やっぱり護衛は

あの恐怖の招待状を受けとった翌日、俺は家具部門の審査会場に来ていた。


品評会は本日から部門別の審査に移る。各カテゴリの審査で優秀賞以上を受賞した商品が再度審査され、そのなかで特に優れた商品が決められる。

この審査からは、審査員に貴族やギルドの長などの有力者が加わる。もし出品した商品が選ばれなくても、審査員の誰かの目に留まれば、お抱えになったり大口の取引ができる可能性は十分にある。夢のある話だ。


「エントリーNo.5。続いての商品は椅子カテゴリの最優秀賞。マッサージ機能付きリクライニングチェア。風魔法の魔道具であり、ずっと座っても疲れないどころかむしろ元気になると評判の逸品です。出品者は・・・」


すごく気になる商品だ。ぜひとも手に入れたい。


だというのに現在、スキルに操られた体は会場の外へと向かっていた。


「坊ちゃん、どこに行くんですか?」


心配してついてきているダンがそう聞いてくるが、むしろ俺も教えてほしい。


「ダン!ちょっと走るぞ。」


「え、ちょっと、速っ!待ってくだせえ!」


会場の外に出て急に走り出した俺を、ダンは驚きつつも追いかけてくる、が少しずつ離されていく。


どうすんだよこれ。昨日からこのクソスキル、わんぱくすぎるだろう。


しばらく走った後、俺は路地裏の細い道へと向かった。


前方に見えるのは以前孤児院で会った足の速い少年とそれを追いかける大人が2人。そういえばあの少年、前にも泥棒だとかいって追われていたな。


俺の体はどんどん3人に追いつき、走っている大人のうち一人に飛び蹴りをかました。


「ぐえっ」


飛び蹴りをかまされた男はカエルのような声を上げ、ズドンと音を立てて斜め前方にあったゴミ袋に突っ込んでいった。


・・・うわー、なんか思ったより吹っ飛んだなあ。今蹴った相手は決して小柄ではなく、なんならちょっと太っている。9歳にしては体重が軽い筈の俺の飛び蹴りでこんな風にふっ飛ぶなんて、一体どうなっているんだろうか?


「おい、何者だ?」


もう一人の痩せた男が怖い声でそう聞きながら迫ってくる。しかし、俺の体はひらりとかわしながら男を追い抜き、少年と並んで一緒に走り出した。



「お前、なんでここに?」


そう聞いてくる少年を無視してスキルに操られている俺は大声を上げた。


「ダン!こっちだ!急げ!」


ダンは声の届く場所にいるのだろうか?振り返ると派手に蹴っ飛ばしたはずの男はもう起き上がっておりこっちに向かって駆け出していた。


「クソガキどもが!絶対にぶっ殺してやる!」


叫ぶ余力もあるようだ。それでも俺たちの方が足は速い、体力さえ持てば無事に逃げ切れるだろう。



そう思っていたのだが、俺たちの前に現れたのは行き止まりだった。


「ふへへへ、ついに追い詰めたぜ。楽には死なせてやらねえからな。」


さっき蹴っ飛ばされた少し小太りの男がニヤニヤとしながらそう言って距離を詰めてくる。


「おい、油断するな。こっちのガキは戦えるかもしれないぞ。」


もう一人の瘦せた男が冷静に諫める。


「お、おい、お前戦えるのか?」


少年は不安そうな目で俺に聞いてくるが、残念ながら戦えな・・・なんで首を縦に振っているんだ俺?戦えるのか?


俺の体は少年をかばう形で二人の前に立った。二人の目に警戒の色が浮かぶ。


俺はそれらしい構えをし、二人を睨みつける。【威圧】スキルが効いたのかしばらくの間膠着状態になったが、やがて小太りの方が我慢できずに動き出した。


俺の体はそれに対して華麗に反撃、なんてことはせずに後ろ方向に大きく跳躍して、少年の隣まで下がった。やっぱり戦えないじゃないか!


相手もそう思ったのか今度は痩せた方も一緒に突っ込んでいる。痩せた方は手にナイフを持ってさっさと殺しに来ているようだ。幸か不幸か痩せた方が突っ込む先は俺ではなく孤児院の少年だが、俺の方には小太りが迫っている。


いよいよナイフが少年を貫くか、というときに痩せた方の体が急に停止し、横にそれた。なにがあったんだろう?


俺もなんとかでかい方の男の拳を避ける。この男が持っているスキルの影響なのか、ただのパンチにしてはすごい風圧だ。当たれば死ぬかもしれないな。この男、さっき楽には死なせてやらないとか言ってなかったっけ?


避けられるのは想定済みだったのか、でかい方の男は逆の手で次の一撃を繰り出そうとし、



「痛え!」


なぜか次の瞬間足を切られ蹲っていた。




「坊ちゃん、遅くなりました。」


聞きなれた声が耳に届き少しホッとする。ダンがなんとか追いついてくれたのだ。


ダンは瘦せた方の男と向き合う。男の足元にはナイフが落ちていた。なぜさっきこの男が急に停止したのか疑問に思ったが、ダンがとっさにナイフを投げて動きを止めてくれていたらしい。これがなければどうなっていたか。



「チッ、次から次へと邪魔が入りやがって。」


瘦せた方の男はそう言いながらも油断なくダンを見ている。



しかし、勝負は一瞬だった。



ダンが動き出したかと思えば次の瞬間には男は足を切られていた。

何が起こったんだ?ダンってもしかして思っていたよりすごいのか?



今思えば護衛がおっさんだからとがっかりして申し訳なかったな。やっぱり護衛はおっさんに限る!(極端)



ところで、これからどうしようか?面倒なことにならないといいのだけれど・・・。











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