第54話.マリベルの故郷⑨

「それじゃあ、すぐにでもセルジーニに向かいますか?」

「いや、今から行ったら森を出る前に夜になっちまう。それに、マリベルの母ちゃんが飯を用意してくれるんだろ? せっかくだからご馳走になろうぜ」

「はい。そうでした」


 ティトが頷いた時、ちょうど玄関の扉が開いた。


「ごめんなさいね、お待たせしてしまって。すぐにご飯にしますからね」


 そう言いながら入って来たのは、マリベルの母イレーネだった。手に持ったかごには、大量のキノコが入っているのが見える。


「おかえり、お母さん。私も手伝うね」


 イレーネがキッチンに立つと、マリベルもぱたぱたとそれを追って、イレーネの隣に立つ。二人並んで、狐耳をピコピコ動かしながら料理をしている姿に、ルイスもティトも自然と笑みがこぼれる。


「ルイスさんにティトさん、何から何まですみません。でも、見ての通り小さな村です。たいしたお返しは出来ませんが、よろしいのでしょうか?」

「ああ、問題無い。もともと見返りを期待しているわけじゃないからな。俺達の目的は、最初ハナからパナケアの薬箱だ。それ以外のことは、まあ、そのついでってやつだな」


 イレーネとマリベルには、聞こえないほどの小さな声で、不安そうに話すディアナ。それに対しルイスは、たいして興味が無さそうに、しかしディアナに合わせて小声で返した。


「しかし、薬箱は所持されているんですよね。それならもう私たちを助ける理由は無いのでは……?」

「それは違うぞ、ばあさん。敵は『不老長寿の秘密』を、パナケアの秘宝を欲しているんだ。それは、パナケアの薬箱も例外じゃない。つまり、問題を解決しない限りは俺達も安全じゃないんだ」


 ルイスの言葉を聞いて、ディアナはふっとその目を細める。


「ルイスさんは、お優しいんですね」

「なっ!?」


「お二人になら、孫娘をお任せしてもいいかもしれませんね」

「はっ? いやいやいや。俺達は泥棒だぞ、ばあさん、何言ってんだ?」


 ディアナの言葉に、珍しく動揺するルイス。


「ん? どうしたの? ルイス、そんなに慌てて。ご飯できたよ」

「おわっ!」


 ちょうどこちらに来て、皿を並べようとしていたマリベルに声をかけられる。いきなり声をかけられたことに、ルイスは驚いて、つい声をあげてしまった。


「いや、何でもない。それより、何を食わしてくれるんだ?」

「たっぷりキノコのクリームパスタだよ。ぜったい美味しいんだからね」


 自慢げに胸を反らすマリベルは、可愛らしいエプロンをつけていた。その可愛らしさに、ルイスは一瞬言葉に詰まった。


「お……おう。それは楽しみだな」

「ぜったい二人に美味しいって言わせてあげるんだから」


 なぜか挑戦的な視線を送ってくるマリベルに、ルイスは少しだけ気圧される。


「マリベル。何しているの。早く運んじゃいなさい」

「はーい」


 イレーネに呼ばれたマリベルがぱたぱたとキッチンへと戻っていく。そして、ほどなくして、テーブルに料理が並べられた。




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 🔸マリベルの手料理。美味しく出来たかな?

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