやデモンさんに、警戒区域を広げ、オリバー近郊で怪しい動きを探るように命ずる。


 そして近況報告は終わり、リアム王が俺を呼び止める。




「ケイア、メタルヴェルクでも功績をあげたようだな。我が友、バールトから聞き及んでいる。紅綬褒章を受け取ったそうだな」


「はい、身に余る品物です」


「あれは元を辿れば、我が国が施工した制度を取り入れたもの。そこでただ帰すのも忍びないと思い、飾版しょくはんを授与する」


「しょくはん……?」




 聞きなれない言葉に疑問が浮かぶ中、横にいるスザクさんが耳打ちする。飾版とは、を指す。


 リアム王が見本となる現物を見せ、小さい銀色のピンのような物だった。


 それを装飾された箱に入れ、手渡される。俺はそれを大事に受け取り、リアム王から離れる。


 授与式も終わり、城の外までスザクさんが同行してくれた。わざわざ見送ってくれるのかと思い、優しい人だと感じた。




「ありがとうございます、わざわざ外まで」


「ん? 何を言っているのですか、ケイア殿。一緒にお食事をする約束では無いですか。いやですね~」


「あっ……そうですよね」




 そんな約束してたか。


 まぁ、食事するぐらいなんてことはない。今は兎に角、腹が減って死にそうだ。スザクさんに美味しいご飯を紹介してもらって、気に入れば今後通う事もあるかもしれない。



 それより褒章貰うのは良いけど、俺のランクはいつ上がるんだ……。




























 あぁ、近付いてくる。私が望むこの世界、何もかもが。役者は揃い、私の器も手元にある。


 後は、邪魔な存在を消すだけ。一度、私の計画を阻んだ


 アイツが復活した所で、今の魔力では私に届きはしない。


 ふはは、見とけゴミムシどもが。私が作ったで、魂が傀儡と成り果て、残滓となるまで幽閉してやる。


 この伏魔十二妖星ふくまじゅうにようせいでな。




























 俺はとある酒場で飛び起きる。


 さっきの言葉の羅列は何なのか、考えようとすると頭が痛い。その原因は、スザクさんに大量のお酒を飲まされたのが起因している。


 頭を横に振りながら、さっきの夢を辿ろうとする。だが、思い出そうとすると靄のように消えていく。


 夢とはそう言うもので、直ぐに忘れるもの。


 誰の記憶なのか、探ろうにも探れない。取り敢えず、潰れているスザクさんとツバキとホテプを起こす。


 明日は何をしようか。


 そんな事を考え、水を飲みながら彼女達が目を覚ますまで待つ。


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