バスに揺られて
乗り物に揺られるというのが、案外好きなようだ。
電車も悪くないが、最近はバスを利用することの方が圧倒的に多い。整理券を取り、空いている座席に腰を下ろす。そうしたらあとはもう、移りゆく窓の外を眺めながら、心地よい揺れと音に体を預けるだけだ。
時折不快な揺れや圧迫感を感じることもあるが、乗客の少ない時間と場所を選びさえすれば、基本的にはゆったりとした時間を過ごすことができるだろう。
乗り物に揺られる。ただそれだけの時間だが、そこから見える景色は日毎に異なる。
天気や時間の違い、他の乗客の顔ぶれや服装等々。挙げていけばキリがないが、この空間が「完全に」同じものになることは決してない。
時には小さな差異しか見つけられない日もあるが、それもまた、この趣味とも言えない時間の楽しみと言える。
外を眺めることに飽きれば、別のことをすればいい。
私ならば、他の乗客の観察をしたり(勿論、訴えられたりしない程度にだが)、ぼんやり考えごとをしたりという感じだろうか。
そんなことをしながら、時々考えることがある。
このまま、どこか知らない場所まで連れていってもらおうか。このまま何も考えずにバスに揺られ、何も知らない地に身一つで降り立つ。そんなことも、時には悪くないのではないだろうか─と。
でも、そこは現代日本人の
私には、帰る場所がある。また明日も、行かねばならない場所がある。何処とも知れぬ場所を訪れる暇は、今の私にはない。
だから、私は今日も降車ボタンを押す。
いつもの時間に、この場所で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます