第55話.マリベルの故郷⑩

 テーブルの上に並ぶ料理は3品もあった。

 まずは、マリベルが言っていた『たっぷりキノコのクリームパスタ』。しいたけ、しめじ、エリンギなど様々なキノコと黄色っぽい細い麺に、ホワイトソースが絡んでいる。ホワイトソースからは、濃厚なチーズの香りが立ちのぼる。


 二品目は、焼き野菜の盛り合わせ。

 大皿には、様々な焼いた野菜とキノコが無造作に並べられている。しいたけ、エリンギ、人参やカブ、じゃがいものスライスなどもあった。

 荒く削られた岩塩が小皿で各自に配られているところを見ると、この岩塩をつけて食べるのだろう。


 そして、最後の三品目は骨付き肉を焼いたものだった。

 なんの肉かは分からなかったが、肋骨のような細い骨がついた厚さ1~2センチほどの肉で、ほどよい脂と焼き色がついている。


「ルイス、ティト、お待たせ。さあ食べてみて」


 料理を並べ終えたマリベルは、ルイスとティトの向かい側に腰を下ろした。イレーネも隣の席につく。


「「いただきます」」


 お腹が減っていたこともあり、ルイスとティトは競うようにそう言うと、木製のフォークを手に持った。

 クリームパスタをフォークに巻いて口に放り込む。

 濃厚なチーズの香りが口いっぱいに広がる。同時になめらかなホワイトソースのコクと風味を感じた。麺を噛めば、ほどよい硬さと弾力が心地よく、ホワイトソースの風味が口の中を蹂躙する。


「うまい!」

「美味しい!」


 ルイスとティトは、同時に顔をあげた。不安そうに二人が食べる姿を見ていたマリベルは、花が咲いたような笑顔を浮かべる。


「でしょ? それ私が作ったんだよ」

「ほぉ、それはすごいな」

「うんうん。マリベルは料理上手ですね」


 ルイスとティトに褒められて、嬉しそうに笑顔を浮かべるマリベル。だが、隣のイレーネが口元に笑みを浮かべながら口を開いた。


「マリベル。あんた、パスタ茹でただけでしょうが」

「もう、お母さん! それは言っちゃダメでしょ」


 マリベルは頬を膨らませてイレーネに抗議するが、イレーネはそれを笑って取り合わない。


「ぷっ」

「あははは」


 そんなマリベルを見てルイスとティトが吹き出した。それでも、ここ数日で一番自然な笑顔を見せるマリベルに二人は目を細めた。


「お肉も野菜も召し上がってくださいね」


 イレーネにうながされて、ルイスは骨付き肉に手を伸ばした。

 骨の部分を持ち、小皿に盛られた岩塩を少しだけかけて、肉にかぶりつく。香ばしく焼かれた肉の味と、脂の旨味が口に広がる。


「おう。これもまた、旨いな。ティト、食ってみろよ」

「はい、兄さん。こっちの野菜もおいしいですよ」


 ルイスは、ティトに言われるまま野菜の皿にも手を伸ばした。

 焼きシイタケにフォークを突き刺し、岩塩を少しつけて口に入れる。岩塩の味が、シイタケの旨味を引き出す。


「ほぉ、これも旨いな」

「でしょ! こっちの肉も美味しいですね」


 二人で顔を見合わせると、またパスタの中にフォークを突っ込んだ。




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 🔸パスタ茹でただけって。マリベル、

  それは、君が作ったとは言えない。

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