第10話 漆黒のオートマトン
ツバキたちと合流し、先程のキメラの話をする。
この施設を見る限り、ここで生まれた事には間違いはない。実験的に行われた、非人道的な行為にホテプは憤りを隠せていない。
ゴーレムやガーゴイルなどは、自然的に生まれたり魔法によって命を吹き込まれる行為とは違う為、古代の人間が犯した残虐性に俺自身も看過できない。
それを考えつつ、オートマトンも人間の道具として利用されている事は、想像に難くない。この滅んだ施設を守り続けるのがいい例で、命令が無ければここに縛り付けられる。
そのオートマトンも、俺は何とか止めてあげたい。
議論し続け、動き続けているオートマトンを探し続けた。
暫く施設を歩き続けて、少し大きな広場を見つける。そこには大勢のオートマトンが施設の瓦礫を集め、撤去作業を行っている。
見た事の無い物が音を立て、光っている。
兎に角、今は音を立てないように物陰に隠れ身を潜める。
オートマトンの動きを観察し、見た目は白く光沢が見られるため、金属に覆われているのが分かる。
人間ほどの大きさで、見た目もそっくりで目は一つしかない。五体が動き回っている為、考えなしに突撃すれば総攻撃を受けるのは間違いない。
そこでホテプが前にも語った、勝算があると言葉と共に立ち上がり、唱え始める。それに気付いたオートマトンが一斉にこちらを向き、腕を俺達に向けて何かを発射しようとする。
構わずホテプは唱え続け、複数のオートマトンに放つ。
『清き宿りし母なる水よ、我が眼前の忌敵に激流を齎せ』
ホテプの前に大量の水が集まり、押すような動作をするとオートマトンに向けて動き出す。
多量の水を受けたオートマトンは、たちまち動きが止まり、火花を散らして爆散する。俺にはただの水を掛けたように見えたが、ホテプはこのオートマトンの弱点を知っていた。
何故という疑問が浮かんだが、取り敢えず誰も被害を出さずに済んだのは彼女のお陰。安全を確認する為、オートマトンに近付いて確かめる。
五体とも機能が止まっているのを確認し、証拠として残骸を拾い集めてバッグに入れる。
他にもオートマトンが居ないか探す為、回っていない部屋を隈なく探す。
その場から立ち去ろうとした時、地面が揺れたような感じがする。辺りを見渡すが何もなかった為、再び歩き出そうとした。その時――。
轟音と共に壁が破壊され、黒い何かが俺を見つめている。
『主、そのオートマトンが指揮官っ!!』
ホテプが叫ぶと同時に、そのオートマトンはツバキより大きく、巨腕を地面に向けて叩き出す。
一度衝撃が走り、オートマトンの腕の機構が変わり、先程より強い衝撃が押し寄せ、床が崩れて俺達は下に落ちていく。
体勢が崩れ、床に叩きつけられそうだったがツバキが抱えてくれたお陰で難を逃れた。
そしてオートマトンは最初の腕へと変形させ、元に戻る。あの腕の機構はパイルバンカーによく似た造りをしている為、直撃すれば命は無い。
『侵入者ヲ即刻、排除シマス』
オートマトンは無機質な音声で警告し、先程の敵とは違い、黒い見た目にツバキよりも遥かにデカい。
白いオートマトンと異なり光沢が無く、柔らかそうな体をしている。
何も分からない以上、下手な事は出来ない。
そう思った矢先、ツバキが飛び出してオートマトンに向かう。止めようとするが、彼女はオートマトンの懐に入り、一撃鉄拳をお見舞いする。
『オゥラァァッ! ……硬って!?』
だが、先程まで揺れていた表面はツバキの衝撃が当たる直前に硬直し、傷が入らない。
オートマトンはゆらりと動き、軽く腕を横に振った。それだけでツバキは吹き飛び、壁に叩きつけられて気絶してしまう。
俺は回復を施そうと近付くが、行く手を阻まれて駆け付けられない。
そこでホテプが先程の呪文を唱え、動きを止めようとするが、効果がない。
『効かない……!?』
効きはしなかったが隙を生む事が出来た為、直ぐさまツバキに駆け寄る。
回復を掛けたことでツバキは起き上がり、無闇に攻撃するのは得策ではないと説いた。
そして作戦を練ろうとした時、オートマトンは無機質な音声と共に形を変えた。
『警告、対象ノ大幅ナ魔力ヲ探知。アンデッドノ殲滅ヲ最優先ニ行イマス。アクセルモードニ移行』
オートマトンは姿を変え、体のパーツが脚部に集中し始めた。上半身は貧弱になったが、集約した部分から凄まじい音が鳴り始める。
そしてオートマトンは空を飛び、眼では追えない程のスピードを披露する。
縦横無尽に空中を飛び回る巨体のオートマトンに対処しようと距離を詰めようとするが、直ぐさま離れて自分の攻撃が届かない。
すると、オートマトンの瞳が黄色く光り出し、細い光線が胴体に向けて飛び出してくる。
間一髪、避ける事は出来たが装備の切れ端が僅かに焼け焦がれている。耐久性が高いウンゲワームの装備でも、防ぐ事の出来ない熱光線だと言うのが分かる。
このままではジリ貧となり、遠距離から攻撃を受け続けるのは時間の問題。俺は兎に角、オートマトンの動きを止める為に打開策を模索する。
打撃も効かない、唯一の弱点である水属性の魔法も効かない。距離を離されて近付く事も儘ならない状況で、どうすればいいか分からない。
今はただ、相手の動きを翻弄する為にその場に留まらず、ジグザグに動くしかない。
すると、先程攻撃が当たった事を考慮してか、ホテプが防御魔法を張ってくれた。
『我がなる主に守護する力を……
その言葉と共に、俺の周りに緑色の壁が構成されていく。言葉とは裏腹に中は包まれているような感覚で、微風が常に吹いている。温かみがあり、ホテプの心情が垣間見れる魔法に感じる。
そのお陰でオートマトンが放つ熱光線から身を護ることが出来る。冷静に相手を分析しながら、次の行動を窺っていると、相手はまた先程と同じような行動を取る。
『他ターゲットノ殲滅ヲ困難ト判断シ、攻撃手段ノ変更ヲ推奨。エナジーモードニ移行シマス』
先程と同じようにオートマトンは体を変形させ、脚部に集中していたパーツが上半身に組み込まれていく。
さっきまでと違い、上半身、主に腕部の部分が特質的に凶暴性を増している。言ってみれば、攻撃性が増している。
危険度が増す中、俺は一つある事に気が付く。
変形を繰り返している間、呆気に取られていたがオートマトンが変化している最中に、大きな隙が生まれている事に気付く。
これを利用して、何か弱点を探れるのではと考えた。
『あんなの、どうやって倒せんだよ……』
「ツバキ! アイツがもう一度、変形したタイミングを狙って石を投げてくれ! どこの隙間でもいいから投げ込むんだ!」
『よく分かんねぇけど、分かった!』
「ホテプは相手の動きが止まった瞬間に、水魔法をお願い!」
『分かった……』
俺は二人に指示を送り、オートマトンの変形する機会を窺った。
兎に角、全員が攻撃に当たらないのが最低限の条件。俺は多少無茶でも、ホテプに掛けてもらったバリアで攻撃を受けきる。
ホテプは後方で好機を待ち、ツバキは俺のサポートに回る。
俺は真っ先にオートマトンに真正面から向かい、攻撃を避ける事に専念する。それを察知してオートマトンは腕を俺目掛けて打ち込んでくる。
走りながらオートマトンの股をすり抜け、何とか一撃は避ける事が出来た。
それで分かった事は、パンチが途轍もなく遅い。腕部に集中して攻守が強化されても、動きまでは強化されていない。
これを続けて行けば、いずれ効果が無いと判断して形を変えると見込んだ。俺とツバキは二人で動きを翻弄し続け、相手の弱点を引き出す。
これはいける。そう確信して攻撃を避け続け、またさっきと同じようにオートマトンの股を潜ろうとした時、無機質な音声を読み上げる。
『バンカー……アクセル』
その音声と共に腕から火柱が吹き、剛腕が加速する。
「うわっ!?」
先程までは避けれる範囲のはずが、目の前に途轍もない腕が飛び込んでくる。
俺は咄嗟に腕を前に出し、守る姿勢を取りながら衝撃により、壁に叩きつけられる。バリアのお陰で怪我はないものの、その一発で障壁は消えてしまった。
慌てて俺に駆け寄るツバキに心配されながら返事をするが、あれを生身でくらえば人間の形を保てなくなるだろう。
さっきの攻撃を想像しながら、次も同じ奇襲をくらえばと思うと、恐怖で足が竦む。動けない体を必死に力を籠めるが、全く動かない。
それを見ていたオートマトンは、また無機質な声で語り始める。
『戦闘ヘノ著シイ意欲低下ヲ確認。ターゲットノ戦闘能力ヲ考慮シ、ナチュラルモードニ移行』
そう告げると、同じように形を変えようと動き出した為、俺は透かさずツバキに石を投げるように指示する。
投石は見事に命中し、オートマトンは危険信号を出すようにライトが赤く光り出した。そこからホテプは水魔法を唱え始め、相手に大量の水が流し込まれる。
『異変ヲ検知……浸水ニヨリ、機体ニ問題ガ発生シマシタ。作動箇所ノ制限ヲ行イマス』
オートマトンは動きを止め、火花を散らしながらその場から動かなくなった。
恐る恐るオートマトンに近付き、様子を窺おうとした瞬間、ホテプは一目散に相手に駆け寄る。
そして相手の懐に入り、切迫した表情で水魔法を放とうとしていた。
『何故、私達の国を滅ぼしたっ! お前達は何を目的として動いていたっ! ……応えろっ!!』
『理解不能……言ッテイル意味ガ、分カラナイ』
ホテプは立て続けにオートマトンを捲し立て、意味の分からない事を言い始めてる。私の国とは、何処の事を指しているのか。
『私ハ、コノ施設ヲ守レト言ワレタダケ。命令ハ絶対……』
オートマトンはそれを繰り返し、ホテプは嫌気がさしたのか、水魔法を放つ勢いにまで発展する。
俺は透かさず間に入り、オートマトンを庇う姿勢でホテプの前に立つ。それを見てか、ホテプは更に苛立ちを見せて口調が徐々に荒くなり始めた。
『主はこの鉄屑を庇うのかっ! こんな温かい血も流れない怪物をっ……』
「オートマトンが機械でも、生きてる事には変わらないだろ? それに、血が流れなくても種族は関係ない」
『くっ――』
ホテプは噛み締めながらオートマトンから離れ、魔法を解いた。
そして俺は、オートマトンをどう処理すればいいか分からない。言ってみれば、依頼の内容が抽象的でオートマトンの殲滅、討伐という名目ではなく、何とかして欲しい。
喫緊の課題である為、対抗策を模索したとはいえ、破壊が目的ではない。
となれば、破壊するのも心苦しい。そこで俺は、ある事を思いついてオートマトンに交渉を持ち掛ける。
「君は誰から命令されて動いてるの?」
『私ハコノ場ノ防衛ヲシロト、インプットサレタダケデス。即チ、作リ出サレタ時カラ私ノ中デノ決定事項』
「じゃあ、この場所を離れる事は出来ないんだ。……ドワーフに管理してもらうのは可能なの?」
質問していくとオートマトンは言葉が詰まり、黙ってしまった。そうすると、自分の居場所が無くなると言う葛藤があると思った俺は、ある事を思いつく。
仲間にすればいい。
新たに主人が生まれれば、この場所に留まる必要もない。そしてここもドワーフが管理する事で、前の主人の命令も順守できる。
思い付いたその場で、オートマトンに提唱するとホテプから猛反発をくらう。
『本気で言ってるの……?』
「そうしたら、この子も殺さずに済む。ここも安全に管理できれば、それでいいと思うけど……」
『主だって死にかけてるんだよ!? こんなの仲間にしたら……』
ホテプの言い分も分かるが、これだけ強力な仲間が出来れば、きっと心強いと思う。きっとこの先、まだ知らないモンスターと戦う場面と多く出くわす。
敵であっても引き入れるべきだ、とホテプに告げて何とか説得することが出来た。
オートマトンに名前を聞いてみた所、型番と言われる言葉で長い羅列を読み上げられたが、よく分からない。
それで呼んでも愛嬌が無い為、簡単な名前を考える。
「……メニカ。これが君の名前」
『メニカ……。了解、名称登録ヲ入力シマス。識別名、メニカ』
メニカに名前を付け、依頼も熟したところでバールト王に報告する為に下山する。
メタルヴェルクの門を潜り、再び坂を上りながら王都に到着。
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