占い

「〇〇さんってさあ、占い信じる人?」


 客足もまばらな19時30分。バイト先の先輩は、カウンターの後ろで読んでいた占い雑誌から突然顔を上げる。

 前も同じことを聞かれたなと思いつつ、私は正直に答える。


「あんまり信じませんよ。恋愛にきゃっきゃしてる時ならともかく、今は別に。今は恋愛とかどうでもいいですし」

「あー、前もそんなこと言ってたね」

「…どうかしました?」


 いつもならうざったいくらいにおしゃべりな人なのに、今日の先輩はやけに静かだった。

 何かあったのか?そんな私の推測はどうやら当たっていたようで、先輩は物憂げな表情をしたまま口を開いた。


「彼氏と別れようかなーって」


 先輩の彼氏。直接会ったことはないけれど、先輩がよく写真を見せてくるから顔は知っている。何度も聞かされた幸せエピソードに少々うんざりしていたのは否定しないが、お幸せそうならそれでいいかとある意味諦めていたくらいだ。

 それくらいには、二人は安泰であるように見えたというのに。


「なんでまた」

「私、大事な人には傍にいてほしいタイプなんだよね。だからまあ、遠距離とか無理かなって。ほら、占いにもそう書いてある」

「へえ」

「あとはまあ…ちょっと電話先で喧嘩しちゃって。元からちょっと冷めかけてたのもあってもう無理ってなったのかな」


 確か、先輩の彼氏は一年ほど前に地元に帰ったと言っていた。どこかまでは聞いていないが、おそらく気軽に行ける距離ではないのだろう。「大事な人には傍にいてほしいタイプ」な先輩には、中々にもどかしい関係性だったに違いない。

「別れたい」という意思は既に伝えているらしいが、彼氏からは「君が決めて」と言われたそうだ。お互い冷めてしまっているなら占いなんか頼らずに別れてしまえばいいのにと思うが、そう思うのは私が当事者でないからか。

 きっぱり割り切れないのが、人間なのだろうし。


「まあ、じっくり考えてみたらどうですか。お二人の問題ですし」

「相変わらずドライだよねえ、良い意味で」


 正直、私には分からない。占いを信じる人の気持ちも、家族でもない恋人たにんにいつも傍にいてほしいという感覚も。

 分からないし、無理に分かろうとも思わないけれど、どうせ私にとやかく言う権利はないのだ。


「褒めてないですよね、それ」

「とりあえず、時間あるし考えてみる」

「はい、そうしてください」


 先輩が納得のいく選択をできますように。

 今ばかりは、素直にそう願う。

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