第8話 電撃の鬼武者



 早朝、装備を整えて三人でギルドに行く為に居保統に向かう。


 取り敢えずは簡単な依頼から熟そうと、ゴブリン討伐をしようと考えた。


 居保統に辿り着き、依頼が貼られている掲示板に目をやる。近場を選択した方が、万が一不備があれば戻ることが出来る為、オリバー近辺の依頼を選択する。


 選んだのはオリバー近郊の害獣駆除。ゴブリンやオークが森に出入りする者達を妨げている為、討伐依頼が下されたようだ。


 張り紙を取り、受付に手渡してクエストに出発した。




『いってらっしゃいませニャ!』




 獣人のワーキャットに見送られながら歩いて城門を抜け、森を目指して歩き出す。俺はふと、二人に守られながら戦う事に疑問を感じていた。


 そこで俺は格闘を習いたい、と二人に語る。それを聞いたホテプが、回復魔法しか扱えない自分に対して拳に魔力を収束させてだと話す。


 それを極めれば、遠距離からでも空気砲のように放つことが出来る。魔力を重点的に腕に流すようなイメージでやれば可能だと言われたが、初めてな上にわからない。


 取り敢えず言われた通りにやり、目を閉じて集中する。二回ほど失敗したが、おおよその感覚は養えた。


 格闘に関しては、ツバキに教わる事にする。


 別に彼女に流派がある訳では無いが、戦闘になれるのが一番だとツバキも協力してくれる事に。


 そして然程かからず森が見え、通路を進んで行く。


 少し森を進んである事に気付く。何故ホテプがここまで魔法に詳しいのか、アンデッドである彼女には謎が多い部分が多い。


 それとなく彼女に、魔法に心得があるのか聞いてみた。




『色んな者達に教わった……。遠い昔……』




 彼女は遠い目をしながら空を見上げる。


 どこか寂しげな表情をしながら、ただ遠くを見つめていた。これ以上は彼女傷付けると思い、その先は何も言わずに歩く。


 歩いてから数十分、何処からか生臭い匂いが漂ってくる。臭いの元を辿り、茂みの中に入る。


 そこには食い散らされた人のが転がっている。


 これほど惨い死体を見るのは初めてだ。自分の村の住人が焼死体で見付けた時も凄惨だったが、これは反射的に口を押えてしまうほど。


 これがあるという事は、もう近くにモンスターが生息しているに違いない。だが、これほど近くなのであれば軍の仕事に該当するのではないのか、と思ったが一般国民からのお願いであれば仕方がない。



 これだけ被害が出れば、早急にでも処理したいと考える。国に願書を書くにも、手続きに時間を取られるのもあるのかもしれない。


 そう頭の中で処理し、血の匂いがどんどん濃くなってきている。


 さらに進み道を辿ると、オークとゴブリンが姿を現した。ゴブリンの数が十体、オークの数も十体と同じ頭数で点在している。


 先ずどうすべきか、ホテプの攻撃手段がまだ未知数な為、彼女の力を見せてもらう事になった。


 頷きながらホテプは地面に手を添えながら唱え始める。




『虚空へと誘う深き門、




 唱え始めると下から黒い手が無数に生え、闇の中に消えていく。残ったのゴブリンとオークの一体ずつ。


 ツバキはオークを難なく倒し、俺はゴブリンとタイマンで向き合う。拳と脚に魔力を込め、集中する。


 あの時戦えなかった悔しさと情けない自分にけじめをつける為、俺はコイツに勝たなければならない。


 幸いにもゴブリンの手には短剣は握られていない為、致命傷になる事は無い。


 我武者羅に畳み掛け、ゴブリンに殴り掛かった。案の定当たらず、無駄な動きが多く、疲れ始めた。


 そこからツバキが助言として、脚を狙うように指示する。


 俺は相手の動きを止める為、足払いを掛け体勢を崩す作戦に出た。ゴブリンの動きをよく読み、相手が前のめりに攻撃をしたタイミングで足を払う。


 それが上手くいき、ゴブリンの動きが止まるタイミングで顔面を殴り、一発で気絶する。魔力が付与された拳であれば、気絶ダメージは高いと分かる。


 そして俺は初めてモンスターを倒したことに喜びを感じ、少なくともゴブリンに怯える事は無いと燥いだ。


 俺が倒したゴブリンで最後となり、依頼は終了となった。


 その時、ツバキが絶叫の如く俺の名前を呼んだ。




『ケイアッ、後ろっ!!』




 声と共に後ろを振り向き、有り得ない距離にその姿が見える。


 あの時のだ。


 だが、最初に見た時と様子が違う。明らかに痙攣した動きで俺を見下ろし、涎を垂らしながらこちらを見ている。


 その異様さに驚愕し、俺は動くことが出来なかった。ツバキも駆け付けるが、あまりに遠い。ホテプは他のサイクロプスに手を焼かれ、それどころではなかった。


 サイクロプスが腕を振り上げ、俺は庇うように手を前に出す。すると、指に嵌めていたが光だし、障壁となって守ってくれた。


 ヴィリーさんが持たせてくれなかったら、もしかしたら死んでいたかもしれない。


 だが、事態は芳しくない。防ぐ事は出来たが、これでは身動きが出来ない。他にもサイクロプスがいる為、ツバキとホテプは身動きが取れない。


 この前の比ではなく、数十体森の中から現れる。戦闘力が高い訳では無いが、数で押されつつあるため、五体満足で帰れるか分からない。




『ケイアッ! 待ってろっ!』


『主、今助けるっ……! 深淵の囁き――。くっ……もう、力が……』




 ホテプのお陰で何体かは減らすことは出来たが魔力が尽きたのか、その場で座り込んでしまった。


 このままだと二人がやられる。


 その言葉が脳内を駆け巡り、家族のようにまた救えない。言葉が反復し、打開策など何も思いつかない。


 彼女達を直視できないまま、俺は項垂れていた。


 その時、雷鳴が轟く。空は晴れているのに、何処からか轟音が響き渡る。




霹靂神流はたかみりゅう……迅雷ッ!』




 俺の目の前に居たサイクロプスが真っ二つに分かれ、同時に防いでいた障壁が壊れる。そして、後ろには綺麗な女性が佇んでいた。だが、人間にも見えるのだが体格がツバキと同じで額に一本角が生えている。もしかして、魔人……。


 それを見てツバキも、驚いた表情で彼女を見つめていた。



 髪色は黄色に赤が混じり、髪は後ろに結っている。オデコには雷のような模様が見え、服装は軽装で東洋の鎧と太刀、胸にはサラシを巻いて規格外にデカい。




『あぁ、ゴメンゴメン。バリア、壊してもうたわ。うるさいから、ちょっと待っててな?』




 彼女は素早く移動し、他のサイクロプスを次々と撫で斬りにしていく。他の二人も何の怪我もなく、無事に助けられた。その代わり、指輪は……。


 俺は彼女に御礼を言うと、謙遜しながら頬を掻く。


 彼女が来た理由は、よくない気を辿った先に俺達を見かけ、援護したそうだ。




『ウチの名前は、。ウチが居なかったら、自分ら死んどったで』




 何でも彼女は、オリバー皇国の第二師団斬り込み大将らしい。国お抱えの軍人は、何かと護衛任務で駆り出される事が多く、留守にする事が多々ある。


 そして彼女はお喋りなのか、聞いても無い事を話し始め、第一師団の隊長がさんで師団の統括を行っている。


 彼女の第二師団隊長が、。彼女も刀を振るい、様々な剣技を駆使して戦う事を得意とする。


 次が第三師団隊長の。彼女は長身で体術が得意、それに加えて弓を併せ持ち敵を翻弄する。しかし、少々気が強い。


 この二人は人間でありながら、デモンさんを打ち負かすほど強い。


 それから俺は、彼女について少し気になる事がある。




「あの、デモンさんってオーガの魔人ですか……?」


『何? 自分、ウチの事気になるん?』




 デモンさんは魔人進化してるらしく、過去についてはあまり話したがらなかった。


 彼女自身の流派については、嘗て師匠の下で修業して習得したらしい。彼女は師匠をとても尊敬しているらしく、その熱量に気圧される。


 暫く語り明かし、ここに居ては危険だと言われ、皇国に戻る事にした。


 デモンさんとツバキがオーガである為、親近感があるのか、肩を組みながら歩き始めた。


 ホテプはつまらなそうに二人を見つめ、俺は先程の戦闘で疲労が溜まっていないか確認をする。彼女も本調子では無い為、連続で同じ動作をするのに慣れが必要だと語った。



 城門を潜り、俺達はギルドの方に歩くと、デモンさんは城に向かい、その場で別れる。ギルドに到着して、受付のワーキャットに報告をしようとしたら不思議な事を告げられる。




『お客様、少し前にお連れの方が来たと思うですニャ……』




 俺は意味も分からず、理由を聞くと俺達が来る前に黒いバフォメットの獣人がゴブリンとオークの討伐証拠品を持って来たらしい。


 なんの理由があってそんな事をしたのか、全く分からない。


 そしてそのバフォメットは、俺の名前を知っていたそうだ。その男は共同で依頼を熟し、報告を頼まれたと言っていたという。


 確実にこれは、サイクロプスと何かしら関係があるに違いない。


 受付の人もこういった事はよくある事らしく、別の人が肩代わりで報酬を受け取りに来てネコババをする。昔はよくあった事ではあるが、近年は本人が受け取る義務になっている為、この詐欺行為は減ってきている。



 取り敢えず報酬を受け取り、俺達はベーアさんの鍛冶屋に行く事にした。


 何故かというと、ホテプに教えてもらった魔法を使うのであれば、ツバキと同じ手甲と脚甲を付ける必要がある。


 いくら魔法で保護された拳だとはいえ、格好がつかない。ただの見た目重視だけど……。


 ベーアさんのお店に着くと、彼女は挨拶しながら虫眼鏡を使い、防具の装飾品に宝石を埋め込んでいる。


 作業を済ませ、こちらに笑顔を見せながら用件を聞く。


 ツバキと同じ手甲脚甲がないかとお願いすると、一般的に店内に並んでいる商品を手渡した。


 蛇の鱗に見える防具は嵌めてみると伸縮性が高く、着け心地もよくて触れると硬い。どんな材質なのかと聞くと、ドラゴンの一部を切り抜いた物らしい。


 値段も相応に高く、金貨が数十枚飛んでいく。


 流石に購入には難しく、他のを頼むと同じように蛇の鱗が使われている物を手渡された。これは蛇の皮を手を覆うように被せ、その上から硬い材質でコーティングしている。



 先程と比べれば耐久性は劣るが、扱いやすさは遜色ない。


 それらを購入し、退店しようとしたところ、ベーアさんからで困っている事があると話を進める。


 ドワーフが居住するという国で、少し厄介なものが掘り起こされたらしい。


 それは遥か昔の古代人が作ったとされる、研究施設がその場所で見つかった。


 メタルヴェルクは山々に囲まれた国で、豊富な鉱石が眠っている。それを採掘している最中に、施設を見つけて内部調査を始めると、見た事が無いようなモンスターがガラスの筒に入れられているのが多数発見された。



 そしてその周りには、壊れたが転がっていたそうだ。


 それを探索チームが不用意に触れたせいで起動してしまい、内部に入る事が困難となった。


 国で対処しようとしたが、反撃能力が高い上に守備力を固め、中に入る事が出来ない状況らしい。


 話は分かったが、何故これを俺に頼んだのか疑問に思った。




「俺じゃなくて、別の冒険者に頼んだ方がいいのでは?」


「ヴィリーさんの弟子だったら簡単かなって」




 ベーアさんからは、俺が完全にヴィリーさんの付き添い人だと思われている。彼女の弟子であれば、この事件を解決できると踏んで頼んだのだろう。


 流石に買い被り過ぎているが、断ろうと考える。だが、相当国の問題となっているのか、熱心に頼み込む。


 考え込みながら唸っていると、ホテプはその依頼を請けてもいいと応える。突然の問いに、俺は慌てながら止めるが話はどんどん進んで行く。


 そしてホテプは、何故か表情がいつもと険しく感じた。いつもは呆けている事が大半である彼女が、オートマトンの話を聞いてから変わったように感じる。


 今更断るのも失礼だと思い、依頼内容と報酬は国から説明されるとのことで決定した。


 ベーアさんは笑顔でまたきてね、といいながら俺達は店を出る。


 請けたのは良いのだが、古代の遺物であるオートマトンに勝てる見込みはあるのか。ホテプに問い質すと、奴らには弱点が存在する。


 それを彼女であれば対処する事が可能だと言われ、気圧される。


 兎に角、メタルヴェルクはオリバーから北西に位置する場所にある為、当然ながら遠い。三日ほど掛かる上に、険しい谷を越えなければ辿り着けない場所に位置する。


 移動手段で言えば、ケンタウロスの馬車で引いてもらうか、複数体のハーピーで飛行輸送するかの二択。


 ハーピーであれば一日で済むのだが、残念ながら飛行輸送は重さの上限に限界があり、加えて料金が高い。


 結局、馬車で移動という事になる。長い旅は嫌いではないが、この二人が一緒だといつも喧嘩をする。主に俺が主体で……。


 ホテプは何を考えているか分からないし、ツバキに至っては過保護すぎる面が強い。


 兎に角、メタルヴェルクに出発する前に色々揃える為の準備を進める。


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