第11話 太古の技術



 バールト王が待つ謁見の間に辿り着き、依頼の報告に移る。


 だが、話している最中も俺の横にいるメニカに驚き、簡単に仲間に引き入れた事を説明する。それを聞いて安心したのか、やっと落ち着きを取り戻した。


 話を戻して、あの研究所の管理をここに住むドワーフに頼みたいと申し出た。


 そこでバールト王は、まだ研究施設は安全では無いのかと懸念する。それは織り込み済みで、メニカが他のオートマトンに危害を加えないよう、電磁波を送って指示を出した事を告げる。



 それをもし破った場合、自壊するようにデータを書き換えたようだ。絶対という証拠は無いが、施設の整備など護衛としても心強いはず。


 こればかりは時間で解決していくしかない。


 報告を終え、お金だけ貰って帰ろうとした時、バールト王はそれだけで帰すの心苦しいと言って他に臨む品は無いかと聞かれた。


 生活に必要な物を頂ければそれでいいと思ったが、引き下がらないと考えた俺は先の戦闘でメニカに燃やされたサンドワームの装備より動きやすい物は無いか、試しに頼んでみる事に。




「ならば、他の国には出回らない稀少鉱石を使って返礼させてもらう」


「いいんですか……?」


「あぁ、いいとも。聞いていなかったが、君の祖国はどこになる?」


「生まれた場所は違いますが、今はオリバー皇国に住んでます」


「そうか。私もオリバーとは同盟関係が故に、よく懇意にしている。もう一つ、我々の国の危難を顧みずに尽力を讃え、紅綬褒章こうじゅほうしょうを授ける」


「何ですかそれ?」




 口をポカンと開けていると、侍女の方が説明してくれた。


 これは、自己の危難を顧みず人命の救助に尽力した方に授与される。それに相応しい人にしか貰えないものだと聞かされ、一般人が手にしていいのか汗が出てくる。


 それから儀式が執り行われ、頂いた物は赤い帯に銀製で出来たメダルと鉱石を手渡しされた。


 決して派手な作りでは無いが、褒章というだけの重みが手に伝わってくる。儀式を終えると、バールト王から一つ興味深い文献を見せられる。




「先程、私の部下が研究施設の調査をした所、古代文字が書かれた資料を見つけた。何分見識が無い為、解読するのは敵わないが御礼として受け取って欲しい」


「何語か分かりませんね……」


『コレハ日本語ニ当タリマス』




 後ろに構えていたメニカが呟き、何と書いているか解読してもらう事にした。














 私の研究は成功した、科学で成しえなかった超能力者の開発に。これで今まで言われていたファンタジー世界の魔法も、この薬品でみんなが目覚める。


 そう思っていた。


 だが、科学者というのは政治の道具に過ぎない。そこに利権と癒着が生まれ、私の研究は没収された。


 それでも私は次の研究に没頭し、仲間と共に励まし続けてきた。それなのに。


 内部にまで腐りきっていたとは、思いもしなかった。まだの極秘資料を盗作され、恰も自分の手柄のように扱われる。


 これ程の屈辱が待っているとは、自分でも思いもよらなかった。


 私は楽しく明るい未来が築ければよかった。この研究も、――と話が出来る可能性だって生まれたかもしれない。それなのにアイツは――を物のように扱い、実験の材料にしようとした。



 人間は愚かで浅ましい、残虐で非道。


 私が殺されるのも時間の問題だろう。真実が明るみになる前に隠蔽し、全て自分の手柄に見せかける常套手段。


 だが、私はただでは死なない。この装置を使い、いつか人間を滅ぼす。


 この世の神が出来なかった、人間をコントロールすること。自然の摂理を越えて、循環を滞らせる者。





 平らなお皿に花火が降り注ぎ、赤い液体が地面を濡らし、皆が断頭台を目指す。


 

















『文章ハコレデ終ワリデス』


「怖いな……」




 俺は率直な感想を述べ、バールト王は少し怪訝な顔を浮かべていた。思索するバールト王は、重い口を開いて有り得ない言葉を囁く。




「この文章が世迷言でなければ、私達が使う魔法は自然から生まれるエネルギーではない事が証明される……」




 常識で語られている魔法の概念が、覆る事を意味していると考えられる。


 生まれ持った才能で発現するモノではなく、薬で呼び起こした事になる。だが、俺はそれ程驚きはしなかった。


 何故、魔法が使えるかはとても曖昧。よく分からないモノであるのには、変わらない。


 そしてもう一つ、研究途中の文章で部分がある。そこに何が示唆されているのか、恨みつらみを残して、最期に謎の怪文。




「メニカには、最後の文は理解できる?」


『平ラナ皿ハ、コノ世界ヲ指シテ抽象的ニ表現シテイルト思イマス。ソノ他ハ解読不可能デス』


「日本ってどれくらい前?」


『紙媒体カラノ推定……オヨソ十万年前ト予測シマス。私モソノ年代ニ作ラレタト認識シテイマス』


「この途切れてる部分は読める?」


『イイエ、不明デス。何故カト申シマスト、コノ用紙ニハ瞳カラ抽出サレル水ト蛋白質、リン酸ト塩の涙ガ検出サレマス。ソレガ滲ミ、解読ガ困難トナッテイマス』




 メニカ自身も古代文明の遺産だとは思っていたが、まさか十万年前だとは思わなかった。それに、この部分がとても重要な気がする。


 後は、メニカが言っていた


 メニカにも一応聞いてみたが、業務内容や外敵処理のみが仕事の為、不要と判断してデータを削除されていたらしい。


 少しでも情報が得たいと思い、歴史であれば宗教に関する人物、ハイリゲさんに頼む事にした。


 その人であれば何か分るかもしれない、そう思った俺はバールト王に別れを告げて、ケンタウロスの馬車に乗りメタルヴェルクを離れる。



















 オリバーに向かう道中は、モンスターに襲われる事もトラブルに巻き込まれる事も無く帰還した。


 ケンタウロスの方とは別れ、俺は少し興奮気味に教会に向かう。


 メタルヴェルクに数日滞在していた事もあり、オリバーに戻ってくるのが久しぶりの為、新鮮な気持ちで街をツバキ達と歩く。


 歩いている途中も人目を引くのか、メニカの姿に驚きながら二度見する人達が何にもいる。


 そうこうしている内に教会が見え、早速中に入ろうとした時に頭上を見上げていた為、肩が誰かとぶつかる。




「あっ、すいません」


『いえ、私の方こそすいません。御怪我はありませんか?』




 丁寧に言葉を帰すその男性は、黒いスーツのバフォメットの獣人だった。にこやかに頭を下げた姿を見て、紳士という文字が似合う人物に思える。


 蜷局を巻いた二本の角に黒い毛色、雰囲気は柔らかいのだが何処か怖くも感じる。


 彼は急いでいると一言加えて、その場を離れて行った。この場所に来るという事は、信徒の人なのかと思いながら俺は教会の中に入る。


 中に入ると、いつものように信者の方たちが教えを読みながら祈りを捧げている。


 辺りを見渡していると、ミルトさんが近付いてくる。




『ケイア様、御足労痛み入ります。お仲間を連れて、今日はどのような御用件でしょうか?』


「ハイリゲさんとお話したい事がありまして」




 用件を伝えると、ミルトさんはこの場で待つように言われ、暫くすると遠くから足音が聞こえてくる。


 その正体はハイリゲさんで、すごい勢いで俺の手を掴んでくる。




「ケイア君! 遂にドゥンケル教に入信する決意が固まりましたか!?」


「い、いや、俺……まだ何も言ってませんけど……」


「今日訪ねてくると言う事は、神の思し召し! これは神が引き合わせたと言っても過言では――」


『ハイリゲ様!! いつも言っているではないですか? 心静かに説き伏せし。何でいつも肝心な時に、興奮するのですか?!』


「良さを伝えたくて……つい」




 ハイリゲさんの怒られる姿を見て、ミルトさんには逆らわないようにしようと心に決めた。


 それより本題に入ろうと、十万年前の事、日本という国が存在したかどうかを聞いてみる。俺達は奥へと招かれ、書館庫に通された。


 そこにはいつから保管された本か、分からないものが沢山本棚に飾られている。そこから一冊を取り出し、ハイリゲさんが捲り始める。


 その朽ち果てた紙をめくりながら、その当時の事が書かれている。


 見せてもらうと、メタルヴェルクで貰った物と同じ言語が使われている。解読できない為、メニカにお願いして読み解いてもらう事にした。


 メニカ曰く、農作物についてののような事が書いてある。


 基本的な事は同じように書かれているが、表紙には絵が描かれている。とても精巧で、そのままの姿で写し出されているように感じる。


 それに人間が機械のようなものに乗って掘り起こしているように見える。


 暫く読み進めているが、日本という国についてはよく分からなかった。ただ、今俺達の世界でも同じ野菜が使われている為、自生している物はようだ。



 他も読んでみたいが、帰ってきたばかりである為、ツバキがつまらなそうに天井を見上げている。


 ここまでにしようと本をハイリゲさんに返すと、彼は何かを見つめていた。その目線の先は、だった。




「ケイア君、彼女とはどこで知り合ったのですか?」


「アネクメの砂の神殿で眠っていました。……何か気になる事でも?」


「いや、気のせいでした。よく似た人がいたもので」




 何か知っているような口ぶりではあるが、これ以上何も話す事が無い為、俺は御礼を言って書館庫を出ようとした時に扉が開く。


 そこには黒い礼服を着た長髪の男性が立っている。おまけにグラサンを掛けて、変わった銃の形をした物を握り締めている。


 この教会の礼服は白がベースで、ミルトさんもハイリゲさんも白を着ている。だが、彼は全身真っ黒で身長も高い為、雰囲気が怖い。


 呆気に取られていると、ハイリゲさんが彼に優しく語り掛ける。




「ゼーラフ、お帰り。教会の警備はどうでした?」


「問題ないです。いつもと変わりません」




 口数が少ない彼は、戦争孤児による難民。そこでハイリゲさんが引き取り、教会の護衛を任されている。


 そんな彼が手持っている銃は、アパッチ・リボルバーという魔道具の一種。折りたたむ事も出来、それを使って殴る事も可能。とあるダークエルフに作ってもらった物を愛用し、弾は魔法で打ち込む。



 何故見回りをしていたかというと、また教会の一柱である太陽と闇の神の顔が頭ごと無くなっていた事に気付いたらしい。


 おかしいのはそれだけではなく、月と光の神には何も手を加えられていないという事。これだけ執拗に片方を狙うのは、何か意図があるに違いない。


 そこでゼーラフさんが見回りをして、怪しい人物が居ないか捜索している。


 その事を伝えられ、ハイリゲさんには気を付けるように言われて、その場で別れる事になった。








 帰りの道中、久しぶりに三姉妹の宿に泊まれることに少し懐かしさを覚え始めていた。


 歩いていていると、突然ツバキにやらなければいけない事を教えてくれた。




『ケイア、メニカの契約は済ませないのか?』


「あっ」


『忘れてただろ、お前』




 言われて気付いた俺は、宿に行く前に居保統へと向かい、メニカの契約を結ぶ事にした。


 ワーキャットのお姉さんにお願いして、血判契約書を持ってきてもらった。やろうとするのだが、メニカは機械の為、当然ながら血液は出ない。


 一応、書面だけでも契約は成立する為、お互いの名前を書いて登録する。


 終わった所で帰ろうとした時、玄関口から慌てた様子で入ってくる女性のラミア。




『私の村が……バッフ村が……』




 バッフ村はオリバーから北にある、ラミア族が住む小さな村。小川が流れているのが特徴で、綺麗な水を汲んで自分達の脱皮した物を商品として売買し、生計を立てている。



 そんな場所で彼女曰く、見た事のないが住民を食い散らかしているらしい。


 俺はそれを聞いて居ても経ってもいられなくなり、受付のワーキャットに懇願する。




「俺を、バッフ村の討伐任務に行かせてくださいっ!」


『被害がどれくらいか分からニャいし……もしかしたら、軍の要請が必要になるかも――』


「行かせてください!」


『ですが……』


『よう言った坊主っ!!』




 玄関から快闊な声が響き、振り返るとさんが立っていた。以前、危険な所を救ってくれた魔人化したオーガ。


 続けて彼女は話を聞いていたのか、一個師団をもう向かわせていると語った。


 その中に、前にも話してくれたが先だって向かったようだ。


 デモンさんはラミアの女性を慰めながら、村を取り戻すと強く呼びかけていた。




『坊主も行くんやろ? ウチが案内したるわ』




 デモンさんは太刀に手を掛けながら、顎を動かす。俺は小さく頷き、自分の仲間を引き連れてバッフ村を目指す。

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