怪盗ナバーロと『パナケアの3つの秘宝』

ふむふむ

1.怪盗ナバーロと狐耳の少女

第1話.狐耳の少女と『パナケアの杖』①

 天窓てんまどから射し込む青白い月の光が、まるでスポットライトのようにの少女を照らし出す。


 メルゼベルク伯爵の屋敷。その最上階は、広いパーティールームになっていた。

 その真ん中に静かにたたずむ少女は、いきどおりを感じさせるその瞳で、丸い月を見上げる。



 肩で揃えられた黄金色こがねいろの髪がきらきらと輝き、そのうえには大きな三角のがぴょこんと揺れる。

 白地に水色の縁取ふちどりがあるゆったりとした上着に、水色のロングスカートを履いて、腰のあたりからは、ボリュームのある黄金色こがねいろが広がっていた。


 その特徴から、彼女が狐獣人ルナールという種族の娘だと分かる。獣人の中で、唯一魔法にけた種族。




 その少女の手には、魔法使いが持つような大きな杖が握られていた。


 その杖は、少女の身長と同じくらいの長さで、上部には青く透明な水晶がめられていた。

 その水晶を、水面に広がる波紋のように三重の輪が囲む。そのすぐ下には、小さなガラス瓶がはめ込まれていた。

 ガラス瓶の下には鈍色にびいろの金属棒が伸びていて、その先は不規則な凹凸おうとつになっている。

 それは見ようによっては大きな鍵のようでもあった。




 月明かりを浴びて狐獣人ルナールの少女は、大きく息を吸いこむ。

 そして、鈴の音のような美しい声で歌い始めた。



 ―― いやしの神の、御座おわします ――



 少女は歌いながら、杖を持って舞う。


 両手で杖を水平に持つと、こうべを垂れながら杖をゆっくりと頭上に持ち上げる。一番高いところまで持ち上げると、シャランと澄んだ鈴の音がホールに響いた。



 ―― 外界げかいへだたる、楽園の ――



 右回りに一回転。スカートがふわりと広がる。

 そこから、先ほどと同じように両手で杖を水平に持ち、ゆっくりと頭上へ掲げた。再びシャランと澄んだ音色ねいろが響く。



 ―― 秘めた入り口いりぐちしめす ――



 少女は杖の下部を右手で持つと、その手をいっぱいに伸ばし、杖を斜め下へと向ける。そこから、ゆっくりと右方向に2回転。回りながら杖を少しずつ斜め上へと上げていく。


 杖の先にある水晶からは、青白い光の粒子が流れ出て、ふわりと広がる水色のスカートへと降り注いだ。



 ―― 三種の神器じんぎ、かさなりて ――



 杖の持ち手を左手に変え、今度はゆっくりと左回転。回りながら杖は斜め上から斜め下へとゆっくり下げていく。

 くるくると回る少女。

 杖からあふれる青白い光の粒子は、さらに量を増していった。



 ―― いずれ戻らん、神のもと ――



 杖を両手で持って水晶部分を斜め上へと掲げながら、今度は右へと2回転。

 回転に合わせて広がる水色のスカートが光の粒子を受けて、水面の様にきらきらと輝く。


 そして、最後は光り輝く水晶をいただくように上へとかかげ、静かに止まる。


 いまや水晶の青白い光は、月の光よりも眩しく輝いている。それは、液体のように水晶の表面を滑り落ち、下に設置されている小さなガラス瓶へと溜まっていった。




「あぁ、それがなのね」


 うっとりとした声が少女の背後からあがった。


「さあ、それを渡してちょうだい」


 少し離れた場所に立つ4人の男女。

 声をあげたのは、4人の中で唯一の女性。この館のあるじであるメルゼベルク伯爵の妻。イザベラ・メルゼベルクだった。

 

 咲き誇る薔薇のような赤く美しい髪。

 切れ長の目は、少しだけ冷たい印象を与えるものの、髪の色に似たルベライトの瞳は、宝石の様に輝いている。その瞳に、長く形の良いまつげが影を落とす。

 張りとうるおいのある肌。そして、ぷっくりとした厚みのある唇は、髪を同じ薔薇のようなべにをさし、リップグロスのツヤと光沢によりなまめかしい色香を放っていた。


 その美貌は国中の噂となり、かつては赤薔薇の姫ローテローゼなどと呼ばれるほどであった。


 イザベラの声に、彼女の左にいた黒い執事服の男が動く。名はトビアス。イザベラ専属の執事だ。


「その杖をよこせ」


 トビアスは、少女に近づくと乱暴に杖を取り上げた。そして、そっとガラス瓶をはずすと、イザベラの元へと戻ってくる。

 うやうやしい態度で膝をつき、その小瓶をイザベラに差し出した。


「イザベラ様、こちらを……」


 イザベラは、小瓶を受け取ると、しばらくその青白く輝く液体を、うっとりとした表情かおで見つめていた。

 それから、ゆっくりと口元に持って行き、一息で飲み干した。


 その直後、イザベラの体はうっすらと青白い光に包まれる。


「どうかしら?」


 唇に残った光の粒子を、ねっとりと舌を動かして舐め取ると、目の前にいるトビアスに向かって声をかける。


 トビアスはというと、口をぽかんと半開きにしたまま、そんなイザベラに見惚れてしまっていた。




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