第4話 魔族は擬態に苦しむようです

 「我が弟子、我が弟子ー、我が弟子よ♪早くこっちにいらっしゃい♪物音だけには気を付けてっ♪」


 などと鼻歌交じりにスキップをするビャクレン師匠。

 そんな浮かれた様子の彼女に従い、この度彼女より弟子に任命された私目は、古めかしい木造の廊下を歩いていた。


 そこは、彼女と出会った応接室を出て林を抜け、川を渡った先にある古い洋館。

 その建物の裏口らしい扉を開いた先にある全長二百メートルほどの通路だった。


 床には素足の私に優しい、柔らかな赤の絨毯。

 両壁には古書が天井まで積みあがっており、照明には水晶製のシャンデリア、また天井にはフレスコ画がみっちりと描かれている。

 その美術館のような雰囲気に、この地に来たばかりの私でさえも、ここは何か古くから使われている特別な場所なのだと感じられた。


 さて、ちなみに、こうして移動しているのは散歩でも、校内探検でもなんでもなく、魔族特有の『ドブ川のヘドロを濃縮して腐った魚と混ぜ合わせたような匂いの魔力』(師匠談)をどうにかするため、とのことだった。


 それにしても『ドブ川』って。

 …もしかして、正体にばれたのはそれが原因なのか?


 「さあ、ここよ。勘付かれないうちにさっさと終わらせましょ。」

 などと余計なことを考えていると、いつの間にか、廊下の突き当りに辿りついたようだ。

 彼女は懐から黒く捻じれた杖を取り出すと、それを左側に設置された石像の目球に突き入れる。すると、正面に指紋認証と光彩認証用のデバイスが現れた。


 それに驚く素振りすら見せず、彼女は慣れた手つきでそれらを操作すると、目の前の壁が折りたたまれるように消え去ってゆき、奥からは石畳の通路が出現した。


 流石、魔術学院。やけに凝ったギミックだ。


 こう目の当たりにすると、絡繰り好きの我が弟フロイトが。

 やけに熱烈に、この学院への進学を希望していた理由がわかってきた気がする。


 .......。

 そういえば、フロイトはあの夜の食卓に居なかった。

 私の死の後も、彼は元気にやっているだろうか。


 「ほら、いくわよ。」

 なんて郷愁に浸っている時間はなかったようだ。

 私がしんみりと物思いにふけている内にも、少女はするりとその通路へ足を踏み入れてしまったらしい。


 置いて行かれてはたまらない。

 私は頭を振って情念を消し去り、急いでそのあとをついていくことにした。


◆◆◆

 「これよ、これ。五千七百十五番。」

 「何ですか?これ。」


 通路の先は広いホールのような場所だった。

 円柱を内側から覗くような作りになっており、壁には大小さまざまな、おびただしい数の引き出しが設置されている。

 もっとも、上の方の棚は頭上高くにありすぎて、何やら白い靄のようなものすらかかっており、全体数はわからない。


 さて、その中でも、彼女がこじ開けた引き出しは小型なもので、その中には赤い緩衝材の上に、金地に黒の腕輪のようなものが保管されていた。


 「魔力量調整装置、ほらさっさと、利き腕じゃない方出しなさい。」


 怪しすぎる…。が、逆らったところでどうすることもできまい。

 私が裾をまくって素直に左腕を差し出すと、少女は説明もそこそこに腕輪を私の手首にはめ込んだ。


 一瞬、ひんやりとした金属の感触がする。

 …特に何も起きない。

 そんな感想を抱いて、首をかしげていると、突如外部との結びつきが弱くなったような緩い圧迫感が私に襲い掛かってきた。


 「正常に動いているようね。」と少女が悶える私を見てウンウンと満足げに頷いている。

 「説明しておくと、この装置はあんたの魔力を貯蔵、浄化し、規定量を出力するっていう機構なの。もしかしたら感じてないかもだけど、だいぶ匂いはましになったわよ。」


 本当か?

 などと疑っている余裕はなかったようだ。


 突如背後から地響きを伴い、何か爆発したかのような轟音が部屋全体を襲ったのである。


◆◆◆コメント◆◆◆


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