第6話 太陽と闇の神 月と光の神



 また一日宿で過ごし、今日からギルドの仕事を受けようと身支度をする。


 すると、扉を叩く音が聞こえ、急いでドアを開けた。そこにはヴィリーさんの姿があり、後ろにはリサが立っている。


 こんなに朝早く訪ねてきた為、急ぎの用事でもあるのか尋ねた。




「ケイア君、悪いんだけどオリバー城まで来てくれない? ここじゃちょっと説明しにくくて……」


「いいですけど……。俺、何かやらかしました……?」




 恐々と聞くと、そんな事は無いと言い、調べたい事があると告げられて宿を後にした。


 外に赴くと、ケンタウロスの荷車が用意されている。四人乗り込むと、ツバキとリスの体長が大きい為、ぎゅうぎゅうに詰められる。


 馬車に揺られながらヴィリーさんが、今日の召集について簡単に説明してくれた。


 何でも昨日のサイクロプスに似た化け物について、聞きたい事があるそうだ。こちらも知識があまり無い上に、あんな恐ろしい獣は見た事が無いと告げるが、他に重要なが見つかったそうだ。



 それは、あの怪物が執拗にケイア君を狙っていた件について調べたい事があるのだそう。俺は自分の意見として、生物的に弱い者を狙った可能性を考慮した。


 それであっても、必要以上にだと言うヴィリーさんの見解だ。


 確かに言われてみれば、余裕もない場面で多少なりとも損害を与えようとする行動にを感じられる。


 俺も模索しながら頭を掻き、思考を巡らせていると城へと到着した。


 城は白く大理石を利用した造りになっており、馬車を降りると男の獣人族であるたちが出迎えてくれた。


 俺の村のようにモンスターを嫌う者たちが、この世界では多い。


 だが、この国では分け隔てなく人類とモンスターが共存を果たしている。これだけの事をやってのけるのは、皇帝としての器が大きい。


 城内に招かれて進んで行くと、天井が高く設計されて自然に息が漏れる。


 さらに歩いて行き、謁見の間へと向かう。準備が進められていたのか、待つ時間は無いまま大広間への扉の目の前。


 そこにはトロール二体が門を守り、ヴィリーさんの一声で大扉が開かれた。


 眩しい程日差しが割き込み、千人ほど収容できるスペースが広がっている。奥には階段があり、そこに皇帝が座る玉座が二つ並べられていた。


 暫く俺達は周りを見渡し、真新しい物を見て少し興奮していた。


 そして大きな掛け声と共に、皇帝が入室する合図が送られた。再び扉が開かれると、ヴィリーさんに王の言葉があるまで跪くように言われた。


 言われた通り跪き、皇帝が玉座に座るのを待つ。


 後ろまで足音が近づき、横を通り抜けていく。俺は横目でチラッと覗き、足元を見た。脚部だけでも、様々な装飾が施されて煌びやかに輝いている。


 足音は階段を上り、玉座に座る音が広間に響く。




「リアム・ル・オリバーである。皆、顔を上げよ」




 その姿は壮年と言っていい顔つきで白いひげを蓄え、白髪交じりで目つきの鋭い男だった。


 背中にはマントが施され、銀色の甲冑を身に纏っている。リアム王は咳払いをしながら、本題へと移る。


 リアム王から指名され、昨日あった事を事を詳しく説明するよう言い渡された。


 俺は昨日あった事を事細かく説明した。


 怪物が突然現れ、俺達に躊躇なく襲い掛かり、殺そうとしてきたこと。サイクロプスには似ていたものの、それも似て非なるもの。


 あれが王都を襲うとなれば、住民は瞬く間に蹂躙される。


 それを聞いたリアム王は、自分の髭に触れながら思索する。そして俺が必要以上に狙われていた事をヴィリーから聞いているか、と言われたので何故自分が襲われているか分からないと応えた。



 またリアム王は、玉座に深く座り考え込んでしまう。


 思案しても分からない以上、国家の警戒レベルを上げると下し、付き人に城内にいる全ての者に伝えろ、と命令した。


 城内が騒がしくなっていると、ヴィリーがここのたちの紹介をおれにさせてはどうかと進言する。


 しかし、他の国々の物資輸送の任に就いている為、今は出来ないと応えた。


 その代わり、俺の名前が聞きたいと応え、自分の名を名乗る。




「ケイアです」


「家の名は無いのか?」


「村出身ですので。ですが今は、その村もドラゴンに焼かれてしまいました……」


「そうか……」




 リアム王は肩を落とし、暗い顔を見せる。


 そしてその場は閉会となり、俺達は宿に戻る事となった。俺は少し休憩がしたいと申し出、待合室のテーブルに座る。


 王との謁見で緊張感が解け、暫くここで休むことにした。


 それを察してか、今度はメイド服を着た獣人族が果実の飲み物を運んできてくれた。




『宜しかったら、お飲み物など如何でしょう。多少、気も紛れると思います』


「ありがとう、ございます……」




 彼女はグレーの毛並みでとても綺麗に整えられており、何と言っても可愛い。


 俺が惚けて彼女を見つめているとツバキが突然、俺の体を持ち上げて馬車の方に向かおうとした。


 俺は下ろせと命じたが、聞く耳を持たない。


 強引に連れて行く彼女に、力で敵うはずが無く、キキーモラに手を振られながら城を後にした。


 用が済み、やる事がなくなった我々はヴィリーさんから街を回ろうという事になった。俺は以前から行きたかったところがある。


 俺は行き場所を指定し、もう一度馬車に乗り込む。元来た場所を戻り、目的の場所に向かった。


 着いた場所は。前々から綺麗な音色の鐘に興味に興味があり、行きたい場所の一つ。


 外装は純白の佇まいで、いたってシンプル。


 俺が眺めている間も、巡礼者の後を絶たない。種族も問わず、様々な信者が足を運び、茶色い礼服を着用して御辞儀をしながら入ったいった。


 ツバキはこういう場所には興味が無いようで、不貞腐れたような表情をしている。


 中に入ると天井はガラス張りになり、太陽光が明かりの役割を果たしている。そして長い椅子に横並びで座り、皆祈りを捧げていた。


 すると、白い衣と玉鬘を纏った小柄で蒼い狼の獣人の女性が話しかけてきた。




『入信者の方でしょうか?』




 その言葉に困惑をしていると、ヴィリーさんが横に割って入り、教会を見に来ただけと告げる。そして彼女とヴィリーさんは知り合いらしく、大司教に合わせてくれるらしい。



 彼女の名前は、。彼女は大司教の補佐を担当し、避難自治区の管理を任されている修道女。


 ヴィリーさんもその避難自治区に関連し、戦争で孤児となった子供たちを保護した事もある為、関係性が構築されていった。


 歩きながらミルトさんが大司教の下へと案内してくれた。


 奥に進むと、祭壇の上に立つ人物を指しながら紹介をする。


 三十代後半で髪はくすんだ焦げ茶色、とても優しい表情をした彼が


 今は信者に聖書を読み聞かせ、過去の教えや失敗を説いている。礼拝の時間が重るまで、待合室で待機する。


 暫くの時間はツバキと話しながら待ち、ミルトさんが扉を開けると先程の男性が御辞儀をして入る。


 彼は頭を上げ、驚いた表情でヴィリーさんを見た。


 以前から知り合いで、ここに来ることもあまり無い為、懐かしみながら会話を始める。そしてヴィリーさんから紹介され、ハイリゲさんと挨拶を交わす。




「初めまして、ケイアです」


「それ程畏まらずとも……。僕は肩書だけの者なので」


『ハイリゲ様、いつも言っているではありませんか。。自分を過小評価するのは、ハイリゲ様の悪い癖です。信徒の皆さんに説かれている身の方が、それでは示しがつきませんよ!』


「わ、分かった、気を付けるよ……」




 ハイリゲさんは謙虚で優しい方だが、ミルトさんはしっかり者だが怒らせると怖そうだ。


 そして彼から、今日の要件を聞かれた。


 特別なようは無いが、ここの鐘の音が綺麗だという事を伝え、とても皆さんいい方だと伝える。


 それを聞いたハイリゲさんは是非と、二柱の像を見てくれと頼まれた。


 信徒の方が祈りを捧げていく通りを抜け、真っ直ぐ進んで行くと扉がある。扉を開け、祭壇の後ろに回り込むような形で進んで行く。


 途中から暗くなり、ミルトさんが光の魔法で辺りを明るくしてくれた。更に奥に進むと、岩肌が見え始めてそこには大きな像が二体並んでいる。


 彼に説明を聞くと、太陽と闇の神。そして月と光の神が、祭られている。


 だが、俺は可笑しなことに気付いた。太陽と闇の神の顔が、削られている。意図的に破壊した形跡が見られる。


 この神はと言うらしく、シルエットは女性でハイリゲさんが最も崇拝している祭神だそうだ。


 つい最近、朝の掃除とお供え物の取り換えを行おうとした時、このようになっていたそうだ。住民にも様々な心を持っている人が大勢存在する為、その場の感情に絆され、やってしまった事だと彼は咎めるつもりは無いと応えた。



 そのドゥンケルの教えの中にも、こんな事を述べられている。


 


 相手がその行いに恥じたのであれば手を貸し、恥じなければじっとその時を待つ。これがドゥンケルの教え。


 月と光の神だが、文献があまり載っていないらしく、最近の神様だという説が唱えられている。歴史の生き証人でもある、に聞いても分からないらしい。



 そのため存在していないのではと言われているが、本当の事は定かではない。


 神様は不確かな部分がある為、文章だけ見ても間違っている部分も多分にある。ハイリゲさんが話している最中、突然何かを思い出したようで討伐依頼をしてくれないかと頼まれた。


 もちろん俺はまだ経験が無い為、ヴィリーさんに頼み込む。


 それを快く承諾し、俺も頑張ろうと奮起しているとヴィリーさんが一緒に行かないかと誘われる。




「俺も、ですか……?」


「いい経験になるでしょ。戦い方も、昨日のアタシとの戦闘を思い出せばいけるし、ケイア君にはセンスがあるわよ」


「えぇ……」




 そうは言うが、まだ凶暴なモンスターは怖いし、自身が無い。彼女曰く、慣れだと言うが気持ちが付いて行かない。


 依頼内容はオリバー皇国から南に進んだ、が目的地。


 だが、その目的地を通過する地点にという砂漠地帯がある。


 この大地は人類の永久的居住、経済的活動が困難な場所で灼熱の太陽に晒されるが故に、砂に潜るモンスターが多く生息する。


 だがこの場所は昔、文献によれば水源が豊かで緑豊かに人々が文明を築いていたそう。


 繁栄を極めていたのは、アネクメを統治していた王の御業によるものが大きいと文献に書かれているそうだ。王が力を使い、国を豊かに繫栄させ、人々は王を崇め奉り、信仰の対象として王は力を付けていった。



 だが、ある日を境にアネクメは衰退していき、水は枯れ、草木は瞬く間に赤く染まり消えていった。文章はそこで途切れ、アネクメがどのような原因で滅んだかはわからない、とハイリゲさんは言う。



 そして今回の原因である、が悪さをして物資や商人の妨げになっている。


 一体だけでなく複数存在するらしく、体も巨体であるが故に逃げるの困難。


 先ずこれを倒さなければ、デューネ帝国に辿り着けない。


 大まかな内容が分かった上で、俺達は明日に決行と相成った。輸送依頼ではないので、荷車を護衛しながらの旅にはならない。


 そして別れの挨拶を済ませ、俺達は教会を後にした。


 ヴィリーさんに宿まで送ってもらい、明日に備えて英気を養う。


 




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