第11話 元世界最強の本気
率直に言おう、大ピンチだ。
「おぉーっと、リアン選手。まだ立ち上がる元気があるようだぁ!」
散々に斬りつけられた右腕をかばいながら、どうにか私が立ち上がると、頭上から胴元の甲高い声が聞こえてきた。
周囲の石床は荒れており、大きなクレーターがいくつもあいている。
そして私の目の前には、鋼の巨人。
甲冑を着た女戦士のような風貌をしたその人形は、私の背丈をゆうに越しており、手に持った大剣を今にも私目掛けて振り下ろしてきそうな様相だった。
「諦めが悪いぞっ!」「次の授業が始まっちまうじぇねぇか!」
場内でこだまする胴元の甲高い声に合わせて、観客たちの騒めきがまた一段と増してゆく。
どうにも少々、騒がしい。
そう思って、周囲を睨みつけようと目線をずらそうとした時。
視界の端で何かが動いた。
突っ込んできたのは鋼の甲冑。
不意をつき、巨人と同じように甲冑に身を包んだサイドテールの少女、ユカリ・フジサワが私に向かって突進してきたようだ。
敵ながら天晴。
一瞬の隙を見逃さぬ、素晴らしい攻撃。
だが、私はそれを読んでいた。
彼女の得意術式は物質硬化。
おそらく、鉄の巨人はフェイクで、振りかぶっている右腕に空気を圧縮し、槍状にすることで、私を突き刺してしまおうというのだろう。
それならば、燃焼術式で空気を膨張させ、硬化を無効にしてやるか、はたまた同じ硬化術式で空気の盾でも作ってやれれば事足りる。
おまけに、体勢を崩したところに、目くらましで閃光を焚いて、そのまま背後から気絶させてもよいかもしれない。
そんなことを考え、私は右手で術印を展開しようとし―――
彼女の痛烈な一撃が、またも私の腹にめり込んだ。
「ガフッ!」
その衝撃で、私の身体はくの字に折れ曲がり、無様に舞台端まで転がり落ちていく。
ゴロンゴロンと私の視界は回転し、先程の夢想がかき混ぜられる。
そのまま、四回転ほどした後、私の身体はようやくうつ伏せの姿勢で静止した。
ダサい。ダサすぎる。
それにもまして痛すぎる。
仮想空間故、内臓にはダメージがなさそうだが、皮膚をえぐり取られたような焼けた感覚が収まらない。
「舐めてるの?あなた。」
そうユカリ少女の呆れた声が聞こえてくる。
苦しくて立ち上がれないため、その表情まではわからないが、おそらく見下した顔をしているのだろう。
「降伏しますか?」
するわけない。
淡々としたどこか冷めた声で訪ねてくるエッラ監督官にどうにか、まだマシな左腕をブンブン振って継戦の意志を伝えてみる。
さて、この状況。
闘技場にて四十戦連続で勝ち抜き続け、入学試験では武装人形二体相手に大立ち回りをしていたにもかかわらず、私がこんな惨めな状態になったのは何故だろうか。
決まっている。
闘技場で荒稼ぎした罰としてやられた折檻で、師匠に魔改造された魔力量調整装置とやらによって、術式がさっぱり使えない状態だからなのである。
【目指せ!1万PV!】転生被害者のやりなおし ~世界最強の身体と人生、赤の他人に奪われました~ マイルド・ロッコス @Shujiiiin
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