どらどれうむ

藤泉都理

どらどれうむ






 この学校の生徒の中に凶悪なエイリアンが人間に化けては潜んでいるとの情報を得ては、用務員として学校に潜入したスペースポリスである私はほくそ笑んだ。

 すぐに凶悪なエイリアンを捕獲できるだろうと踏んでいたのだ。

 この眼鏡型スマホで生徒すべてをスキャンして人間に化けた凶悪なエイリアンを突き止めては、眼鏡型スマホから発射される光線で捕獲する、と言った具合だ。

 簡単だ、簡単すぎる。


 ただ、一つ。いや二つ。懸念があるとすれば。

 今まさに眼鏡型スマホが当たっている、耳裏やら蟀谷やら鼻根やらが感じている熱さ。

 眼鏡型スマホが発熱しているのだ。

 まったく最新機種だと聞いていたが、初日ですでに発熱するとは。

 あとで技術開発部に文句を言わなければ。

 火傷ができるかなどうかな熱さだぞ。

 顔にかけていなければ作動しないのだから我慢せねばならないのだぞ。


 そして、もう一つの懸念は。

 このカサカサの手だ。

 今、地球の日本国は乾燥しているのだ。

 私は過敏な体質だ。

 手が、指が、カッサカサである。

 もはや、手と指だけ別の生物である。

 眼鏡型スマホを作動するには、顔にかける事以外にもう一つ、指紋認証にクリアしなければならないのだ。

 この、カッサカサの指で指紋認証できるのだろうか。

 とりあえず、十本全部の指を登録してあるので、そのどれか一本だけでもクリアすればいいので、まあ。大丈夫だとは思うが。

 とりあえず、右手の親指から順繰りに指紋認証に挑むか。


 どれ。

 うむ。

 どれどれ。

 うむうむ。

 どれどれどれ。

 うむうむうむ。

 っふ。まあ。右手がダメでも左手があるさ。

 どら。

 うむ。

 どらどら。

 うむうむ。

 どらどらどら。

 うむうむうむ。

 うーむむむむむ。


 よし。

 私は即断した。

 ひとまず母星に戻って、技術開発部に改良してもらわなければ。

 指紋認証はだめだ。

 そうだ。眼鏡型スマホなのだから、網膜か虹彩認証にすればいいではないか。

 それならば、乾燥してようが湿潤していようが関係ないだろう。

 まったく。


「困っちゃうよな」

「本当に困ってしまいますよ」


 あれ声が出てたかと、赤面する暇もなかった。


「っふ。私も見くびられたものですね。こんな新参者が私を捕らえに来るなんて。ああ。嘆かわしい」

「あれ?どうしたの?なっちん」

「ええ。用務員の方が急に具合が悪くなられたようで。私、保健室に運んできますわ」

「うん!じゃあ、先生には言っておくね!」

「ええ。お願いします」

「うん!」


 なっちんと呼ばれた女子学生、に扮した凶悪なエイリアンは、さて、こいつをどうしたものかと舌なめずりするのであった。



















「………本当に私が見ている間は悪さをしないんだな?」

「ええ。まったくしつこいですわよ。かっちゃん」

「………はあ。まったく。女子高生に扮するなんて」

「似合ってますわよ。かっちゃん」

「本当に一年経ったら、母星に戻って、過ちを償うんだな?」

「ええ。お約束します」

「本当に女子高校生活を体験してみたいだけなんだな?」

「ええ」

「本当に私の仕事も手伝ってくれるんだな?」

「ええ。あ。ほら!早くしないと時間に間に合いませんわ!」

「あ。ちょ。引っ張るな。母星に連絡してるんだから!」




 拝啓。母星の皆々様。

 私は司法取引を交わした凶悪エイリアンと一年間の同居生活をする事になりました。

 私は日本の治安維持に努めつつ、この難局を乗り越えて、無事にこの凶悪エイリアン(なっちん)を連れて母星に帰りますので、どうかご安心ください。


 追伸。

 改良した眼鏡型スマホを早く送ってください。

 眼鏡型スマホの発熱がなかなか治まりませんし、指紋認証もクリアできないので、まったく使い物になりません。

 ただの、オシャレ眼鏡です。

 ただ、似合っていると、チヤホヤされるだけです。












(2023.11.23)



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どらどれうむ 藤泉都理 @fujitori

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