第4話後編 魔族に擬態は難しい
[更新]4話前編と一緒になっていた内容ですが、長すぎたので分割しました
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突如背後より響く轟音。
その音に振り返ると、そこには外部からぶち抜かれたような大穴が開いていた。
倉庫の壁面に取り付けられた棚をきれいに避けるように開けられた、大穴からはやや傾き始めた日の光が差し込んできており、倉庫内の埃がキラキラと照らされ、まるで昼夜に輝く星々の様であった。
が、しかし、そんな情緒も瞬く間に私の脳内からは消え失せる。
依然として鳴りやまぬ轟音の正体。
その大穴を開けた飛行物体は、有体に言ってミサイルと呼称するのにふさわしい速度で、なんとこちらへ向かって突っ込んできたのであった。
その距離僅か、百五十。
とっさに、私は防御術式を構築し、多層結界で飛翔体の速度を相殺しようとする。敵の詳細は不明だが、数は一つ。
この程度なら対応も処理も手慣れている。
だが、腕輪のせい何なのか。
魔術回路への接続がうまくいかず、展開が間に合わない。
もたついている間にも飛翔体はこちらへ唸りを上げて迫ってくる。
ぶつかる。死ぬ。
死の真相も、その目的も何もわからないうちに、もう一回死んでしまう。
「いきなり攻撃…らしくないじゃん、ユグラシル先生。」
少女の声と同時に前方から激突の衝撃波。
に遅れて、紫電がはじけるような甲高い破裂音が周囲に響き渡る。
衝突で生じた青白い閃光が薄暗い倉庫を怪しげに照らし、衝突の風圧であちこちの引き出しの黒鉄取っ手がカタカタと音を鳴らし始めた。
その風の発信源は、衝撃波と同じく前方だった。
吹き荒れる風をこらえ、なんとか前を見据えると、そこには私をかばうように立ちふさがる金髪少女と、飛翔体よろしく突撃してきた薄紫髪の幼女の杖が鍔迫り合いよろしく鎬を削っている。
青白い閃光に照らされながら、大胆不敵に笑みを浮かべる少女に、真顔のまま相手を見据える幼女。
飛翔体の正体は幼女だったのだ。
にらみ合いはしばらく続いたが、ふと浮遊していた幼女が力を緩め、ふわりと地面に着地しその小さな口を開いた。
「あら、あなただったの。」と語る謎の幼女。
その瞳は少女と同じ紫で、これまた同様に神印が赤々と浮かび上がっている。
「ええ、授業に必要な素材を取りに来てたんです。」
そういう、ビャクレン師匠の方をみると、彼女もあの一撃の処理に魔力をかなり放出したのか、心なしか幼女よりも赤々と目の神印が輝いていた。
どうやら私は助かったらしい。
◆◆◆
「ふーん、そう。」
そう呟く幼女はどこか神々しい姿だった。
白い翼にひらひらとした衣装は『天女』とも呼ぶべき容貌で、薄い紫の髪は飛天髻とも呼ぶべき髪型にまとめられ、三日月をかたどった簪がいくつもついており、胸元には幾何学模様の入った宝玉のブローチをつけている。
また幼いながらも、顔立ちは整っており、切れ長の眼に眉毛をけぶらせた涼しげな印象が特徴的だった。
しかし、この女性。どこか見覚えがある。
前世のどこかでお会いしたのだろうか。
「魔族の魔力を感じて、飛んできたのだけど、間違いだったかしら?」
と、彼女の口からは見た目通りの可憐な声が飛び出した。
しかし口調は可憐でなく、どこか訝しげな様子をはらんでいる。
さあ、どうしよう。
と云々悩んでいると、隣の金髪少女が拍子抜けした声で、こう切り出した。
「さあ、わかりません。」
どうやら、彼女はすっとぼけることに決めたようだ。
「ひょっとして、さっき消し飛ばした魔族の残滓でもついてたかな?」
「残滓?」
「ええ、学園の結界を破って入試会場近くに侵入してきたんですよ。街中でも半鐘が鳴っていたでしょ?」
「でも、残滓は術式の余波で霧散しないかしら?」
「この私ですよ?拳でヤッたに決まってるじゃないですか。」
幼女の鋭く冷たい指摘におどけた様子で会話を続ける自称師匠。
無謀ともいえる演技を続ける彼女に私は、心の中で敬意の念を送っていた。
だってそうだろう。
『ばれない嘘をつくためには、真実を織り交ぜろ』
これは外交の鉄則であるが、ここまですらすらと嘘を語れるのは才能だ。
おまけに、少女の出まかせは一定程度の成果を生んでいたようで、このやり取りの後、幼女は『ふーん』と納得いかないまでも悩む素振りを見せていた。
もしかしたら、もしかしたらするか?
などと考えたのが悪かったのだろう。
「君、見ない顔だけど。」
幼女はここで、私の存在に気付き、こちらへ鋭い視線を向け、今度は私に尋問を開始してきたのだった。
◆◆◆コメント◆◆◆
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