第5話.狐耳の少女とルイス・ナバーロ②

「よし、そうと決まれば、まずはそいつを外さねぇとな」


 そう言うルイスの視線の先には、少女にはめられた首輪とそれを繋ぐ鎖があった。


「あっ、これ……」


 少女は、自分の首に巻かれたその首輪に触りながら、悲しそうに目を伏せる。そんな少女に近づきながら、ルイスは先ほど見張りから奪った鍵束を取りだして、ニヤリと口の端をあげた。


「大丈夫だ。これがある」


 鍵束から首輪に合いそうな鍵を探すが、けっきょく合う鍵は見つからなかった。


「ちっ、こいつに合う鍵がねぇな」

「えっ……じゃあ?」


 途端にがっかりした顔になる少女を前に、ルイスは2本の細い鉄棒を取りだした。裏口の鍵を開けたピッキング用のものだ。


「泥棒を舐めてもらっちゃぁ困るぜ。鍵開かぎあけなんざ泥棒にとっては朝飯前だ」


 そう言いながら2本の鉄棒を少女の首輪についている錠前じょうまえに差し込んだ。探るように少し動かしただけで、カチャリという音と共に錠前じょうまえがはずれる。


「わっ!」

「なっ。言った通りだろ」


 少女が驚きの声をあげると、ルイスは得意げに笑った。


「すごい! 泥棒さん、すごいよ!」

「ふっ、まかせておけ。それと、俺はルイスだ。そう呼んでくれると嬉しい」

「はい。ルイスさん。わたし、マリベルと言います」


 マリベルはそう言うと右手を差し出してきた。それをルイスは握り返す。


「ルイスでいいよ。さんけはくすぐったい」

「はい、ルイス。不束者ふつつかものですが、よろしくお願いします」


 マリベルは手を握ったまま、ルイスに頭をさげる。そんなマリベルにルイスは吹き出してしまった。


「ぷっ。なんだその言い方? まあ、いいか。こちらこそよろしくな」


 ルイスが吹き出したのにつられて、マリベルも相好を崩す。その表情はとても可愛らしく、ルイスは一瞬、その顔に目を奪われていた。




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🔸不束者ふつつかものって……普通、言わないよね

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