第31話.マリベルの買い物③

「そう言えばティト、私お金持ってないけど……」


 宿を出た二人は、中央通りに向かって歩いていた。街はずれにある宿からは中央通りまで、それなりに距離がある。

 歩きながら、マリベルは遠慮がちにティトに声をかけた。


「あ、それなら大丈夫です。僕がそれなりに持っていますし、兄さんからは、必要なだけ使っていいと言われています」


 ティトは歩くペースはそのままにチラッとマリベルのほうに視線を向けてから答えた。


「でも、村まで行ってもらっても、二人に何もお返しできないかも」

「そんなの大丈夫ですよ。何かお返しを期待してやっているわけじゃないですし。必ず、杖を取り返して、村まで送っていきますから」

「そう……? でも、なんだか悪いわね」


 マリベルは申し訳なさそうにティトの顔色を窺う。

 ティトは少し困ったような顔をして、何か考えているようだったが、やがて躊躇ためらいがちに口を開いた。


「……僕たちは、貴族の悪事あくじが許せないんです。貴族につかえていた父は、いわれのない罪を着せられて、不名誉な中で処刑されました。父の死が耐えられなかったのでしょう。その後すぐに、母も父を追うように亡くなりました」


 悔しそうに言うティトの話をマリベルは黙って聞いていた。


「そんな理由わけもあって、僕たちは悪い貴族からしか盗まない怪盗なんてのをやっているんです。仕返しってわけでもないんですけどね。だからこそ、貴族のせいで苦しんでいたマリベルは見過ごせなかったんです」


「そう……ルイスもティトもつらい思いをしてきたのね。ごめんね、思い出させちゃって」

「いえ、気にしないでください。僕には兄さんがいますから大丈夫です」


 マリベルの気遣うような視線を、ティトは笑って見かえした。

 

「そういうわけで、マリベルを助けたのは僕たちが、やりたくてやったことです。だから、マリベルが気にする必要は、これっぽっちもありませんよ」


「……そう? ありがとう。じゃ、甘えちゃおうかな」


 マリベルは少し考えた後に、顔をあげる。

 そして両手を後ろで組んで、くるっと体ごとティトのほうへ向くと、そう言って笑顔を浮かべた。

 その笑顔に、またもやティトは言葉を失ってしまう。




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 🔸ティト、また尻尾がピンってしてるよ!?

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