第3話.狐耳の少女と『パナケアの杖』③

 少女は杖を支えによろよろと立ち上がる。


っ」


 立ち上がった時、背中の傷が痛んだのか、少し顔をしかめた。

 トビアスが鞭を振り上げる。


 少女は、慌てて杖を構えた。

 そして大きく息を吸いこむと、先ほどと同じように歌いながら舞う。だが、先ほどの様に水晶が光ることはなかった。


 当然、は一滴も出来ない。


「このっ! おまえ、ふざけてんのか!?」


 トビアスが怒鳴り、そして鞭を振りかぶった。少女は、小さな悲鳴をあげて身を縮める。ビシッという音が響き、少女がる。


「無理なの。どれだけ頑張っても薬が出来るのは1日1回が限界なの。それ以上は何度やっても成功しないのよ」


 少女は涙を流しながら訴える。


「フォルクス。それは本当なの?」


 イザベラは少女にではなく、そばに控える黒いローブを着た男に向かって聞いた。


 いや、男なのかも、その外見からは分からない。

 身長は140センチに満たないほど小柄で、腰がまがっており、古い木の杖をついていた。

 室内だと言うのに、まっ黒なフード付きのローブを着ていて、しかも、フードを目深まぶかに被っている。そのため、その表情は伺い知ることが出来なかった。


「しっしっしっ。どうやら本当のようじゃ。今は、パナケアの杖からも、その娘からもほとんど魔力が感じられん。先ほどの1回で使い切ってしまったようじゃの。その娘が言うように今、霊薬を作るのは無理じゃろうて」


 フォルクスは、昏く耳にざらつくような声でそう言った。

 

「そう……。それなら、仕方ないわね。今日は諦めて明日もう一度お願いしましょう。トビアス、そのを部屋に連れて行ってあげて」


 イザベラは残念そうに言うと、少女に視線を向ける。言葉こそ穏やかだが、その目と口調は冷たかった。


 トビアスは少女に首輪をつけると、そこに鎖を繋いだ。


「さあ、行くぞ」


 そう冷たく言うと、トビアスはまるで囚人を連行するように少女を連れて行く。






 その様子を天井にある明り取りの窓からじっと窺っている者がいた。




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🔸窓からのぞく者は誰?

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