第2話.狐耳の少女と『パナケアの杖』②

「トビアス? ねぇ、トビアス!?」

「は、はいっ……」


 反応のないトビアスにイザベラが少し声のトーンをあげた。すると、ようやくトビアスはハッとしたように返事をする。

 そんなトビアスに、イザベラはもう一度、期待に目を輝かせながら顔を近づけた。トビアスは耳まで真っ赤にさせて、しどろもどろになってしまう。


「ねぇ、トビアス。薬の効果はどうかしら?」

「そのぉ……、とても、とてもお綺麗です! イザベラ様」

「そういうことじゃなくて……もう、いいわ。トビアス、鏡を持ってらっしゃい」

「はい!」


 イザベラの諦めの混ざった声にも気付かず、トビアスは勢いよく返事をして部屋を出て行った。

 そして、すぐに大きめの手鏡てかがみを持って戻ってくる。


 イザベラはトビアスから手鏡を受け取ると、それを覗き込んだ。その瞬間、イザベラは花が咲いたように、ぱぁっと笑顔を浮かべる。


「すごい、すごいわよ。しわが消えているわ。それに、お肌もしっとりしていて張りもあって、まるで十代に戻ったみたい」


 そのあともイザベラは、何度も手鏡を覗き込んでは、うっとりすることを繰り返していた。


 しばらくそうしていたイザベラだが、やがて鏡から目を離す。

 そしてトビアスのほうへと視線を送り、彼の耳元に顔を近づけると、甘えるような声でささやく。


「ねぇ、トビアス。もっとぉ、もっとさっきの薬が欲しいわ」

「は……はい。……かしこまりました。イザベラ様」


 イザベラの吐息がトビアスの耳にかかり、彼は恍惚こうこつとした表情を浮かべる。そして返事をすると、少女のほうへと向き直った。


 少女へと向けたその目は、先ほどのゆるんだトビアスからは想像できないほどに冷たい。そして、杖を少女に突きつける。


「おい、小娘。もう一度、を作れ」

「無理よ! あれは、そう何度もできるものじゃないわ」


 杖を突きつけられた狐耳の少女は、トビアスを睨みつけて反抗的な態度を見せる。その態度が気に入らなかったのだろう。


「何だと!? 貴様、自分の立場が分かっているのか?」

「きゃあっ」


 トビアスは怒気をあらわにすると、怒鳴りながら少女にむちを振った。ビシッという音と少女の悲鳴が部屋に響く。


「はーやーくー、つべこべ言わずにやるんだよっ!」


 立て続けに、鞭の音が響き、そのたびに少女は背中を大きく仰け反らせた。少女の背中には、赤い血が滲んでいる。


「分かった……。分かったから、お願い。叩かないで」


 少女は怯えながら、諦めた目で、トビアスから杖を受け取った。




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🔸トビアスの態度にイラっとする!?

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