大事なところでの重い一撃
5日目の品評会が終わるまでは初日と似たような日々を過ごしていた。父に色んな部門の見学に連れていかれたが、体を乗っ取られることは殆どなく穏やかな日々。家にいる時は毎日走らされていたし、この国に来てよかったかもしれないな。
「会長、ソアお坊ちゃま。ネムという少女とその保護者を名乗る女性がお2人にお会いしたいと訪ねてきておりますが、いかがなさいますか。」
5日目の品評会が終わった後、これから宿でゆっくりしようとしていたところに商会の従業員からそんな報告が入った。
ネムとは、初日の品評会で最後に料理を発表していた茶髪の少女である。なんと女皇とかかわりがあるらしく、あまりお近づきになりたくない相手であるが、初日に貰ったケーキはとても美味しかった。お礼は言っておきたい。
「帰り道で遭遇した少女か。あのケーキは絶品だったな。ぜひとも会っておきたい。」
父も会うのに乗り気なようだ。前回貰ったケーキは父にも分けた。半分分けたのだけれど、食べたあとに多くあげすぎたと後悔した。あげるのは三分の一、いや、五分の一にしとけばよかった。
でも、どうしてこの宿にいることがわかったのだろうか?
父も同じことを疑問に思っているようだが、とりあえず宿のロビーで会うことになった。
「急に訪ねてしまい申し訳ありません。私はネムの保護者のナミと申します。」
「こんにちは、元気?」
ネムの保護者を名乗る黒髪の女性が挨拶をし、それに続いてネムがフランクな挨拶をした。母ではなく保護者と名乗ったが、どういう関係なんだろうな。整った顔立ちのネムに対して、このナミという女性の容姿はすごく平凡で印象に残りにくい。
俺たちも自己紹介を返した後、まずは父が口を開いた。
「お嬢さん。最優秀賞をとったそうじゃないか。おめでとう。」
初耳である。それに父は今日は俺と一緒に別の部門の会場にいた筈だ。たまたまどこかで耳にしたのか、それとも一流の商人とはこういうものなんだろうか?
「ありがとう。」
ネムは簡潔にお礼を言った。あまり言葉数が多い方ではないのかもしれない。
「とても素晴らしいケーキだったから当然の結果ともいえるだろうな。ところで今日はどういったご用件で?」
父がナミと名乗る女性に早速本題を聞いた。
「実は、私が仕えている主人からお二人に招待状を渡すように頼まれていまして。」
女性はそういうと手紙を取り出して父に差し出した。
ネムの保護者の主人?皇国の人だろうか?
父は手紙を確認すると少し驚いた顔をした。
「閉会式の招待状か。ナミさんは随分な方に仕えているようだな。」
品評会の開会式は偉い人に招待されるか高いチケットを買わなければ見ることができないと聞いたことがある。閉会式もそうなのだろうか。閉会式なんて参加したくないんだけどなー。
「そうですね。それがあれば貴賓席に入れるとても重要なものなので無くさないようにお願いします。最悪、物理的に何人かの首が飛ぶ事態になりかねませんので。」
え?普通の招待状じゃないの?
もしかしてなんかやばいことに巻き込まれてるんだろうか。
急に来た厄介ごとにパニックを起こしていると、体の制御権が奪われるのを感じた。なんだってこんな時に!
「ナミさん、仕えているお方に『大樹の誕生を祝う特別な日にあなた様にお会いできること、心より楽しみにしております。』とお伝えください。」
「おい、ソア。何を言ってるんだ?」
おい、俺。何を言ってるんだ?
「ふふ、わかりました。しっかりとお伝えさせていただきます。」
ナミさんは
子供のおふざけだと受け流しただけで本当に伝えたりしないよね?・・・なんか嫌な予感がしてきた。
それからしばらく会話して、二人は帰っていった。ナミさんは仕えている人の身分も俺たちが招待された理由も特に明かしてくれなかった。
はあああ、このスキル、最近おとなしいと思ったら大事なところで奇行をかましやがった。
・・・もし閉会式の貴賓室で体が乗っ取られたりすれば処刑される可能性だってあるのでは?
ネムが今日もケーキを持ってきてくれていたのだけが心の救いである。死ぬ前に全力で味わおう。
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